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エスクードは、彼は下からあたしたちを突き上げることで庇ったのだ。
地面に音を立てて落ちた彼と飛馬の姿に、状況が呑み込めなかった。
呑み込みたくなかった。
それでも本能的に感じる莫大な喪失感がそれを物語っていた。
彼の口がわずかに動いて言葉を紡いだかと思えば、目と共に固く静かに閉ざされた。
彼は死んだのだ。
自分をかばって。
どこかで獣の慟哭のような音が聞こえた。
しばらく経って、それが自分のものであると他人事のように理解した。
口からは乾いた笑いしか出ない。
なぜ、自分は笑っているのだろう。
なぜ泣いてすらいないんだろう。
許せなかった。
自分が、ドラゴンが、この世の全てが。
怒りに任せて剣を振るい続けた。
それ以外どうしようもなかった。
*
後日の父の話によると、あたしは暴走状態に陥っていたらしい。
ドラゴンを倒してもMPが切れてもなお魔術と魔法を行使し続け、命の危険があったため、父があたしを力技で昏倒させたそうだ。
父はあたしの暴走をギルド統合マスターの権力で隠蔽したと言っていた。
初めてまともに父親に怒られたその時も、あたしにはそこまで深い恐怖は抱けなかった。
代わりに徐々に私を襲ったのは途方もない空虚感。
もう追うものがなくなってしまった虚しさ。
『人の死』というものの恐ろしさと重さ。
以来、あたしは生き物が殺せなくなった。
一心不乱に稽古を重ねても彼の面影に近づく自分が見えなくて、体が壊れるまで訓練を重ねた。
いくつものダンジョンをこなした。
しかし誰かを身を挺して守れるほど、命を懸けるほど、自分が強くなれた気がしなかった。
やれ剣のLvが100だの、フィジカルが100だの言われても、いつしか自分が追いかける存在から追いかけられる存在に変わっても、その空虚感が消えることはなかった。
あたしには一生、エスクードを超える日は来ないのだ。
いつか絶対勝つと誓ったのに。
それまで何度でも手合いをするって約束してくれたのに。
…ずるいよ。
勝ち逃げなんて、ずるいよ、エスクード。
あんたの最後の言葉のせいで、あたしはもう逃げられなくなってしまった。
まじないみたいに頭にこびりついて、離れない言葉。
『生きてくれていて、よかった。勝つんだよ、絶対。』




