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海上のパルーマ  作者: ヒカル
騎士団編
2/61

この国にはジェペス一族の台頭にひそかに対抗する組織がある。


ギルド連合―商業ギルド・冒険者ギルド・魔法魔術士ギルドで構成される民間組織だ。

彼らは自らを平民の代弁者と名乗り、建国以来貴族議会制をとってきたパルーマ枢密院に自分たちを組み込むことで平民の意見を尊重する国策をとることを要求した。当時破竹の勢いで枢密院での権益を伸ばしていたセルピエンテはこれを力づくで退け、黙らせた。

しかしこの運動は国中のギルドにわたって派生し、今でも燻る炎となっている。


そう、ただ一点武装していないことを除けば完璧な敵対勢力だ。


「ロベルト、まさか君はギルド連合を…?」


「今ジェペスと正反対の立場にありながら、同じ質と量の熱意や野望を持つ輩はこいつらしいかいない。あんたの言うことは正しい、俺は確かに蛮族だ。だからあのクソデブ狸の横っ面に叩きつけてやろうって思ったんだよ。民衆の強さってやつをな。涙が出るほどわかりやすいだろ?」


皮肉に笑ったロベルトをリタは慣れた様子でいなした。


「結局お前さんはあたしに何をさせたいんだい、奇襲?暗殺?」


「ばっかやろう、そんなことしたら平民のあんた衛兵につかまって一発ゲームオーバーに決まってんだろ。今回の武器は言葉と地位だ。狸爺に宣戦布告する。」


彼は懐中時計で時間を確認すると振り返ってアデラに伝えた。


「この作戦の大きな要は、アデラ、あんたがあの狸爺にどんな第一印象を植え付けられるかだ。最後に聞くが、本当に親父さんには許可もらったんだろうな?」


「当たり前だろう。君のことは信用していないが君の戦略はある程度信用している。」


「おぉい聞き捨てならねぇがまあこの際は良い。中にいるのはジェペスだけじゃない。両陛下も親ジェペス派も対ジェペス派も全員いる。…最大限かきまぜて暴れるぞ。」


「ああ。」



アデラのヒールが、カツンと小気味いい音を立てて会場の皆の注意を引いた。


「―紳士淑女の皆さん、御機嫌よう。本日は遅れてしまい申し訳ございません。わたくしとしたことが、心地よい陽だまりの中で読書に夢中になっておりました。」


彼女のよく通る落ち着いた声が宮廷の大広間にこだまする。

皆の視線が一斉に集中し彼女の立つところがステージになる。


アデラ・バエズは宮廷内で人気である。その真面目すぎる内面を知る者は白けた顔をするが、頭脳明晰、剣技が堪能で宰相の娘、男装の麗人と並べてみるとなかなかのスペックだ。ゆえに誰も彼女を大声で責められない。


アデラは真っ直ぐにセルピエンテを見つめてこう言い放った。


「一口に読書といえども、書は玉石混交。しかしこれはなかなか面白いものでしてね。こんなものを読んでいたのですよ、摂政殿。」


「これは…『枢密院改革の稟議書』だと…⁉」


そう、枢密院計画の稟議書。

ロベルトは内政からジェペスに集中した権力を瓦解させようとしていた。


「あんまり面白いので父上にもお読みいただいたところ、『王へ打診しよう』と。」


「宰相に…?貴様、我らジェペスを愚弄する気か。」


ほう、やはりなかなか頭は切れる。

しかし、先手を打ったこちらにまだ分がある。


僕のそばにいたロベルトがケタケタと笑いながら混ざっていった。


「わあ、なんて物騒な空気。楽しそうですね。俺も混ぜてください。」


「…卿らはオリヴァーとセールズの子息か。こんな真似をしてなんとする。国王王妃両陛下の御前であるぞ。」


今にも『おす!俺ロベルト・セールズ!お前をぶっ潰す!』とでも言いそうなノリの黒髪男の足を僕は注意も含めて全力で踏み、あくまで紳士的に敵へと対峙した。


「それは貴殿にそのまま返す言葉だろうな、セルピエンテ・ジェペス殿。」

「あたしがここに来れてる時点でガバガバの警備なんだけど。貴族の護衛ってあんな弱いんだ。C級の魔物の方が倒しがいあるよ。」


アデラだけでなく招かれざる客が3人も揃って己を糾弾する事態にセルピエンテは困惑や不快感を顕にした。


「…バエズ嬢。招待されてもない客がこんなに入るなど、前代未聞だ。総員まとめてお引き取り願いたい。」


「まあまあそう言わずに。彼らも正当に紹介を受けた一員ですよ。」


「なんだと…!しかしそこの赤髪の娘は、平民であろう!」


「えーおっさん、ジュステ家知らないの?そこそこ有名だと思ってたんだけどなー」


まぁ、現に有名なのだ。ジュステ家といえば泣く子も黙る敏腕の剣士一族。国内最大規模の冒険者ギルド、ジュステ冒険者ギルドのギルドマスターを代々務める生まれながらの兵である。


「お、おっさ…。ええい知るわけがなかろう!所詮は平民、全く滅茶苦茶だ!こんな提案、私は認めないぞ!」


やはり頑なな御仁だ。一度退くか、と持ったその時我らが国王、ルーカス陛下が初めて口を開いた。



「卿が認めずとも提言を聴く価値はある、セルピエンテ。」



「…しかし、恐れながら陛下。彼らは若輩にして未熟。お耳に入れるほどではないのでは?」


「それを決めるのでは卿ではなく予だ。彼らもまたこの国の国民の一人である。私はすべての国民の意見を聞いてその折衷案を政策として決定するのが仕事だ。」


「陛下、彼らは―」


「セルピエンテ。何か言われて卿が不利になるようなことが書かれていたのか?彼らは若輩とはいえ14の予より年上であるし、相当頭の切れる者ばかりだ。私は卿が何と言おうと、己の目が見たものを信ずる王でありたい。バエズ嬢、申されよ。」


「恐悦至極に存じます、陛下。」


アデラは一つ大きく息を吸うと今までで一番張った声で高らかに読み上げた。


「我々は以下のようなことを国王ルーカス・パルーマ・エラン陛下並びに王妃シルヴィア・パルーマ・エラン陛下へ稟議いたします。

1年齢にかかわらず国の政治の正しいあり方に強い意見と信念を持つものを集め、武装し騎士団とこれを名付ける。またこれは国政の在り方を政治面・軍事面から監視する。

2ギルド連合はこれに対して経済・人材的支援を行い、その代償として平民を騎士団に差別なく実力をもって採用する。

3騎士団に所属するすべての国民は身分の貴賤またその他の如何なる差別意識に関わらず誠意のない違法的国政に持ちうる最大の手段をもって異議を唱える。

以上であります。」


彼女が読み上げた後も会場は静寂に包まれていた。

まるで発言する事さえもを恐れているかのような、途方ない静けさだった。


沈黙を破ったのは徐に立ち上がった国王陛下だった。


「私、ルーカス・パルーマ・エランはこの稟議を取り上げ、その契約内容を吟味する。ゆえにこの場においての言及を見送り、追って沙汰を出す。」


王妃様は続いてこうお答えになった。


「わたくし、王妃シルヴィア・パルーマ・エランはこの稟議を取り下げ、その契約内容を承認しない。しかし厳格なる枢密院が定めた法の良心に信頼して、それ以内の範囲で公共の福祉に反しない限りの稟議上訴者の自由を承認する。」


翻訳すれば王は実質承認、王妃は世間の迷惑にならない限り承認、ということになる。セルピエンテの長女である王妃様の承認だけが関門だったが、うまく通り抜けられたことに僕は深く安堵した。


「ん?」


その時、ロベルトが小さく声を上げた。何かに興味を持った声に嫌な予感がして彼を急かす。


「ロベルト、僕たちがここにいる理由はもうない。早く引き上げるぞ。」


「ロメル。あれをみろ。」


ロベルトが指さした先には一人の青年がいた。紫の髪に虚ろな黄色の目の騎士だ。


「ああ。ナバーロ殿か。最近王女殿下の護衛騎士に加わったらしい。若いがかなり強いぞ。」

「ふぅん。」


ロベルトがにんまりと笑った。

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