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ひかりの恋それから  作者: ひなたひより
第四章 それぞれの恋
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第4話 その映画絶対ない

 まるで運命の様に鉢合わせになった二組だった。

 そして勇磨は楓の顔を見た瞬間、手に持っていた何かの袋をどこかへ放り投げた。


「ど、どうしてここに?」


 誠司がうろたえながら、ひかりに訊いた。


「え、映画だよ。楓に誘われたんだ」


 こわばった笑顔を作りながら、ひかりは必死で取り繕った。


「そうなの。ひかりを誘って映画観てたの。ひかりを借りちゃってごめんね」


 楓も何とか作り笑顔で胡麻化した。


「誠司君たちも?」

「うん。ひかりちゃんに会えるのお昼からだったから勇磨に付き合って……」


 内心ギクッとしたがここは平静を保てた。


「橘、お、おっす」

「おっすて何よ。もっと気の利いた挨拶ないの?」


 楓は愚痴ったがバツが悪そうだった。


「いや、ごめん。びっくりしたんでつい」


 勇磨はそう言って下を向いた。


「いいよ。わたしもビックリしちゃって……」


 二人とも恥ずかしそうだった。


「橘さんと何の映画見てたの?」


 ひかりの大好きな笑顔で誠司が聞いてきたので、ドキドキしながら「えーと」と悩む。

 言葉が出てこないひかりに代わって楓が割って入った。


「それより高木君たちは何見てたの? 怖いやつとか?」


 今度は誠司が目を泳がせ始めた。


「俺たちはそう、あれだよな勇磨」


 誠司は思い付かなくて勇磨に振った。


「ああ、あれだよ。わかるだろ」


 苦し紛れに上映中のポスターが張り出されているところを適当に指さした。


「ゾンビーズ3ね。よくあんな気持ち悪いのお金出して見れるわね」


 楓は渋い顔をした。


「高木君も可哀そうに、あんなのつき合わされて」


 楓は誠司に同情するように言った。

 そこへ劇場スタッフが駆け寄ってきた。


「お客様落とされましたよ」


 さっき勇磨が投げた袋だった。

 にこやかな劇場スタッフが持って来た袋を、勇磨は迷惑そうに受け取った。


「はあ、すみません」

「なにそれ?」


 楓は袋の中身を見ようと覗き込む。


「見んな!」


 勇磨はサッと隠した。


「何よ、見せなさいよ」


 楓が袋を引っ張る。


「よせ、破れるだろ」


 そして本当に破れてしまった。

 ぱたりとカーペットに落ちたものを見て、四人とも凍り付いた。

 それは劇場版ラブぽよサンシャインドリーマーズ15禁のパンフレットであった。

 勇磨は頭を抱え、誠司は言葉を失い、ひかりと楓は口を押さえて青ざめた。


「あ、あんたたち……」


 楓はやっとのことでそうつぶやいた。

 勇磨と誠司は首を振って何か言おうとしている。


「ゾンビーズ3じゃないじゃない……」

「橘、話をしよう。な。な」


 勇磨は変な汗を額に浮かべて慌てふためく。

 その隣で、誠司は泣きそうな顔をして何も言えずに固まっている。


「誠司君もこういうの好きなんだ……」


 ひかりは悲しそうな顔をして誠司を見つめていた。


「ち、ちがうよ。誤解だよ。俺は勇磨に誘われて仕方なく……」

「ひかりの大事な高木君を何あんた、たぶらかしてんのよ」

「誠ちゃん裏切ったな……」


 勇磨は寝返った親友をキッと睨んだ。


「誠司君、私、信じていいんだよね」


 ひかりはうるんだ瞳で誠司を見ている。


「も、勿論だよ。俺が関心あるのはひかりちゃんだけだよ」

「うん。私、誠司君を信じる」


 ひかりはほっとしたようだった。


「あんたが全部悪い。謝りなさい」


 楓はパンフレットを勇磨に突き付けた。

 勇磨は言い逃れできずにがっくり肩を落とした。


「すみませんでした」

「ね、楓、もういいじゃない。ご飯でも食べに行こうよ」


 ひかりは誠司が自分だけだと言ってくれたことで機嫌を直したようだった。


「そうね。でも新は置いていきましょう。不純なやつは入れてやらなくていいわ」


 楓はまだ怒っている。


「そんな、可哀そうだよ。こんなにしょんぼりしてるし」

「橘さん、許してやってよ。勇磨は俺が必ず更生させるから」


 二人に言われて楓は腕を組んで勇磨をじっと見た。


「そうね、これは病気みたいなものだからしょうがないわね」


 楓はパンフレットを丸めて勇磨の頭をぽんぽんはたいた。


「今回だけ許す。その代わりお昼はあんたの奢りだからね。いいわね」


 楓は今日も勇磨をコテンパンにやっつけた。


「はい」


 なんとなくいつもどおりの光景だったが、誠司とひかりはなんだか少し勇磨が可哀そうに思えたのだった。



 勇磨のおごりで昼食を食べているとき、誠司は何気に女子二人に訊いた。


「それで二人が観た映画って何だったの?」


 楓とひかりの手が止まる。


「それはあれよ、今流行ってるやつ。ね、ひかり」

「そう、そうなの、流行ってるやつなの」


 誠司は「へえ」と言って、どんな話なのと訊いた。


「それはもう大したことなくって説明するまでもないような映画だったの。ねえそうだったよね、ひかり」


 楓がまたひかりに振った。


「そう、そうなの。もう退屈で、まともに見れないってゆうか、ははは」

「そうなんだ、せっかく観に来たのに残念だったね」


 誠司はひかりの話を聞いて、気の毒そうな顔を見せた。


「で、なんて映画だよ」


 今までずっと黙っていた勇磨が口を開いた。


「何だっていいでしょ!」


 楓がぴしゃりと言った。


「良くねーよ。そんなつまんねえ映画なら知っとかないとな。間違って観たら損するだろ」


 楓が小さく、ちっと舌打ちする。


「タイトルちゃんと覚えてないのよね。とにかく流行ってるやつよ」

「時任は覚えてないのか?」

「わ、私は楓についてきただけだから、もうタイトルどころか内容もなんにも分からないの」

「ふーん」


 勇磨は不満そうだ。


「今流行ってるやつってあれかな……」


 誠司が思い出したように言いかけてるのを、楓とひかりは固唾をのんで見ている。


「なんだっけ? 出てこないや」


 楓とひかりは二人そろって安堵した。


「タイトルは出てこないけどラブストーリーだよね。ちょっと過激すぎるって映画評論家が酷評してた。でもあれって年齢制限もあるしまさかね。退屈ってことないだろうし」

「あれだろ、愛の地平線だろ」


 勇磨が言った。

 楓とひかりは心臓が飛び出そうになった。


「なに? その愛の何とかって初めて聞いたけど」


 楓は早口になっている。


「ひかりもそんなの知ってる?」

「私? 私は聞いたことないわ。生まれて初めて今聞いたわ」

「じゃ、何だろうな……」


 勇磨は目を閉じてウーンと唸りながら思案した。

 そして……。


「ひょっとして、定年退職宇宙戦士孫四郎か?」


 勇磨がこれだろとひらめいた。

 一部のコアなマニアから支持を得ているB級特撮ヒーロー映画のタイトルだった。


「そう。確かそうだったよね、ひかり」

「それだわ。間違いない。すごいね新君」


 二人は顔を見合わせてすごい喜んでる。

 誠司と勇磨はそのクソつまらなそうなタイトルの映画を絶対に観ることはないだろうと思った。

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