第五話「見えた、未来が。」
「頼れるのは俺の能力だけか。それもろくに使い方もわからないし。ゴールゼンのほうがよっぽど役に立ちそうだぞ。」
テルヤがトボトボと歩きながら言う。
「そう拗ねないでください。これからですよ。今わたくしたちが目指すべきところは隣街のガルムスです。そこはヴェルヘニアの交易の要ですから、情報やアイテム、なんでも手に入ります。ヴェルヘン城があった王都よりずっと栄えていますよ。新しい仲間が見つかるかもしれません。ほら、希望が見えてきたんじゃないですか?」
「まあ、励ましてくれてるのは分かったよ。ありがとう。」
気まずそうに頭を搔きながら、空を見上げる。空は大分暗くなってきている。
「あれ、ガルムスって半日でつくはずだよな?なんでもう夕方なんだ?」
お前が遅刻したからだろ! なんて馬鹿な主人公なんでしょう。僕のシナリオでは次の街で新しい武器や防具を買うために魔族狩りをする予定でしたが、仕方ありません。《近くの村に立ち寄らせて、その村を襲わせましょう。》
これなら今日中に魔族を狩れますし、シナリオに復帰することも簡単だ。
ああ、なんて頭がいいんでしょう、僕は。
「テルヤ様が遅刻していなければ間に合ったのですが。そうですね、この近くに——」
「おい! この近くに村はないか!」
血相を変えて、テルヤがサルビアの肩をつかむ。
頬を赤らめながらも、しかしそれ以上にその尋常ではない様子のテルヤに戸惑いながら、サルビアが答える。
「え、ええ。あります。少し歩いたところに、ヴェスタ村という村が……。」
「そうか、なら聞いてくれ。その村が襲われる。今日だ。」
「そんな、なんでそう言い切れるんです?」
「見えた、未来が。」
「え?」
え?え?未来予知が主人公の能力だったんですか?困ったな、これじゃあまた予定通りに行きませんし……。
「信じがたいですが、そんな嘘をつく理由もありませんし、分かりました。助けに行きましょう!」
「いや、ダメだ。俺とお前じゃ魔族を倒せない。《魔法でも剣術でもいいから、敵を倒せるような奴にこれを知らせないとダメだ。》」
ああ、僕が考え込んでいる間に展開が進んでしまった! 仕方ありません。今はとにかく展開を描写しなければ……。
二人がそうして考えあぐねていると、背後から声がかかる。
「なにか、困ってる? みたい。そう見えますです。」
振り返れば、そこに立っていたのはいかにも魔法使い、といった風体の少女。
その真っ白な長い髪を無造作に伸ばし、目元まである前髪からは眠そうな眼が覗いている。だが、その特徴的な声と喋り方で、この少女がただモノではないのだと、直感させるだろう。
「ああ、この際アンタが何者でもいい、この近くのヴェスタ村までついてきてくれ。攻撃魔法は使えるよな?」
そのテルヤの言葉に、少女はニヤリと笑って返す。
「人に物を頼む態度じゃない、です。おねがいするときは言い方があるはずです。でしょ。」
テルヤはひとしきり頭を掻いてから、頭を下げた。
「頼む、この通りだ。俺についてきてくれ。」
「よし、うん。わかった、わかったです。」
ルートはうんうん、と満足そうに頷いた。
「オマエの名前は、なに、です? わたしはルート。職無し魔法使い、です。なんだか懐が寒い、寒いです。」
「俺はテルヤ。こっちがサルビアだ。礼ならする。支度金をもらってきたからな、そこからなんとかする。それでいいか。」
ルートと名乗る少女——僕はこんなキャラを作った覚えはないんですが——は目を輝かせながら
「ほほー、察しがいい、です。察しがいい男はモテる、です。なんだか好きになっちゃいそう、です。」
そう言いながら、ルートはわざとらしくテルヤに抱き着く。
サルビアがその暴挙にわずかに殺気にも似た雰囲気を醸し出していると、テルヤは全てを見通したような笑顔で言う。
「本心は?」
「いい金づるが見つかって、うれしい。です。」
テルヤは苦笑しながら、返す。
「金払うんだから、仕事はこなしてくれよ。」
「なにすれば、いい、です?」
「今からヴェスタ村が襲われる。魔族に、だ。俺たちは後方支援役しかいない。だから、ヴェスタ村を助けられる奴を探してたんだ。」
「よくわかった、です。なら、ルートにおまかせ、です。」
ぽん、とない胸をたたくルートを見ながら、テルヤは言う。
「なんでヴェスタ村が襲われるとわかったのか、とかそういうのは聞かないんだな。」
「聞いてほしい、です?」
ルートは肩をすくめながら返し、
「いや、野暮だったな。」
テルヤも笑って返した。
それからしばらく歩き、遥かなる稜線に太陽が隠れようとしたとき、少し遠くにぽつぽつと明かりが灯っていたのに気づく。
「あれがヴェスタ村か?」
「ええ、おそらく。」
「腕がなる、です。がんばる、です。」
ヴェスタ村に近づくにつれ、周囲は緑から土色の畑に変わっていく。休耕中なのか、はたまたまだ芽が出ていないのか、畑に緑はなく、どこか寂しげであった。
村はこれからの未来を知る由もなく、ゆっくりと時間が流れていた。しかし、異邦人を見て、村人が少しソワソワしているようにも見えた。
「ようこそ、ヴェスタ村へ。道にでも迷いましたかな。」
村人の一人、ひときわ恰幅のいい男性がテルヤに声をかける。それから、テルヤの横に立つ金髪の女性——サルビアに目を向けると、少し驚いたように言った。
「おや、どこかで見た顔だ。服装からして、お忍びかな。なにゆえこのような辺鄙なところに?」
「いえ、そちらのうっかりさんが寝坊をしてしまいまして。日中にガルムスに着くのが難しくなってしまったのです。」
そういいながら、サルビアはどこか責める目でテルヤを見る。
テルヤは少したじろぎながらも、やがて見なかったことにして、村人に向き直る。
「そういうわけだ。今夜泊めてくれ。」
テルヤの言葉に、村人は寂しい頭を撫でながら、返す。
「村には宿屋がありませんので、私の家でよければ。」
それを聞き、テルヤは二人のほうを見る。それから、二人が異を唱えないことを確かめて、その申し出を受け入れた。
投稿時は、こうして2000字程度を1話として、5話いっぺんに行います。
次回投稿は2022年2月28日までに行う予定です。
それでは、またの機会に。