SCENE5 気づいてしまった想い SIDE 国王:ルーカス
枢密院の定例会議を終えて執務室に向かう途中、シルヴィアが庭園を散歩しているのをみた。
今日は風が強いからずっと部屋にいるのだろうと思っていたから驚いた。
彼女に護衛の近衛騎士と朗らかに笑いあう姿にどうしようもなく胸がざわつく。
最近ずっとそうだ。彼女が誰かと楽しそうに過ごしているのを見るとどうしようもなく胸が痛む。
寂しいような、悔しいような、もどかしいような複雑な気持ちだ。
―あの騎士、かっこいいな。僕よりずっと強そうだ。シルヴィアもああいう男性の方がいいのだろうか。…それもそうか。彼女は19歳で5歳も年上だ。本当ならもっと自由に恋愛を楽しんで結婚適齢期のど真ん中にいる年だろう。例えばあの騎士のような男を好きになっていたかもしれない。
せめて僕の両目が見えていたなら、シルヴィアは僕にもあの笑顔をくれたのだろうか。年下で、弱くて、隻眼で、こんなに不甲斐ない僕と結婚させられるなんて、どんなに嫌だっただろう。
負の感情が抑えられなくて彼女から顔を背けて木陰に隠れる。最近はずっとこうだ。彼女の聡明さや冷静さを目の当たりにする度に、彼女の置かれた立場を考える度に、自分がちっぽけで取るに足らないものに感じられる。病弱な姉を守るために鍛えてきた全てが、何も実を結んでいないような焦燥に駆られる。シルヴィアのために何かしたい、でも僕が彼女のためにしてあげられることなんて、と得体のしれない感情だけが募っていき、それを持て余している。
「あら、読もうと思っていた本を忘れてきてしまったわ。」
シルヴィアの声が聞こえてはっとし、慌てて記憶の糸をたどる。
昨夜、寝る前に読んでいた赤い本だろうか。あの時でもまだ序盤だったはず。
魔術を使って意識だけを自分たちの寝室に向かわせる。
あああった、これだ、とそれと思しき本を取り、彼女のもとに送る。
まぁこのくらい、護衛に取りに行かせるほどの事でもないだろう。
「あら?向こうから本が漂ってきたわ。」
「あ、自分は取りに行かなくていいですか?」
「ええ、ごめんなさい。」
「いえ。それでは小官はこれで。ごゆっくりお過ごしください。」
「数時間も読んだら部屋に帰るわ。」
騎士は礼儀正しく挨拶をして距離をとったところで待機した。
…うぅん、あれではシルヴィアの体が冷えてしまうかもしれない。毛布も掛けておこう。
「きゃあ!」
「どうされましたか!?」
「い、いえ!ただ、どこからともなく私の部屋にあるはずの毛布が…!」
「…毒物らしき臭いは致しません。ご安心ください。」
「ふふ、どこかの妖精からの贈り物かしらね?」
初夏の日差しの中で花のほころぶように笑う彼女が直視できなくて、さっと目をそらす。
僕は、面と向かって彼女に何かできる勇気もなく、ただただ彼女の自由を奪うだけの存在だ。僕にできるのはこんな些細なことしかない。
ああでも、ただ、願わくは、彼女の周りに災難が起きませんように。彼女の心がいつも平穏で満たされますように。彼女の身に降りかかる災いは絶対に全部僕が引き受ける。そう覚悟したのだ。
この左目を海のようだと言って笑った幼いシルヴィア。あの時僕は初めて自分の左目を得た。確かに光を感じたのだ。彼女のためなら、きっと何でもできる、と。
ああ、もう認めるしかないな。
幼い頃から共に在ったこの感情は、きっと姉を守りたいとかそういうのとは違う質の愛。
僕はシルヴィアに恋をしているのだ。




