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そして、今に至る。
崖下へ近くにあった石を投げ落とす。
音はしない。
この高さからまともに飛び降りたら無傷では済まないだろう。
覗いても光は見えず、敵は寝ていると考えられる。
今なら人も少ないはず。
「セネンさん。」
「今しかないね。」
セネンさんは周りを囲んだ僕たちの軍に向けて静かに言った。
「この軍は小さい。でもそんな軍だからできる、そんなに軍しかできないような作戦が奇襲。さっきいったとおりにやれば大丈夫。後で、絶対、皆で生きて合流しよう。」
その声を皮切りに、僕を始めとして隊員が一斉に飛び降りた。
足の切り裂く空間はただ暗く、どこに着地するかも分からない。
ここで僕が失敗したら、全てが水の泡だ。
目を閉じて深呼吸をする。
大丈夫。
軍事演習場の整備のために幾度となくやってきた魔法なんだから。
身体が地表に触れる直前、治癒効果を有する草花をあたり一面に展開した。
これが僕の得意な治癒魔法。触れるだけで治癒効果を発動する物体を出現させる、といったものだ。物体というよりも何かしらのオーラがモノの形を模した実体のないもの、といった方が正確かもしれない。これが何に見えるかは人それぞれだ。被術者にとって最も癒しになるものだ、と言われている。
どさどさと音を立てて次々と隊員の落ちる音が聞こえる。
僕自身、自分の魔法を受けたが痛みはない。
怪我もない。
…成功だ!
辺りを見回しても地べたにつぶされたトマトのようになっている味方はいない。
領域間違えてなかった、念のため広めに張っておいてよかった、と安心したのも束の間。
「皆起きろ!!敵襲だー!」
敵の猛々しい叫びでふと現実に引き戻される。
張った魔法によって被術者の身体への負担は抑えられても、音や振動までは阻害できない。
こっちだって100人ちょいは居るのだ、その人数がほぼ同時に着地したならその衝撃は敵兵の目を覚めさせるには十分だっただろう。
いくら多勢に無勢とはいえ僕らは今現在徹夜の真っ只中、アドレナリン最高潮な状態だ。対して向こうは突然叩き起こされた疲弊した兵たち。何が何だかわからない状態のはず。
僕のできる仕事はここまでだ。
…さあ、ここからどうしようか。




