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酩酊魔女はやらかした。弟子よ、あとは任せたぞ!

おや。

今日はお客が少ないねぇ。

まあ、何かリクエストがあったら、ゆっくりと語ってあげるけど?


え?

酒場なんだから、お酒にまつわる話?

そうだねぇ。

それじゃあ、こんなお話はどうだい?

これは、向こうの大陸で聞いた、こんなお話はどうかな。

 ズキズキと頭の中から鈍痛が響いてくる。

 気のせいか体の節々も痛い。

 この痛みに耐えきれず、ティープルは目を覚ます。

 薄ぼんやりとした意識の中、周りを見渡すことで、ようやく自分の置かれている現状に気がついた。


「……あら? 私、またやらかしました?」

「やらかしました? じゃねーよ。プリエステス・ティープル。これで何度目だと思っているんだ?」


 目の前の鉄格子の向こうでは、彼女の知り合いの刑吏が頬を引き攣らせながら呟いている。

 シスター・ティープルが今いる場所は、街の中にある収容所。

 その中でも一番罪の軽いものが一時的に入れられる反省房のような場所である。


「ひいふうみい……五回目?」

「ゼロをひとつ足してくれな。四十五回目だ、なんで聖ノーマ教会の司祭を務めるあんたが、毎度毎度、ここに連れられてくるんだか」

「そうですわね。私にもさっぱりわかりませんわ」

「あんたがいう街角ミサだよ!! 昨日も酒場でやらかしただろうが」


 本当に何も知らない風のティープルに、刑吏がすぐさまツッコミを入れる。

 かつて勇者が生まれた街と言われているこの都市は、勇者ノーマを祀る聖ノーマ教会の総本山であり、今もなお、勇者の強さ、優しさ、慈悲深さには感銘を受けた信徒たちが教会を訪れている。


 ノーマの生まれ変わりと言われるほどの魔力量を持って生まれてきたティープルは、幼い時の洗礼時、女神からあるものを授かった。

 それが、【癒しの右手】と呼ばれる彼女の【祝福】である。

 右掌に生み出された聖印は、癒しの波動といういかなる怪我や病気も癒す魔力を生み出すことができる。

 その為か、不治の病に苦しむものや戦争などで傷ついた体を癒してもらうために、この地を訪れることは少なくなく。

 日夜、ティープルは教会を訪れる人々に慈悲の癒しを行なっているのである。


 そして夜になると何故か、必ず酒場にやってきては辻説法まがいのことを行い、酒を嗜む。

 

「ん〜。昨日は旅の冒険者の方が、どうしても古傷を癒してほしいとお願いされて……そうですわ!! 傷を癒したのです」

「その代価に酒を奢って貰い、酔った勢いでそっちの手を使ったんだろうが」


 刑吏が指差したのは、彼女の左手。

 レースの手袋に包まれた手は、いつものように赤く血に染まっている。


「あらら。これは参りましたわ」

「まったく。なんであんたがノーマさまの加護を受けているんだが、本当に理解できないよ……と、ほら、シスターが迎えにきたようだから、今出すからな」


 ジャラッと鍵束を手に取り、ティープルの入っている反省房の鍵を開ける。すると、いつものことのように細い扉から出てくると、ティープルはようやく身体を伸ばした。


「うーん。朝のお勤めにはまだ間に合いますわね」

「そのために迎えに来たんだろうが!! いいか、この反省房はプリエステスの寝床じゃないからな」 

「私だってお断りしますよ。こんな硬いベッドなんて」

「五月蝿え!! とっとと出ていけ!!!!」


 刑吏に怒鳴られ、渋々とティープルは反省房のある建物から外に出ると、身請け人の待合室に移動する。


「お待たせ!! カナタちゃん、替えの手袋を持ってきてくれた?」

「はぁ。新しいものは用意できなかったので、以前に使用していたものを再聖別して術式処理してもらってきました」


 そう告げながら、シスター・カナタは傍に下げている鞄から、術式処理された小さな箱を取り出す。

 それをティープルに手渡すと、彼女はにっこりと笑いながら、箱の封印を解除し、中からレースの手袋を取り出した。


「さてと。カナタちゃんは離れていてね。受諾せよアクセプト。我が名はティープル。我は汝を封印するものなり。我が願いに応え、新たなる枷を、汝に与えよう」


 ゆっくりと、魔力の篭った言葉を紡ぐ。

 すると、左手の血まみれの手袋が輝き、指先から細い絹糸がスルスルと伸びていくと、小さな絹玉を作り出した。

 そして全ての絹糸が絹玉に変化すると、先程封印を解除した箱から取り出した新しい手袋をゆっくりと嵌めていく。


「……はぁ。相変わらず凄い魔力です」

「その代わり、代償も高いことは知っているでしょう?」

「ええ。そのために、私がティープル様付きのシスターを行っているのですから」


 プリエステス・ティープルの言う代償。

 彼女は、右手の聖印を受けた時の代償として【毒に抵抗できない】体になってしまった。

 それを補うために、彼女は【浄化の手袋】を左手に嵌め、体に侵入した毒素を手袋に移すことで毒の影響から逃れることができたのであるが。


 毒に弱いと言うことは、酒に弱い。

 カップ一杯の酒でさえ、いや、ヘタをすると酒場の雰囲気だけで、彼女は酩酊する。

 聖ノーマ教会に仕えるものは、ワイン以外の酒を飲むことは禁止されている。そのため、酒場などには立ち寄ることはないのだが、ティープルは街中を歩き回っては、困った人に救済措置を行なっている。

 

 この時点で、もうお分かりであろう。

 旅の冒険者が来たと言う話を聞くと、彼女は酒場に向かい、旅の話を聞かせてもらう。

 そして困った事はありませんかと、いつものように辻ヒールと呼ばれている癒しの右手で、怪我や病気を癒す。

 だが、同時に長時間もの間、酒場にいることになるので。

 段々と彼女は酩酊状態に陥ってしまう。

 その酒に酔ったティープルに不埒なことをしようとしたものの返り血が、左手の血塗られたレースの手袋である。


 そして、いつものように全力全開で左手による救済? を行ったプリエステスは、極秘裏に刑吏に囚われて反省房へと連れられていくのである。


 ここまでが、彼女のテンプレート。

 神は二物を与えないとは嘘。

 勇者ノーマの加護により、ティープルは全盛期の勇者と同じ強さを持つ。それも、【酒に酔った時にのみ発動する】という悪質な条件で。


「はぁ〜。このまま帰って、お昼寝していい?」

「ダメに決まっているじゃないですか。なんでティープルさまは、朝からお昼寝のことを考えているのですか。とっとと教会に戻りますよ、今日の朝の説法はティープルさまの担当なのですから」

「あら、それは急がないとなりませんわ。さあ、走りますよ」

「走らないでください!! 街の中を疾走する聖職者って何ですか? これ以上、聖職者全体の評判を悪くしないでください!!」


 そう叫ぶカナタも、何処か嬉しそうである。

 彼女の説法の時、聖印から溢れる魔力は人々に癒しの波動を浸透させる。

 いつか、そこに並び立ちたい。

 そう考えて、カナタは今日もティープルの後ろを走る。


 なお、この後は汗だくの二人を見て、司教のお叱りを受けるところまでも、テンプレートである。


──FIN

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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