異世界迷宮と、事象の狭間
さて。
何だか面倒臭い事になって来た気がする.
というのも、メリエールさんの依頼で、このオムイの街の復興を手伝って欲しいと頼まれたんだが。
個人的にはそれもアリかと思ったんだが、どうにもそれは不可能なんじゃないかと本能が理解している。
「……それで、遥くんはどう思う? 今のこの状況を」
いつものように迷宮最下層にやってきて、マチュアの置いていった炊き出しに舌鼓を打っている遥。
だが、どうにもいつもとは様子が違う。
なんというか?
いつもより吹っ切れている?
みたいな?
「うん……まあ、何となくだけれど、理解はしているつもりだよ。ここは、この迷宮のある世界は、恐らくだけれど俺達のいる『実在空間』とは異なる世界。言い換えるのなら、可能性の事象であり、選ばれた者にしか訪れる事が出来ない場所。それでいて、オムイとその街しか実在空間として構築されていないところから察すると……ここは、俺たちの作り出した『現実から逃避するための世界』。そう認識しているけれど?」
淡々と説明をするのはいいんだが。
担々麺を啜りながら話すのはどうかと、おじさんは思うぞ?
そして、その理屈は8割は正解だろうが、残りの2割が外れている。
「ハズレだな」
「え? マジ?」
「今の遙の説明から考慮すると。この場に、マリエールさんがいること自体があり得ない」
「誰、それ?」
ん? 名前間違えたか?
どこからともなくシクシクと鳴き声が聞こえてくるが。
ああ、マリエールじゃなくてメリエールだったわ、素で間違えたわ。
遙のがうつったのか?
「あ〜、君の知っているメリエールさんは、何かにつまづいたら立ち止まり、現実から目を背けるか? 委員長や仲間たちもそうだ。ここに来ている彼らは、何か困難に直面しても決して立ち止まりはしない。常に前を向き、困難に敢えて立ち向かう。そうじゃないのか?」
って、担々麺を食べ終わったら、今度はコムタンスープかよ。それにしても美味そうだよなぁ。
そしてスープを飲み終わってから、『あいつら、そんな根性あったかな?』みたいな顔で斜め上を見るな!
その仕草も一つのポーズだって事ぐらいは理解しているわ!
「まあ、もしもストームさんの話が正解だとしたら。それじゃあ、俺達って、ここで何をしているんだ?」
「休憩」
「……はぁ?」
ま、驚くのは無理もないな。
だって、俺もマッチュから説明を受けていなかったら、こんな仮説には届いていないから。
「まあ、遥達って、常に前を向いて進んでいたじゃないか。困難にぶつかったらそれを乗り越える。壁にぶつかったら破壊する。でも、身体も心も元気なふりをしていても、その本質は疲れ、限界を迎える事がある……そういう時は、どうする?」
「どうするって……俺なら、まずは足元を見るさ。自分に出来る事、自分じゃ無理な事、一つ一つを考えた上で、今の自分に出来る最適解を見つけるか、作り出す」
まあ、そういうことだろうな。
感覚的には。
「それでも出来ない、どうしようもないって心に限界が来たら?」
「一休みするさ。疲れちゃあ、何も出来ないっていう事ぐらいは知っている。でも、やらないとならない時は無茶もする」
「それでも、動けなくなったら?」
そう、ここが大切。
そして、多分だけれど、遙は理解している。
「初心に帰って、一休みするかな?」
ニィッと笑いながら、足元を指差す遥。
このオムイの町が、君たちのスタート地点。
森の中で生き延びる為に得た知識や経験も大切だけれど。
ここが、遥達にとって、今の帰るべき場所。
だから疲れた時、困難にぶつかった時は、この空間に『心だけ』が彷徨い込んでくる。
それは、委員長達も同じ。
この場所でほんの少し息抜きをしているだけ。
だから、目を覚ますと全てを忘れているはず。
「それが、正解だな。まあ、それが理解出来たのなら、俺の役目も終わりって事か。他世界の住民である俺達と触れ合ったことで、多少は……ってあれ?」
ふと気がつくと。
いつの間にか委員長達が集まっている。
炊き出し担当のマチュアから、カレーライスを受け取っていた。まあ、ここの空間なら、何でもありっていうことかよ。
「さて、ストームや、THE・ONESからの回覧板が届いたから持ってきたぞ。ハンコ押したら、私が次に持っていくから」
「はぁ? 俺が押したら俺が持っていくって……ん?」
【ストームに、『事象の守り手』の称号が追加されました】
くっそ、あの創造神。
俺にこの場所の守護もしろって事かよ。
そしてそれを理解してニヤニヤ笑っている遥、お前、明日からストーム・ブートキャンプだからな。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




