迷宮剣聖、話が楽しき
俺が、この不可解な迷宮に送り込まれて、間も無く一週間。
初日に訪れた女騎士以降、上層階に踏み込んだ輩がいるのは理解したものの、この最下層までやってきたものは皆無。
暇つぶしに上層階へ腕試しに向かった時の、俺の印象は一つ。
「この迷宮、持って帰りたいな」
である。
幻影騎士団なら単独撃破は可能かと思うが、それ以外の連中、上位冒険者では単独踏破は不可能であろう。
深淵の迷宮の80階に相当する魔物の群れが、普通に10階層あたりで跳梁跋扈きているからなぁ。
まあ、今日はそろそろ店じまいだ、俺が迷宮を出た時にここの入口は消滅する。そしてまた入り口のあった場所に戻ってくると、ぽっかりと口を開くっていう仕掛けらしい。
まあ、このオムイという地は不思議な街で、五階建ての雑貨屋もあればラブホと間違えそうな宿屋街まである。
そんな中でも俺が気に入っているのが、『白い変人』という看板の宿。
ほら、北海道出身の俺の心をくすぐるような、そんな名前だろう?
幸いな事に上層階の魔物を捌いた時のドロップアイテムを売り飛ばして宿代ぐらいは稼いでいる。
あとは……この街の食事の高いレベルには驚かされている。
マッチュの、ああ、俺の相棒のことだが、奴が作る料理は絶品で神をも唸らせる代物だ。
それに近しいレベルの料理がごまんと溢れているじゃないか。
しかも、そのどれにもキノコが使われているらしいからなぁ。
なんだよ、キノコって。
ここのキノコは万能か?
仕事が終わったら持ち帰っていいか?
まあ、今はキノコのことはどうでもいいか。
それよりも、例の女騎士……ああ、王女っ娘っていうのか。彼女から話を聞いてきたのかもしれないが、よくもまあ、ここまで単独で走破してきたよ。
え? ハルカさんに鍛えられた?
そっか、あの王女っ娘もそれなりに強かったが、幻影騎士団にはまだ採用できるレベルじゃない。
あと2年、それだけ修行が積めるなら推薦してもかまわないが。
「……ふぅ。ありがとうございます。このことはハルカさんとオムイの領主にはご報告しておきます。新しい迷宮は、害はないと」
「まあ、だからといって安全って訳じゃない。ここまで来るのはほぼ不可能だし、俺は倒されることはないからな」
「はい。ちなみにですが、迷宮皇さんのお名前は、なんていうのですか?」
名前、か。
まあ、見ず知らずの新聞記者のような女の子になら、教えても構わないか。
「俺か? 俺の名前はストーム。ストーム・フォンゼーン。ベルナー王国連邦、サムソン辺境伯領のご意見番だ。君の名は?」
「ええっと……尾行っ娘って呼ばれています。では、ありがとうございます」
にっこりと笑いながら、女の子は立ち去っていく。
ああ、帰り際にマチュアの作ったクレープをお土産に渡したけれど、一口食べて『すごく美味しいです』って笑っていた。
でも、あの笑顔は、それよりも美味しいものを知っている顔だなぁ。
このことをマチュアに話したら、リベンジだって飛んできそうだな。
さて、ぼちぼち仕事に戻るか。
最下層に近寄るこの気配。
かなりの手だれが集団で来るようだからな。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
これはFAのようなものです。
今回は、尾行っ娘。
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こ、今回もアウトじゃありませんように。