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―そして今に至る。
やっと、山頂に旗が上がった。
進軍の合図だ。
ナバーロ殿が指令を出す。
「第一軍、進め。」
ソフィア嬢を含む特攻を得意とした1000人隊がセルピエンテ軍に衝突する。あの小隊はシャエットから来た軍人72人も内包しているから、相当の健闘を見せてくれるだろう。
ソフィア嬢達の衝突に合わせてマルティンが土魔法で土壁を立ち上がらせ、味方と戦場を隔離した。彼のことだ、おそらく敵の背後にも同じものを作っているのだろう。そうすることで敵は退路をふさがれ後に引けなくなる。
ここは山間区域。左右は切り立った山によって囲まれ、退路を作る余地もない。
前後の退路を死守し、いかにして敵の妨害を潜り抜けるかが肝心だ。
今頃、ソフィア嬢率いる特攻小隊がセルピエンテ本軍と混戦状態に持ち込んでいることだろう。彼女は周りを敵に囲まれた方が有利に戦えるお方だ、それを狙いに行っているに違いない。
マルティンはスタミナが異常にある男だ。タンク、と呼ばれる役割になるだろう。だからこそ生粋のアタッカーであるソフィア嬢が一番得意とする状態へ持っていくために土壁などという高度な魔法を使う勇気があるのだ。
数時間後、また命令が下った。
「第二軍、土壁をまわりこんで三時方向より襲撃。」
今度はユーゴ殿の率いる第二小隊が動きをとる。
C級からA級の優れた冒険者が集まって構成された小隊だ、一人一人の技術と経験値はここにいる三小隊のなかでも抜きんでているに相違ない。
可哀想に、セルピエンテ軍からしてみても、こちらがこれほどの軍事力を用意して戦いに臨んだとは予想していなかっただろう。僕だって予期していなかった援軍の連続だったのだから。
そこまで考えて僕ははたと思った。
セルピエンテの横柄さ、行き過ぎた越権行為は宮廷内でこそ有名ではあるが、王都の平民はそこまで気にしている風ではなかった。否、おそらく王都の住人はセルピエンテの言動の多くを知らないのだ。だといたらここまでモチベーションの高い兵が出揃った事は逆説的に不自然と言える。
兵を名乗り出てくれた者は皆宮廷の役人以上にセルピエンテへの不満がたまっている事。統合ギルドマスターの長子二人が全面協力をしてくれている事。タイミングよく表れた謎多き”加護”のステータスを持つ少女、エマの存在。ロベルトが彼女に今までにないくらい肩入れしている理由…。
僕がロベルトに提案を持ちかけられたのはわずか60日前だ。この短期間でこれほどの兵を揃え、運良く”加護”持ちの少女を拾ってくるなど、いくら知識Lv.100のロベルトでも難しいだろう。
…まさか、ロベルトはこれらが起こることをずっと前から知っていた?
彼は、一体いつからこれらすべてを…。
僕はその考えに戦慄した。




