SCENE8 最前線へ SIDE 勇者:ロメル
午前8時。
僕達は遠く山頂を見つめながら、本部―ロベルトからの開戦の合図を今か今かと待っていた。
セネン、ニセタ嬢、リタ嬢率いる100人小隊以外の実に3000を超える兵は、今やシャエットからの助軍も受けかなりの戦力を持っている。まぁ、ロベルトに言わせればそこまで多くもないのだろうが。あいつはいつもヘラヘラとしている割に、計画派で合理主義の鬼だ。確実に勝てる戦しかしない、と日ごろから言っている。
だが、騎士とは単純なもので正義や自分のキャリアのためなら実力以上に頑張れる奴が一定数いるものだ。この軍を率いるナバーロ殿や僕、マルティン、ソフィア嬢、ユーゴ殿も皆一様に剣を極めるために日々鍛錬を重ねてきた身。志すものが似ていると、自ずと刺さる言葉も似てくるものである。その点、僕が学園で行った演説や昨晩の団長の演説はここにいる兵に火をつけるには十分だったと信じている。
あとは、ロベルトからの指示を待つのみ。ヒーラーは昨日紹介されていたセレナ嬢とフェリクス殿だ。双方、有能そうなお二人で信頼できる。
僕はもう一度ロベルトからの支持を反芻した。
―数時間前。
僕は山頂に移動したロベルトと通信魔術で会話をしていた。
『デセオには計画の全容を伝えたが、見ず知らずのおっさんに言われるより憧れのセンパイに指示される方が動けるとかいうミーハーもいるだろうからあんたにも今回の作戦を伝えることにする。』
「君はオブラートに包むということを学ぼうか。」
『戦場ではオブラートなんてなんの栄養にもならないゴミだよ。
今回のお前さんたちの役割はずばり、囮だ。』
「囮?本命がほかにいるのか?」
『ああ。リタにニセタをつけたうえで我らが諜報のプロのセネンを添え、セルピエンテ軍上方約500mの断崖絶壁の上に送る。ほんでそこから奇襲攻撃をさせる。』
「君にしては古典的でオーソドックスな作戦じゃないか。」
『ひと言余計だぞ、古き良き作戦だ。セルピエンテは金の事しか頭にねぇ。戦略学科では教科書にすら載ってねえ様な雑魚戦略だが案外こういうドストレートに弱いタイプだろう。…大丈夫、あの状態の軍にリタをぶっこめば何時間かでカタはつく。』
「随分と侮ったものだな。彼らが奇襲をかけるのは?」
『今夜か、明日の明朝か。だから今日中はそっちの軍には戦いっぱなしになってもらうぞ。』
「ふぅん。君らしくもない。恐らくだが、囮なんて君が作戦じゃないか。玉砕に有利だし。君なら、味方に無駄な死者を出す、とか言って忌避しそうなものだが。」
『…はぁぁ。やっぱバレるか?本当は俺もそういいたいところだが…。』
彼はあぁ、とか、うぅ、などと言い淀んでから続けた。
『これが…俺の思いつく限りでは一番、最終的な双方の犠牲が少なくなる戦い方なんだ…。セルピエンテがどんな出方をするのか、俺もイマイチつかみきれてない。俺を長と思いこんで、俺の首を真っ先に狙いに来る可能性さえあるんだ…。』
全く、こいつには困ったものである。彼にはセルピエンテの取る行動が予測不能すぎてわからないのだろう。
愚者は時に賢者を喰らう、という事なのだろうな。
「君が案ずることはないさ、ロベルト。きっと君の思い描く通りに事は運ばれる。というか、君が作戦を考えてうまくいかなかったことの方が少ないだろう。」
『はっ、戦士殿に励まされるたぁ非戦闘員失格だな。』
彼の軽い笑いが魔術越しにかすかに揺れる。
『戦術だが、俺が今から言う通りに指示を出してくれ。しかし、あくまでデセオの命令が最優先だ。あんたはいつでもフリーに動けるようにして、俺からなにか魔術兆候がきたらすぐに応えられるように全体を俯瞰した行動をとってくれ。最前線はデセオに任せろ。』
「わかった。」




