SCENE11 淡く、脆く、それでも強く SIDE 剣士:リタ
あたしには憧れの人がいた。
その人は明るくて、優しくて、どんな魔物だってやっつけちゃうくらい強くって。
ずっと、あたしの目標だった。大好きだった。
彼はある日突然姿を消した。
忘れもしない、あの14歳の夏。
*
あたしは父と彼と一緒にダンジョンに出ていた。
夏まっただなかの日で、王都を外れた山の中では照り返しもひどく、暑いのが苦手なあたしはずっと不満ばかり言っていた。
その日の獲物はA級のドラゴン。なかなか大きい個体だった気がする。
彼―エスクードは隣国シャエットから渡ってきた流浪の冒険者でギルド本部でも最強を名乗れる腕前だった。子供の頃から、何度手合いをしても勝てなかった。彼が初めて手を抜かずに打ち合ってくれた時は、真剣勝負をしてくれた時は、すごく嬉しかった。それでも勝てない存在をただがむしゃらに追いかける日々だった。
ドラゴンは案外、すぐに見つかった。
大きい個体だから見つけるのは簡単だがその分討伐には長い時間がかかる。
何度も切り込んで傷をつけ、弱ったところにとどめを刺すのが定石だが、その前にこちらの体力が尽きてしまうのが大きな懸念。よって戦場を体躯の小さいこちらに適した場所にする必要がある。
私たちはテイマーから小型の飛馬を借りてドラゴンの攻撃をかわしつつ周りを旋回した。丁度昼飯を終えたところだったのだろうか。狩りをしている間に比べて動きは比較的鈍かったが、一撃がとても重そうだった。あのかぎづめで搔かれたらひとたまりもない。
私たちは確かに順調に切り込んでいっていた。
それは、突然の事だった。
ドラゴンの死角から回りこんで一気に接近し、とどめを刺すつもりだった。
しかし突如目の前のドラゴンが吹いた火を見て、驚いたあたしは舵を上空に切った。
山間の狭いところで挟み撃ちにして討伐する作戦が仇になり、左右に逃れることができなかったのだ。
見事に自身の術中にはまった、と理解した。
自分と飛馬が高く空を駆り、ドラゴンの死角から外れた。あたしは完全に無防備な状態になる。
ドラゴンの黒い瞳と目が合った。
殺される…!
そう思った。ドラゴンの大きなかぎづめが自分に向かってくるのを、剣を構えるでもなく、絶望的に眺めていた。
ドラゴンの翼であたりが黒い闇に包まれる。
遠くで父が何かを叫ぶのがやけにこだまして聞こえた。
あぁ、あたしはここで死ぬのだと、ぼんやりと思った、その瞬間。
下から強い衝撃を受けた。
あたしと飛馬はさらに空中高くへ飛ばされ、ドラゴンからの攻撃を回避した。
―衝撃の正体は、エスクードだった。




