SCENE12 一歩前へ踏み出して SIDE 別部隊長:ニセタ
リタの背後から振り下ろされる刃を、僕はただ立ち尽くして眺めていた。
だめだ、間に合わない−
そう悟った途端、目の前に光が現れた。
比喩ではなく、本当に光が舞ったのだ。
僕の叫びを、SOSを、キャッチしてくれたみたいに。
カーンと金属のぶつかる音が響いて、黒い影が倒れる音によってその高々な余韻はかき消された。
「遅くなってすまない。大丈夫…ではなさそうだよな。
全くロベルトの人づかいの荒さには感服するよ。セネンの調子がよくないから代理で、と聞いたから来たというのに、まさか主要戦力ふたりの警護が初仕事になるとは。
アデラに無理を聞いてもらえてよかったよ、本当に。」
「ロメルさん…!」
「再会を喜ぶのは後にしよう。まずはセルピエンテの首を取る。戦はあまり長引かせたくないからな。」
「そうだ、あ、でも…」
ちら、と横に目をやる。
隣にいるリタの手は震えていた。
「ご、ごめん、あたし…」
気づかなかった、と縮こまるリタがやけに小さな少女に見えた。
「殺すのが恐いのか、リタ嬢。」
ロメルさんは戦場に似合わない優しい声で問いかける。
「ちがう、恐くなんて…!」
「僕は、最初恐かった。殺すということは、命あるものの生を、将来を奪うこと。
ここでは当たり前に行われている殺人も、根本的には犯罪だ。内乱に絶えない歴史を持つこの国においては日常茶飯事でも、法律で赦された行為にはならない。そして僕は戦争でさえ、正当な殺し合いになるとは思っていない。戦争は、殺人罪を隠すためのクロスだから。
いつだって、慣れたことはないよ。いや、きっと慣れてはいけないんだ。」
僕達が話し込む隙を狙って襲ってくる敵を軽々しく倒しながら、彼はつづけた。
「例えば今こうして殺したあの兵。もしかしたら家で妻子が待っていたのかもしれないな。大切な人のために金を稼ごうとここに来ていたのかもしれない。
そう思ったことも、いったい何度あったのだろうか。」
並べられる言葉は、まるでロメルさん自身の考えを整理しているみたいだった。
僕達は黙って彼の独白に耳を傾けるしかなかった。
この人の想いを汲むには、それしかできない気がした。
「ここは戦場だ。騎士たるもの、自分の信じた正義のために戦うのが最低限の心構え。
真っ向からお互いの信条や正義をぶつけ合って力量差で相手を伏せていくのが、僕たちの仕事で、生業だろう?手を抜くなど、本気でぶつかってきた相手に対して失礼だ。」
血濡れた剣をもって、ロメルさんは清々しい顔をしていた。
真っ直ぐ立って、正面を見据えて、堂々と。
夜闇の中で輝く100年に一度の光属性の持ち主の姿は、まさに勇者の名を冠した人のもので。
夜なのに、太陽に勝る眩しさを纏っていた。




