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ひかりの恋それから  作者: ひなたひより
第四章 それぞれの恋
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第5話 ときめき恋愛

 放課後の教室、ひかりは誠司の様子を見に来て、そのまま談笑していた。

 話をしている最中、ひかりが誠司の耳元で囁いた。


「ねえ、誠司君。島田先生、なんかさっきからこっち見てない?」


 ホームルームが終わった後も教室から出て行こうとせず、島田は少し離れた席に座っていた。

 誠司が振り向くと、島田はさっと窓の外を見る。


「どう?」

「うん、見てた」


 視線を感じつつ誠司とひかりは談笑を続ける。

 しばらくして、ひかりは誠司に目で合図を送る。

 そして同時に二人で振り返る。


 サッ。


 島田は窓の外を見る。

 明らかに怪しい動きをしている。


「でね、楓がね面白いの……」


 二人で息を合わせて島田を振り返る。


 サッ。

 サッ。


 また島田は慌てて視線を逸らす。


「そうなんだ、じゃあ……」


 サッ。

 サッ。


「先生なに? さっきからこっち見てるみたいだけど」


 誠司が指摘すると、島田はわざとらしく「えっ、おれが」と胡麻化した。


「いや気のせいじゃないか? どうぞそのまま続けたまえ」


 島田は手を振って窓の外を見た。


「ひかりちゃん、どう思う?」


 誠司が囁いた。


「すごい怪しい」


 ひかりは島田から目を離さずしばらく観察する。

 怪しいと思いつつ話の続きを再開する。


「ひかりちゃんのクラスでさ、勇磨と仲良くしてる橘さん以外の女子っている?」

「どうかなー。あの噂のせいでなかなか……」


 サッ。

 サッ。


「見てた! 今、絶対見てた!」


 間違いないと誠司が島田を指さした。


「何のことかな?」


 島田は窓の外に顔を向けたままこちらを見ない。


「何よ先生、女生徒をやらしい目でじろじろ見て、とうとう本性を現したみたいね」

「橘! お前いつの間に!」


 席に座る島田の上から、楓は腕を組んで見下した目で言い放った。


「私はひかりのピンチには絶対駆けつけるのよ。このドスケベ」

「なんだよ。また俺の悪口か?」


 自分のことかと頭を掻きながら勇磨は教室に入ってきた。


「あんたもドスケベだけど、今はこのエロ教師を成敗しなきゃならないのよ」


 楓は鼻息荒く島田を指さした。


「ちょっと待て、何時俺が時任をいやらしい目で見たって? 俺はガキには興味ねーっつーの」

「先生ひどい」


 迂闊に口にした島田のひと言にひかりはウルウルしている。


「いや、時任、今のは言葉のあやだからな。まともにとるな」

「あんた、やらしい目つきでひかりを散々舐めまわすように見ときながらいさぎ悪いのよ。正直に言いなさいよ」

「いや、だからだな……」


 何か言いかけた島田は、何時からいたのか教室の入り口に清水ゆきがいるのに気付いた。

 立ちすくんだまま、ゆきは泣きそうな顔をしている。


「なんか。聞いてました?」


 島田が言うが早いか、ゆきは教室を飛び出して行った。

 島田は呆気に取られている。


「おい、なんか不潔って言って走ってったぞ」


 勇磨が親切に島田に教えてくれた。


「清水せんせーい!」


 勢いよく島田は席を立って、ダッシュで追いかけて行った。



 それからしばらくして、ゆきを連れて教室に戻って来た島田から事情を聞かされた。

 その内容に楓は拍子抜けしたような声を上げた。


「なーんだ。そうだったの」


 実は島田は今度のゆきとの初デートでどんな雰囲気がいいか悩んだ結果、ひかりと誠司のときめき純情恋愛に憧れているゆきの喜びそうな感じをこっそり勉強していたという。

 そして事情を説明したことで、島田がゆきと交際し始めたのが四人にバレてしまったのだった。

 当然のことながら、四人とも教師同士の恋愛話に大いに関心を持った。特に楓は好奇心むき出しで二人に迫ったのだった。


「島田先生もやるじゃない。まさか清水先生みたいな美人を射止めるなんて」

「いや、まあ、そうなんだけど、このことは黙っといてくれよな。先生方や生徒たちにもあんまし知られたくないんだ」

「フフフ。いいわよーん。そのかわり口止め料は高くつくけれど」

「こら! 楓」


 ひかりが楓のほっぺたをギュッとつねったので、やっと大人しくなった。


「いたたた。もう、冗談よ。島田先生を陥れたいのはやまやまだけど、清水先生を私は応援してるの。お気に入りの清水先生が島田先生に手を付けられたなんて噂になったら、清水先生のイメージに傷がついちゃうじゃない」

「橘! ちょっと言い方に気をつけろ! なんか生々しい表現してくれたけど、そんなんじゃないから。まあ黙っててくれるっていうのはありがたいけど」


 島田は楓の発言に頬を紅く染めて、一部弁解した。

 ゆきはというと、両手で顔を覆って恥ずかしがっていた。

 そして、今日聞いたことは絶対に誰にも言わないと約束して、四人は島田とゆきを安心させてやったのだった。


「それで、清水先生との初デートに備えて、ひかりをいやらしい目で観察していたってわけね」

「橘! おまえのその言い方だと、やっぱり俺は悪者になっちまうだろうが。そこんとこ気をつけろ!」

「違うの?」

「完全に言いがかり。橘、お前ほんとに恐ろしい奴だ。新に同情するよ」

「そうだろ。もうたまんないんだよ」


 勇磨は疲れた顔で島田の意見に賛成した。


「何よ。私、嘘言ってないもん」


 楓はフンと口を尖らせた。


「まあ誤解は解けたろ。清水先生も高木と時任のこと滅茶苦茶気になってるし、ちょっとぐらい参考にさせてもらってもいいだろ」

「先生それはちょっとやめてくれよ。俺もひかりちゃんも恥ずかしいじゃないか」


 誠司はひかりとお互いの顔を見て恥ずかしそうな顔をした。


「ああ、すまなかったよ。しかしお前らケチだな。減るもんじゃないし」


 島田はちぇっと舌打ちした。


「高木君と時任さんのカップルは私の理想だけど、島田先生はそんなこと気にしなくていいんですよ。私、島田先生とお出かけできるんならどこだっていいし、それにいつもの島田先生がいいの」


 そう言ってゆきはまた紅くなった。

 そして楓を筆頭に生徒たちは島田の微妙に嬉しそうで恥ずかし気な顔をニヤニヤしながら眺めた。


「そうなんだって。ね、島田先生。ふふふ」


 楓とひかりは視線を必死で逸らせようとする島田を観察している。


「もう、島田先生をいじめないで」


 ゆきが島田をかばうようにそう言ったので、生徒たちは余計に島田をニヤニヤして見るのだった。

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