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襲来

ゴツゴツとした石の撒かれた鉄の道

その上を幾つもの錆びた車輪が激しく通る


軋む留め(とめがね)に繋がれた箱の中には

数人の人だかりが弾む車体に合わせてユラユラと揺れていた


緑の座席に座るスーツ姿の男

少しやつれた様子で肩についた埃を払いながら

新聞に顔をうづめている


しばらく走行し、

橋梁(きょうりょう)に差し掛かった頃

男の真横から突然バリンっと何かが割れた音がする


男は驚き、新聞からそっと顔を出すと

そこには中型犬くらいの大きさのセミのような虫がいた


「ギュピイイイッッ」


大量の虫が羽音を立てて列車に張り付き

車体は見えなくなったーーー



『調べによると男は容疑を認めていて

警察は詳しい動機を調べる方針ですーーー』


食パンにバターを塗って、一口かじる男


テレビの報道を流し見して

シャツを着るとテレビを消してカバンを片手に外に出た


電車に乗って座席の端に座り、スマホでネット記事を見ながら心の中でふとつぶやく


「(放火かぁ、最近物騒だなぁ)」


そこには朝のニュースが載っていた


「(この前もあったよなぁ、乗客を刺して

油を撒いた事件、まぁあの時は不発だったけど)」


「(やっぱこういう事件があると

真似する奴が出てくるんだろうなぁ

俺も巻き込まれないよう気をつけよう)」


男は指をスライドさせて別の記事を確認する


その後、会社に着くと荷物を床に置いて

パソコンの前に座り電源を入れて仕事を始める


「(早くこいつ片づけねぇとな…)」


男は無言でキーボードを叩き、丁寧に

作業をこなしていく


「おはようございまーす」


「ん、おはよう」


女性社員が挨拶をしに男の前に寄ってくる


「今日も順調ですか〜?」


「ん、まぁね」


女性社員と一言二言、話を交わす男


「じゃあ頑張ってくださいね」


「あぁ、君もね」


女性社員はそう言って、男の元から離れ

自分の仕事場に向かった


男は去っていく女性の後ろ姿を流し目で眺める


「(桜井さん、相変わらずいい体してんなぁ)」


男の視線は尻の方へと下がる


「(普段は真面目でいい子そうだけど

裏では男とやりまくってんだろうなぁ

いいなぁ、俺もやりてぇ…)」


「(桜井さん、どんな声で喘ぐんだろう

どんなおっぱいしてるんだろう

あ〜やりてぇ、パンパンパンパンッ)」


「(やべ、勃ってきた

座り仕事で助かったぁ〜)」


男はくだらない事を考えながら

仕事を終えて退勤時刻に家へと帰宅する準備を始める


電車に乗り、暇な男はスマホを開き

ネット記事を漁る


「(チッ…)」


男の表情が険しくなる


「(また騒いでるよフェミどもが…)」


「(トナラーだの触らない痴漢だの

クソみてーな事吐きやがって

どんだけ文句を言えば気が済むんだ?こいつらは)」


「(少子化問題もお前らがやらせてくれねぇのが原因だろうが

自覚持てってんだ!選り好みばっかしやがってクソが!)」


男はイライラしながら記事のコメントを確認する


「(政府も御託並べてる暇があったら

さっさとレイプ合法化しろ!そうすれば全部解決するだろうが!)」


「(痴漢だのセクハラだのうるせぇんだよ!

黙ってマ○コだけひらいてろメスどもが!!)」


男はSNSを開き、一連の言葉を投稿して

やり切ったという顔をしてそっとスマホを閉じて帰宅した


「さて、今夜の飯は〜♪」


男は冷蔵庫を漁り、肉と野菜

ビールとつまみをそれぞれ取り出し

調理を開始した


「んー、麦とホ○プ…」


出来上がった料理を平らげ、歯磨きと入浴を済ませた後、寝室へと向かう


「ふぅ…」


ベッドに寝転び天井を見上げる男


「はぁ、俺って一生セックスできねーのかなぁ…」


男は寂しそうな顔をしながら

電気を消し、静かに眠りについたーーー


翌日、男はいつも通り着替えをして出勤の準備を始めていた


家を出て、いつもの駅へと向かう


しばらく歩いていると遠くから悲鳴が聞こえてくる


男は「なんだ?」と思い、様子を見に行った


「「ギュゥイイイイッッ」」


そこにはバサバサと羽を広げる異形の生物や

口をニョロニョロとさせながら道路をノシノシと歩く怪物達が男の目に飛び込んだ


付近では逃げ惑う人や、怪物達におそらく食われているであろう人がいた


男がその光景に唖然としていると

後ろの方で脆い音と女性の小さな悲鳴が聞こえてきた


「ぎゃっ…!!」

「!?」


思わず振り返るとそこには

怪物に体の半分を咥えられて

苦悶の表情を浮かべる女性がいた


「痛いッ痛いッッ」


男は口をあんぐりとさせながら

女性が伸ばす手を思わず掴もうとするも

直後にバキバキと何かが砕ける音がして

女性は血を吐き、ダランッとタオルのように垂れ下がり、言葉を発さなくなった


男は手を引いて、その光景をしばらく眺めた後、理性を取り戻し、その場から足早と離れた


町に次々と襲来する謎の怪物達


男は路地を通り、怪物の追ってから無我夢中に逃げていた


怪物は路地に設置された物を破壊しながら

男の後を追跡している


「やばい、やばい、やばい!!!」


男は混乱しながらスマホを取り出し

緊急の電話に繋げる


しかし、スマホに耳を当てても誰も出ず

男は半狂乱になる


「くそ、なんで出ない…!!」


無人となったオフィスには静かに電話が鳴り響

き、かすかに怪物の声が聞こえる


「ーーー謎の生物は増えつつあります」

「昨日の時点ではまだ小さな規模だったのに

たった2日で…」

「各地で発生している謎の集団殺人事件…

人為的な物ではないとは思っていたが

まさか得体の知れない化け物が原因だったとは…」

「もう隠し通せない、このままでは東京にも…」


とある会議室ではスーツ姿の男性達が

怪物について議論を交わしていた


「ハァハァ……」


追われていた男はなんとか

建物の中に逃げ込み、怪物の追ってを振り払っていた


「このままでは町はパニックになる、

とりあえず今は出来る限りの対策を実施しよう」

「どうしますか?」

「防衛省と警察庁に伝えるんだ

緊急対策本部を設置すると」

「自衛隊は市民の救助、怪物の排除

警察は安全の確保、市民の救助

レスキュー隊も、それから生物研究員にも伝えろ」


町にJアラートが鳴り響き、スマホ画面に警報音が流れる


異様な事態を察知していく市民達


「怪物襲来?!なんだそれ??」

「ドッキリ?!」


アナウンス放送が各地で流れる


「謎の生命体襲来、謎の生命体襲来

市民の皆さんは安全を確認の上

速やかに避難してください

繰り返します〜」


警報には避難所を示した文字が記載されており

市民達はパニックになりながら急いでその場所へと向かったーーー


「こいつは政府の陰謀だ!!」

「生物兵器だ!!首相はアメリカ政府と繋がっている!!」

「ホワイトハウスはやはり宇宙人と繋がりがあったんだ!!」

「奴らは米軍の実験で産まれた生物兵器だ!!」


SNSには無数の陰謀論が叩き込まれていた


「ちっ、安全圏からこいつら…」


SNSで騒ぐ陰謀論者達に苛立ちを覚える男


あのあとなんとか避難所まで辿り着き

男は休憩をとっていた


「ここもいつまで持つか…」


男は不安に駆られながら、壁にもたれ掛かり

騒動が収まるのを静かに祈った


ふと見上げると目の前に少女が立っていて隣に座ってきた


ボロボロの学生服を着た中学生くらいの女の子で

どこか暗い顔をしている


男は少女に気をとられたが

視線はすぐにスマホへと落とした


「ねぇ、お兄さんも迷子?」

「あ?」


スマホに集中していた男は少女に声をかけられて気が散り、乱暴に答えた


「私も、今1人でさ」


「(何言ってんだコイツは、雑談なら他当たれよ)」


男はネット記事の確認を邪魔されイライラしていた


「ねぇ…」


ふと少女は男の手をそっと握り、おもむろに自身の胸に押し当ててきた


「シよ?」

「!?」


男は咄嗟に手を引き、警戒した目で少女を睨んだ


「(いきなり何言ってんだコイツは…)」


「最後だから…」


「(変なやつだな…、場所変えるか)」


男は立ち上がり少女から距離を置いた

少女も続いて立ち上がり、男の方へヒタヒタと歩いた


「(ついてくんなよ)」


少女は再び男の隣に座り、静かに呟く


「お兄さん…」


「何だお前さっきから」


痺れを切らした男は少女に問いかけた


「シよ…?エッチ…」


「ふざけんな、俺を犯罪者にするつもりか?」


男の返答に少女は意外そうにつぶやく


「シたくないの…?」


「したいとかしたくないとかの

話じゃなくてな…

(確かに柔らかそうだし、胸も膨らんでるし

体だけなら女だが、言ってもこいつは未成年だ

手を出したら確実に詰むだろう

そもそも今はそんな場合でもないし…)」


男は困惑しながら何とか話を逸らそうとする


「俺ロリコンじゃないんだよなぁ…

騒動が治った時に法的に裁かれるのは俺だぞ?」


「私たち死ぬんだよ…」


「大丈夫だろ、自衛隊が何とかしてくれるって

さっき記事にも書いてあったから」


男は少女から少し距離を離し、自衛隊の救助を静かに待ったーーー


町中では自衛隊員達と怪物達の交戦が始まっていた


「銃が効きません!!」


「硬い殻に覆われてるようです!!」


「く、車が潰された…!!我々では対処不能!!

繰り返す対処不能!!」


「ば、化け物だ…!!ぐあっっ」


研究所では混乱が蔓延っている


「彼らは一体、何者なんだ?

あんな生き物は見たことがない…!」

「新種かもしれません!」

「殻で覆われており、銃弾が弾かれるほどに頑丈だ、そもそも彼らは殺すことができるのか??」

「地球外生命体かも…」

「まさか、そんなこと…」


また首相官邸にて

首相と秘書が何やらやり取りを交わしていた


「彼らの活動は〇〇市から〇〇市までに規模が広がっております、東京に来るのも時間の問題かと」


「選挙は中止しますか?」


「当たり前だ、このままじゃ俺の命が危ない…

シェルターの様子は?迎えのヘリはまだか?」


「それが首相…、国外にも同じような怪物が襲来したとの情報が入り込んできまして…」


「空には飛来する怪物が…地中にはミミズのようなものが目撃されたと」


「それじゃ逃げ道なんてないじゃないか?!

安全なところを探せ!!今すぐに!!」


「俺が差し障りのない事をマスコミに話してる間に安全なところを確保しておけよ」


「は、はい!」


首相は秘書と話を交わした後、自身の部屋へと足早に向かったーーー


「あ…あんっ、あっ、、」


ある倉庫では少女の甘い声と何かが擦れるような音が響く


「……」


男は自らの上で喘ぐ少女の姿を

無言で眺めながら激しく腕を上下に動かしていた


「(思ってたのとなんか違ったな…)」


横たわる少女の前でふとそんなことを考える男、直後に頭を抱えて冷や汗をドバッと流しだす


「(いやそれよりもやべぇよ、どうするこの状況…、俺、未成年に手ェ出しちゃったよ!!)」


男は目を見開いて、恐怖に震えた


(完全に流された…全然そんなつもりなかったのに…!!)


男は青ざめた顔をしている


「(騒動が治ったら俺どうなるんだ?やっぱり捕まんのかな?)」


「(何て言い訳しよう…ヤバいと思ったけど性欲を抑えられなかった…?)」


混乱する男


「(そもそも何でやっちゃダメなんだよ!?生物学的におかしいだろ!!

男女は子孫を残すために性行為をしなきゃいけないんだぞ!!今の法律はおかしい!見直したほうがいい!!)」


男が項垂れていると

外から何かが破ける音と怪物達の声が聞こえてきた


「ま、まさか!?」


倉庫のドアを少し開けて隙間から覗くと

怪物達が避難民を次々と襲っている様子が見えた


「(や、やべぇ…!あいつら来やがった!!)」


男は静かな声で少女に呼びかける


「お、おい!早く服着ろ!逃げるぞ!!」


男は少女の手を引っ張ると

勢いよく扉を開けて外に出たーーー


怪物達にやられてる人たちの横を通って、なんとかやりすごしていく


「こっちはダメだ…!!」


怪物達を避けるため避難所を抜けた先にある狭い通路を通る二人


近くには目が退化したサイのような怪物がノソノソと歩いている


二人は怪物の横を静かに通り、バレないように通路を抜けようとする


怪物は「フゴッ」と鼻息のような音を立てて

直後に二人の方を振り向き

大きな口を開けた


触手のようにウネウネと動くヒダを近づけられ

二人は硬直し、壁に阻まれながらもなんとか避けようと後ろへ体を動かす


しばらくして怪物は口を静かに塞ぎ

二人の元から離れていった


「よし…なんとか凌いだか…

今のうちだ、静かに離れるぞ」


二人は怪物にバレず、そーっとその場を後にしようとする


「ゴゥッ」


「……?」


すると背後から吐息のような音が聞こえ、男が嫌な予感をしながら後ろを振り向くと

怪物が二人の方を向いて口を大きく開いていた


「ッッ…!!やべッッ…!!」


男は少女の手を強く握りしめて

全速力でその場を走った


「(なんなんだよ…どうなってんだよ一体…)」


二人の後を四足で追いかける怪物

その頃、国会では会議が開かれており

怪物について今後どういう対策を取るか真剣に議論がされていた


しかし、怪物に対する情報は現時点では不明点が多く

話は一向に進まず議論は常に平行線を辿っていた

そんな時、防衛省から一本の連絡が舞い込んでくる


「緊急連絡、緊急連絡、

謎の生物襲来のエリア付近にて

生物の死骸と武器を所持した少年を発見」


「死骸!?」


「状況判断から、あの少年が生物を排除した模様」


「バカな、何者だそいつは!?」


「それがその、、勇者と名乗っており…」


「ゆ、勇者…!?」


会議室は静かなざわつきを見せたーーー



襲来(完)

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