SCENEⓧ 緊急呼び出し SIDE 宰相家:アデラ
「アデラ、急に呼び出して悪い。そっちの進捗はどうなっている。」
「未だ敵兵に見つかることなく着々と進められている。…案外義に厚く無為な殺人を厭う君があんな作戦を命じるとは、正直意外だった。」
「アレだけにはどうしても返しきれないお礼があるからね。きっちり支払わなくては。」
蛮族―ロベルトはいつになく真顔で言った。
いつもおちゃらけた奴が真顔になると変な緊張が走るからやめてほしい。
なにか自分の設計図に則らないことが起きたのだろうか。
「それで、わざわざ対面で呼んだ理由は?」
ボクは焦れて訊いた。
「セネンが、MP切れを起こした。」
「君がセネンをこき使っていたんだ、予測できたことだろう?」
「ああ、それはな。」
「じゃあ何が問題だと言うんだ、リタならやってくれるだろう?」
「どうかな。」
ロベルトが間をおいて自信なさげに言った。
来週はこの国の夏にしては珍しく雨が降るのだろう。
「リタに信用を置いていたのは君だろう。何を今更心配しているんだ、らしくもない。」
「あいつの剣技を心配しているわけじゃない、それは俺の心配する分野でもないしな。」
「というと?」
「あいつに、人が殺せるのかが心配なんだ。」
なるほど、それならセネンがいなくなるのは確かに不安だ。
ロベルトの直感は大抵当たる。それはひとえに彼の積み重ねてきた人間観察と試行、膨大な量の戦術的かつ戦略的シミュレーションによって裏付けされているからだ。つまり努力の賜物なのである。
さらにロベルトには大きな特徴があった。
彼には感情らしい感情がないのだ。
痛い、嬉しい、悲しい、楽しい、辛い、そういった感情を認識できないのである。
彼の世界にあるのは是か非の2択だけ。
彼は自分の戦力によって初めて人を殺した時も、別に痛んだ様子はなかった。体裁は取り繕うようにしおらしくしても瞳の奥ではどんな感情も動いていないのが彼だった。
そう、だから彼には予想できなかったのだ。リタは人を殺すのが恐いかもしれないことを。
その可能性に思いをはせることができなかったのだ。
今、宮廷軍師であり戦場経験のあるセネンが外れてしまえば、敵本陣近くにいるのは非戦闘員のニセタ嬢とリタだけになってしまう。もしそのリタが殺せなかったら、その場合にやっと頭が回ったところなのだろう。
ボクはため息をつくよりほかなかった。




