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『ロメル!ロメル、聞こえるか。』
通信魔術からの着信ではっと我に返る。
「あ、ああ。聞こえている。どうした。」
『山頂からは日が傾き始めているのが見えている。そちらの戦況は今どうだ?』
僕は光魔法で土壁を透視してありのままを伝えた。
「ソフィア嬢はマルティンの構築した土壁結界内で敵との混戦状態に持ち込み、有利に戦っている。加えてユーゴ殿率いる冒険者団も健闘しているな。この二小隊で向こうの6000名は伸せているように見える。想像以上の良い戦いじゃないか?」
『やりすぎなくらいだな。上出来上出来。お前ら第三小隊は?』
「まだ待機中だ。」
『上等。』
「それだけか?」
『いや、ここからが本題だ。』
ロベルトの声色が急に真面目な軍師のそれになる。
尋常じゃない空気を感じて身構えた。
「何があった。」
『今本命軍の方をセルピエンテ軍の近辺に向かわせたんだが、セネンがその転移魔法を最後にへばった。あいつもここ数週間あっちへ行ったりこっちへ行ったりさせていたから疲れが出たんだと思う。』
「!?無事なのか…!」
『まだかろうじて断続的な発熱しか出ていない。本人は戦えるとかのたまっているが、明確な症状が出るのは時間の問題だ。』
「その初期症状…MP切れ…」
『そのとおり。』
「まずいじゃないか!」
セネンの率いる本命軍がセルピエンテ本陣へ奇襲をかけるまであと8時間。
「ニセタ嬢は!?彼女に回復はかけてもらえないのか?」
『セネン本人に確認したら、どうもニセタも奇襲の時の例の治癒魔法で莫大にMPを消費してしまう目算らしく、MP回復まで手が回せそうにないそうだ。』
「そんな…!」
『だからお前さんに頼みがある。』
「…君、まさか、」
僕に、セネンの代わりをしろ、と…?
『そのまさかだ。察しが良くて助かっているよ。』
「人使いが荒くて困っているよ、こちらは。」
『結構なことで。
今日セルピエンテ軍が撤退するまでの間は、狸爺を焦らしまくることに専念してくれ。敵軍が撤退し次第こちらも兵を引くんだ。十分に睡眠をとったら、ロメル、お前さんは仲間にバレないようにこっそり準備をしてそちらの陣営を抜け、本部のある山の腹で潜伏しているアデラと共にニセタ達のところへ転移するようにしてくれ。こっちでもそういう風に手配しておく。』
「僕はいつ頃を目安に出発すればいい?」
『あんたは光属性のせいでなにもしていなくても目立つからなぁ、なるたけ遅く…、そう、きっと、明日の午前3時ごろがいいだろう。』
きっと。まるでそれは彼が獲物を術中に仕留めた時に使う、無邪気な子供のような声だった。




