使い捨て最低野郎たちのブルース
その日は、朝から雨が降り続いていた。
梅雨明けとか、台風とかそういう面倒臭い天候ではない、ただ、ちょっと空の気分がぐずついて気晴らしに雨を降らせたような感じである。
そんな雨にあたってまで仕事をしたくないと感じていたマチュアは、行きつけのバーのカウンターでのんびりとモーニングを食べている。
バーのメニューにモーニングなんてあったか? と近寄ってきた常連客が尋ねると、彼女はニイッと笑って一言。
「材料持ち込みで勝手に作っただけだよ? レッサードラゴンの生ハムとリククックの無精卵で作ったスクランブルエッグ、エルフ麦と世界樹の雫で作った発酵パンとカツゲンだけど、食べる?」
それだけ贅沢なメニューの中に、どうしてカツゲンが並ぶのかと頭を捻る常連客……ストームは、マチュアの横に座ると頷きながら。
「俺のはピルクルにしてくれるか? あとスクランブルエッグじゃなく目玉焼きで。サニーサイドアップが望ましいんだが」
「アホなの? リククックの目玉焼きって、直径が5メートルを超えるけれど?」
「ウッソだろ?」
「お母さんです……ってそうじゃない、なんで首チョンパしたヘルメットを見せられないとならないんだよ。まあいいわ、ストームがここに来たっていうことは、まさか仕事?」
彼がここに朝から来ることはない。
朝はルーティンワークで【ストームブートキャンプ】を行ってから、日課としてサイドチェスト鍛治工房でインゴットの作成を行うから。
そのストームが来たという事は、マチュアの手が必要になったから。
「そういうこと。まずはこれを見てくれるか?」
鞄から書類袋を取り出すと、そこから数枚の羊皮紙を取り出してマチュアに手渡す。
ベルナー双王国の魔法印が押されている書類ということは、この仕事は王家からの……じゃない。依頼人のところには『通りすがりのカルリマコス』としっかり記されてある。
「どこの世界に、通りすがる始祖たる神がいることやら。で、依頼内容は……ああ、また破壊神の残滓が暴れているのか。しかも、いくつもの世界の階層神、統合管理神を吸収し、【始原の破壊神】を名乗っている……うん、好き勝手させておけば良いんじゃない?」
「と、思うだろ? 奴らの目的は俺たちのこの世界の完全吸収。つまり、THE・ONESの遺産が目的らしい」
「遺産? なにそれ?」
「俺も詳しくは知らんよ。ただそれが奴の手に渡ろうものなら、始祖たる神カルリマコスですら手がつけられなくなるとか?」
状況は最悪、問題は手が足りるかどうか。
ただでさえ厄介な破壊神の残滓が、多次元神を吸収したのである。
いくらカルリマコスからの勅命をいくつもクリアして力をつけてきた二人でも、今回は相手が悪すぎる。
「はぁ。こりゃ手が足りないわ。まずは足が必要。多次元潜航可能な、神の遺物クラスの機動戦艦を手に入れないと」
「それはミサキチに頼んで、機動戦艦アマノムラクモを出してもらう手筈ができているから大丈夫だ」
「……誰それ?」
「カルリマコスからの紹介で、協力者らしい。詳しくは二枚目を参照だとさ」
ふぅんと呟きつつ、二枚目の書類に目を通す。
すでにこの作戦のために、いくつもの多次元世界から協力者を募っているらしく、待ち合わせの場所に集まっているらしい。
ただ、リストに名前は書いてあるものの、横線で消されている人物もある。
「ん? 現代の魔術師は参加不可能、あと、補給関係の生命線の型録令嬢もこれないのね」
「あの二人については、そっちの世界の神々が黙っていないだろうからなぁ」
「でも、空挺ハニーは来れそうだよね? 九織の大賢者ルーラー・ヴァンキッシュも参加ということは、屈強無比な師弟コンビも見られるっていうことか。これは力強いね?」
「俺の方からはゴーレムマスターにも声を掛けてある。現役は引退したらしいから息子を寄越すらしいけど、本人を呼びつけた」
一つ一つチェックを入れると、マチュアとストームはとっとと朝食を終えてバーから外に出る。
そして魔法の絨毯に飛び乗って待ち合わせの場所へと向かっていった。
………
……
…
そこは広い草原。
そこに停泊している巨大な銀色に輝く宇宙船。
機動戦艦アマノムラクモが、頭部管制ユニット部分だけを切り離して着陸していたのである。
その手前では、暇を弄んだ馬鹿野郎たちが、マチュアたちがやってくるのを今か今かと待ち続けている。
「つまり、君は不老不死じゃろ? 物凄く興味があるのじゃが」
「ま、まあ、そうですけれど。どうして私まで引っ張り出されたのですか?」
「さあな。ちょいと待て、話が早いやつに変わるからな」
尸解仙人の白梅と話をしていた男性は、すぐさまポケットからメガネを取り出すとそれを装着。
すると、それまでのクソジジイ的外見が、一瞬で女子高生へと変貌した。
「ああっ、また都合の悪い方は私に押してくれますか……この居候魔導師ぃ!」
都合が悪くなると!すぐに宿主である杏子に変わる大賢者ギュンター・クーン。その一瞬で参加する外観に、白梅は瞳をキラキラと輝かせていた。
「す、すごい、こんなに早く、それこそ瞬きの瞬間程度で外見だけじゃなく骨格まで全て作り変えるだなんて。それも性別まで変換するなんて、ねぇ、さっきの体に付いていた男性器って本物よね? でもあなたは女性だから……教えて、完全なる性別変換術を」
「し、知りませんよ!! それこそ彼に聞いてくださいって!」
食い気味でやってくる白梅に恐れをなし、杏子は再びメガネを取る。
その瞬間、杏子の身体は再び大賢者ギュンターへと変わった……。
「……なあヒルデガルド。あそこの人外二人は、さっきから何をしているんだろう」
「私どもには理解できない事象を楽しんでいるのかと思いますわ」
少し離れた場所では、ミサキ・テンドウが護衛のヒルデガルドを傍にのんびりとティータイムの真っ最中。他のワルキューレたちは皆、アマノムラクモの最終調整にてんてこ舞い状態である。
そんなミサキチの元に、上空から魔法の絨毯が降下してくる。
「オッス、遅れたか?」
「誰かと思ったらストームさんですか。いえ、またエリオンが来ていません。それと、エルフの大魔導師マチルダ・カーマインは破壊神に着きました」
「まじか? よりによってあの子が敵に回るとはねぇ」
ゆっくりと降下してきたマチュアは、愛弟子の一人であるマチルダ・カーマインが敵に回るとは考えていなかった。
「はっはっはっ。まあ、元々のマチルダは復讐のために修行を続けてきた身じゃからなぁ。どうせ、うまく丸め込まれた挙句、洗脳でもされたのじゃろうて」
「あ、ルーラーさんもそう思う?」
マチュアが顔を出してすぐに、大賢者ルーラーとその弟子、如月弥生3曹も顔を出した。
大賢者マチルダ、ギュンター、ルーラー。
三大賢者はその師である『無織の大賢者・マチュア』に師事し独立した。
だから、ルーラーとギュンターも、ここで再会するのは実に久し振りなのである。
「まあ、マチルダはねぇ、心の弱さがなぁ。うん、敵対するのなら性根を鍛え直してあげるわ。それで、そろそろ出発の時間なの?」
「いえ、エリオンが来てないのですけど」
「? あいつが来れるはずないわよ。 呪いで世界に縛られている存在だよ?不老不死だけでなく、家から半径250メートルから離れられないんだから。という事で、今集まっているメンバーが全てかな?」
「そういうことだ。それじゃあいくぞ!!」
ストームがそう叫ぶと、一人、また一人と立ち上がりアマノムラクモへと向かう。
使い捨て最低野郎たちの、最後の戦いが、今、始まる……。
………
……
…
──札幌・TOHOシネマすすきの
「なんだ? この予告編」
久しぶりの休日。
俺は小春と一緒にすすきのに映画を見にきていた。
その予告編で見たのは、実に不思議な映画の予告。
【使い捨ての最低野郎、世界を救う最後の戦いに赴く〜ねぇ、どれだけ最後の戦いがあるの?】
そんなタイトルの映画だけど、上映日もキャストも何もわからない。
でも、近日公開『56億7000万年以内』という大雑把な日付を見て、思わず苦笑するしかなかった。
だって、周りの観客が見ている映像と、俺が見ている映像って多分違う。
それは観客の反応を見てわかるよ。
あの作品が映画化したのか!!
え、ハリウッド実写化って本当なの?
そんな声があちこちから聞こえるんだけど。
どう見ても、この映画じゃないよな?
そして予告編の最後、マチュアとストームと呼ばれていた二人がこっちを見ている。
うん、カメラじゃない、俺を見ているのが分かる。
「別のユニバースになったのだから、お前は呼ばない。でも、来る気があるならとっとと来い」
「勝手についてくるのは構わないが、ラストバトルの美味しいところで顔を出したら、ぶっ飛ばすからな?」
あ〜。
何となくだけど、意味はわかった。
だから俺は、口には出さないでこう返事を返したよ。
第四の壁が壊れたら、その時は必ず向かうからさ。
うん、聞こえたみたいだ。
二人同時にニヤって笑ってから、サムズアップを返して来たからさ。
さて、そろそろ予告編は終わり。
ようやく映画が始まったよ。
この平和な、夢のような世界がいつまでも続きますように。
──to be continue
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・フィクションです、登場するキャラクターは全てフェイクであり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・続きません!!