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ひかりの恋それから  作者: ひなたひより
第一章 誠司とひかり
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第4話 胸の高鳴る夜

 ひかりはお風呂上りで、火照ってほんの少し色づいた肌を冷ましながら、自室のベッドの上で寝そべっていた。

 そして目を閉じて、今日あった一生忘れることの無いであろう出来事を思い出す。


「おれと……お付き合いしてくれませんか」


 顔を真っ赤にして勇気を出して言ってくれたひと言……。

 昨日の美しすぎた夕日の中、好きだと言ってくれた告白に続き今日も夢みたいな言葉をもらった。

 また胸の鼓動が高鳴ってくる。

 ひかりは、自分がいま恋の只中にいることを全身で感じていた。


「私達お付き合いすることになったんだ……」


 小さく口にしてみて、そのイントネーションを噛みしめてみた。

 自分にとって全く未知の領域に、彼と共に飛び込んだのだという自覚が遅れてやって来た。


 もうただの友達じゃないんだ。彼はただの彼じゃなくって特別な彼なんだ。


 そしてひかりは今の二人の状況を落ち着いて整理してみる。


 ということは私たちって……。


 恋人同士!


 ひかりは思い浮かんだ四字熟語? に鼻から熱い息が吹き出してしまった。


「きゃー!」


 ひかりはまだ乾かしきっていない髪のままで、枕を抱いてベッドの上をじたばたと転がった。


 駄目。こんなのが毎日だったらとてもじゃないけど心臓が持たないわ。

 明日またこんなことがあったら本当に死んじゃうかも……。


 そしてふと、あの人は今どうしているのだろうかと思い描く。


 私と同じようにいつまでも胸の高鳴りが収まらないのかな……。

 もしそうだったとしたら嬉しいな……。


「高木君……」


 声に出して呼んでみる。


 ……お付き合いしだしたんだし、名前で呼び合うほうが自然なんだよね……。


 そしてひかりは枕を強く抱きしめたまま天井を見上げる。

 そして頬をやや紅潮させてもう一度口を開く。


「せいじくん……」


 声に出してからひかりはさらに紅くなった。


「きゃー!」


 枕で顔を覆い叫んでから、再びじたばたとベッドの上を転がる。


 なんだか凄いことしてるみたい……。

 でも、明日からそう呼んでみようかな……。


 そしてひかりはふと思った。


 高木君は私のこと、なんて呼んでくれるんだろう……。


 そしてひかりは思い描く。

 あの優しい口元できっとこう呼んでくれるんだ。


「ひかりちゃん」


 頑張って想像しすぎて、本当にそう呼ばれたような気がした。


「きゃー!」


 ひかりは枕を抱きかかえ、じたばたとベッドから落ちそうなくらい転がった。

 どうやら無限ループにはまり込んでしまったひかりだった。



 そして一方。


 ひかりが自室のベッドで叫び悶えている丁度そのとき、誠司は湯船に浸かりながら今日あったことを振り返っていた。

 ひかりからもらった嬉しい言葉を反芻し胸を高鳴らせる。

 感覚の亡くなった指のある右手を湯船から上げて、誠司はじっと見つめる。


 この手を取ってただ幸せだと言ってくれた……。


 また涙が出そうになってきた。


 それは俺の方だよ……。


 熱い湯船の中で誠司の心は溶けてしまいそうだった。

 そしてとうとう言ってしまったあの言葉……。

 あの子は頬を真っ赤にして受け止めてくれたんだ……。


 時任さんとお付き合いすることになるなんて……。


 ずっと想い続けてきたけれど、手が届くなどとは夢にも思わなかった憧れの少女だった。

 誠司は昨日から今日にかけての夢の様な展開に、未だ本当に起こっていることなのかと半信半疑だった。


 学園一の美少女が俺なんかと……。

 彼女は控えめで優しくておしとやかで、それでいて芯が強くて人気者で、とにかくめちゃくちゃ可憐で可愛くて……。


 頭の中に焼き付けてあるひかりの面影を色々思い描いているうちに、どんどん自信が無くなってきた。


 駄目だ。朝目が覚めたら幻だったってパターンだ。


 でも……。


 誠司は顔を鼻まで湯船に沈めて、ブクブクと息を吐きながら思い出す。


「……ただ大好きなの」


 その恥ずかし気な声の感じまで思い出して、鼻から熱い息が噴き出る。


 いいや、現実だった。紛れもなく昨日のことも今日のことも本当にあったことだった。


 誰もいない風呂場でのぼせそうになりながら、誠司は再確認を果たした。


 と、いうことは……。


 やはり行きつく答は一つだった。


 今もう俺と時任さんは恋人同士なのか!


 またまた熱い鼻息がドッと噴き出た。

 同時に心臓の鼓動がバクバクと重低音を響かせ始めた。


 まずい。このまま風呂場で心臓が止まって死体で発見されそうだ。


 誠司は本当に命の危険を感じ、風呂から上がろうと腰を上げようとした。


「ん?」


 誠司は首を傾げた。

 今浸かっている湯船のお湯が妙に紅い。

 そしてすぐにその原因が自分の鼻から結構な勢いで流れ出している鼻血であることに気付いた。


「げっ!」


 驚嘆した誠司は、可憐で可愛いひかりを思い浮かべ、今死ぬわけにはいかないと急いで風呂から上がったのだった。



 誠司は鼻の穴にティッシュを詰めたまま布団に仰向けに横たわる。

 どれだけ血が出て行ったのかちょっと怖かったが、どうやら大丈夫そうだった。

 後から風呂に入った父がきっとびっくりするに違いない。


 時任さん……。


 誠司は目を閉じる。

 瞼の裏側は可憐な眩しい笑顔の少女で彩られていた。


 今日も眠れそうにないな。


 昨日の夜と同じく、また長い夜になりそうだと胸をどきどきさせる。

 それでもいつの間にか誠司は眠っていた。

 夢の中で明日を待ちきれなかった可憐な少女が笑っていた。

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