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海上のパルーマ  作者: ヒカル
騎士団編
19/61

SCENE10 ちっぽけな僕の大仕事 SIDE 別部隊長:ニセタ

このシーンは挿絵も書いてくれているきるとに書いてもらったものにちょこちょこ蛇足を入れてあげています。依存しまくってしまっている(笑)

【例によってこの視点を担当する子紹介!】

挿絵(By みてみん)

午前3時。夜も深まったころ。


僕はリタやセネンさんを中心に、約100人の隊士を連れてとある崖上にやってきた。


セネンさんはここ最近色々あったようで疲れきっているようだけれど、転移魔法を使って、ここ、敵の本拠地の真上まで連れてきてくれたのだ。


「敵は4000…、いや、5000人はいるはずです。こんな100人ちょっとの軍勢で勝つなんて無茶だ…」


1人の兵士が呟いた。すかさずリタが反論する。


「何言ってんの。あんな状態の5000人だったら雑魚だよ。ていうか、結局のところ1人だけやっちゃえばもうこっちの勝ちみたいなもんじゃん。」


その発言に周囲がざわつくが、彼女の言い分はいたって正しい。

僕たちがやるべきことはたったひとつしかない。


『セルピエンテの首を取ること』。


そのための大仕事が、今、始まろうとしている。





「で、何?僕ひとりだけを呼び出して作戦を伝えるなんて、なんの意図なわけ。」


数時間前、騎士団本部のある山頂にて、僕はロベルトさんに呼び出され今回の戦略について説明を受けていた。リタとセネンさんと一緒に動くというのは事前に伝えられていたのだが…、なぜヒーラーの僕だけが呼ばれたのか。

訝しむ僕に、ロベルトさんはにやりと笑って答えた。


「ニセタ、お前にはかなりの大役を任せようと思っている」


「…大役?」


攻撃魔法属性をひとつも持ちあわせていないただのヒーラーに、何をさせようと言うのだろうか。


「リタに崖上からセルピエンテを奇襲させる。何を言いたいか、お前ならわかるよな?」


「…っ!」


学園の兵学部戦略学科生なら知っていて当然のテンプレート。

”高所からの奇襲では兵士の体力摩耗を最低限に抑えるべき”ということ。


「勿論首を取るのはリタだ。お前の仕事はその前。崖から飛び降りると同時に−」

「落下ダメージをゼロにしろ、そう言いたいんでしょ?」


ロベルトさんは満足げな表情を浮かべた。

僕は対照的に顔をしかめることしかできなかった。


…無茶だと思った。落下ダメージをゼロにするためには、兵より先に自分が飛び降りて、治癒魔法を展開する必要がある。そのうえ、敵軍もを回復させてしまわないよう範囲を最大限に広げつつ絞らなくてはいけない。魔法はイマジネーションである故、魔術のように技巧的かつ繊細に範囲を指定することはできない。よほど高度な技術をもっていないと無理だ、と僕は半ば諦めた心持で溜息まじりに反論した。



「ただでさえ戦略学科生で実戦経験が他より少ない僕に、そんな高等技術ができると言うの?」


「できるだろ?」


即答?正気かこいつ。





「なあニセ()。」





その呼びかけにどきりとして心臓が飛び跳ねた。





うそだ、なんで、どうして知ってる?





「こっからが正念場だ。行けるよな?」



満面の笑みから放たれる圧がすごい。


まったくこの人は…相変わらず油断も隙もない人だ。




名前も性別も『僕』が僕に至るまでの経緯も、きっとこの人は全部知っている。




―この秘密は秘密のまま消えると思ってたけど、そんなことはないのかもしれない。




いや、今はそんなことを考えてる場合じゃない。




不意打ちの攻撃に乱れかけた呼吸を整えた。

考えろ。

これから起こるであろう出来事をできうる限りにシミュレーションすれば突破口はある。



…あ、そうだ、これなら−



ぽつぽつと浮かぶ案が線になりイマジネーションを象っていく。

得意魔法のあれと、あの領域展開を混ぜたら、もしかしたら。


さっきまで弱気だったのが嘘みたいに戦略が組み上げられていく。


僕は無意識に笑みをこぼしていた。


この人には敵わないな、皮肉でもなく本気でそう思った。



目の前の彼には見えていたのだ。


僕が尻込みしている事、恐れている理由、言われたら動揺する言葉と安心する言葉。



他人(ひと)を動かすための最適解を、ハナから握っていたのだ。



口が勝手に言葉を紡いだ。

彼に応える準備は、もうできていたんだ。





「当然だよ。僕のことを誰だと思ってるの?」





それが自分の知らない本心からでも、はたまた根拠のない自信からでも、なんでもいい。

ただ、これだけが僕の答えで決心だった。


彼にも伝わるように、自らの視線に覚悟と自信を湛え、眼前の軍師を見据えた。


もう、臆病な自分から目をそらすことはしない。


僕のことを見てくれている人がいた。

その事実だけで、僕は実力が発揮できることが証明されたんだ。

そうか、だから彼は僕を、僕だけをここに呼んで話をしたんだ。



真っ直ぐに見てみるとロベルトさんは案外幼い顔立ちをしていることに気づいた。



ああ、今の僕にはそれほどまで余裕ができたということなのか。


「よし、よく言ったぞ。漢見せてこい!」


彼は顔を歪めて嬉しそうに笑った。

見慣れたと思っていた彼の笑う姿は、企み事が成功したいたずらっ子のようにも、貰ったおもちゃで遊ぶのが待ちきれない無垢な少年のようにも見えた。


目を閉じ大きく息を吸って、体全体で吐き出すように声を張って応えた。


「ああ!」


もう時間がないんだ。


止まる余裕もないんだ。


いや、止まってなんかいられるもんか。



前へ、もっと前へ。走れ、走れるんだ、もっと速く、一直線に。


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