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御美苗くんは良い人

「…………暑い」


下校途中、自販機の前で澄海(すみ)は立ち尽くしていた。


「台風一過にしても、7月頭で35度超えってどういうこと? まだ8月が控えてるってのに大丈夫なのか日本。てか、喉渇いた……あ、ここ小銭オンリーか」


携帯をポケットにしまい、鞄から財布を出す。


「500円玉あった! 何飲もっかなぁ……ファンタにしよ……っあ!!」


手元が滑って地面に落ちた500円玉は見事に自販機の下へ転がっていった。


「嘘でしょー!? 小銭これしかないのに……」


ここは都心から離れた郊外の住宅地、すぐ近くにコンビニや自販機は見当たらない。


「うぅ……今飲みたいのに……もう動けない」


澄海はその場で四つん這いになり、自販機の下にめいっぱい手を伸ばす。もう少して500円玉に届きそうな時、少し強い風が吹いた。


(やば!!)


スカートの中に風が入ってきて声を上げる。今の体勢は無防備の四つん這い。こんな格好でスカートがめくれてしまったらパンツ丸出しだ。公然わいせつ罪で訴えられてしまう。

片手を自販機下にめいっぱい伸ばしていたこともあり、スカートをすぐに押さえることが出来なかった……はずなのだが。


(……ん?)


何故か、スカートに突っ張り感が……。


恐る恐る後ろを振り向くと、そこには真顔の青年がしゃがんでいた。……スカートの裾を押さえながら。



「……………………」

「……………………」



(いや、なんで無言?しかもこの制服、同じ高校だわ。てか、なんつー顔面してるんだこの人!!)


黒い艶のある髪に切長の瞳、通った鼻筋、軽く閉じた薄い唇。


(あ、この人、確か……)



「…あ、ありがとう…御美苗(おみなえ)くん」



やっとのことで声をかけると、御美苗くんはコクンと頷いた。


御美苗くんは入試トップで入学したこともあり、新入生代表で答辞を読んだことで全校生徒に知られている。

長身で端正な顔立ちに黄色い声が後を絶たなかったのを覚えている。


(全く関わりないけど…そのお陰で私も覚えていた)


イケメンにパンツ丸出しを阻止してもらったことが居た堪れず、その場で勢いよく立ち上がったと同時に視界が回り出す。


あ…立ちくら…み……ーーーー









「………あれ?」


目が覚めると、馴染みの駄菓子屋さんの中にいた。


「おや、目ぇ覚めたかい?澄海ちゃん外で倒れちゃったんだよ。今日暑かったし、軽い熱中症だね〜」


小さい頃から通っている駄菓子屋【むろまち】のおばあちゃんとは、学校帰りによく話す仲である。


「澄海ちゃんと同じ学校の男の子が運んできたんだよ。澄海ちゃんぐったりしてたからびっくりしたよぉ」

「心配かけてごめんなさい……あの、御美苗くんは…」

「あの子、御美苗くんっていうんだねぇ。暫く付き添ってたけど、用事があるってさっき帰ったよ」


(付き添ってくれてたんだ…。御美苗くん良い人だなぁ)


「澄海ちゃん面食いだねぇ、いい彼氏さんじゃないの」

「い、いや。彼氏ではないです」


あんなイケメンが彼氏とか…恐れ多過ぎる。


「あらそう、心配そうに澄海ちゃんの頭撫でてたから、てっきり彼氏さんかと思ったよ」


(………御美苗くん、心配性なのかな。世話焼きなのかな。スカートの裾も押さえてくれたし)


「あと、これ渡すようにって」

「あ、500円玉!」


(御美苗くん拾ってくれたんだ…)


「そういえば、伝言で『もうあんな格好するな』って言ってたけど、何のことかわかる?」



あ、はい……お見苦しい姿を申し訳ございません。





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