第四十二話「気を付けて進むぞ」
二度寝したら寝坊しました。
活動報告にはもう書きましたが、今回は話数のズレを修正するため4話のみの投稿になります。
「いやもう情報が多すぎて何も入ってこねえよ!」
目の前の少女型アンドロイド、ワラシを見ながらテルヤが叫んだ。
「てか、まずその喋り方なんなんだよ! さっきと全然違うじゃねえか!」
「私たちマルチアクセサリはマスターの好みを分析して性格をセットアップするのよ。そんなことも知らないなんて、アンタ馬鹿なわけ?」
「テルヤ様、こういう女の子が好きなんですか?」
白い目を向けられ、テルヤがしどろもどろになる。
「いや、違うぞ? ちょっと強気なほうが好みとかそういうのはないぞ?」
ワラシは続ける。
「この私がこれからマスターのサポートをしてあげるんだから、感謝しなさいよね!」
「で、お前には何ができるんだよ。」
「ふっ、聞いて驚きなさいよ!」
ワラシはふふーん、と胸を張った。
「分からないものを検索したり、分からない言語を翻訳したり、複雑な計算をすぐに終わらせたり、これからの天気を予測したり、風景を記憶して描写したり、音楽を記憶して演奏したり、現在地や周辺情報について調べたり、現在時刻の確認や設定した時間を通知したり——出来るわ!」
「他には?」
一息にまくしたてる彼女に、テルヤは眉をひそめる。
「以上よ!」
「役立たずじゃねえかよ!」
「そんなことありませんよ! どれもあったら嬉しい機能です。どこが役立たずだというのですか?」
「俺たちは魔王を倒すために旅をしてるんだぞ! なにが悲しくてこんな喋るスマホを連れて行かなきゃいけねえんだよ。戦闘の役に立たねえじゃんかよ!」
「それをテルヤが言う、です? 最近までテルヤも役立たずだった、です。」
「そうですよ。それにこんなところに置いていくなんて可哀そうです。連れて行きましょう。」
「ああ、もう……。わかったよ……。」
肩を落とすテルヤとは対照的に、サルビアとルートがワラシの手を握る。
「よろしくお願いします、ワラシさん!」
「ワラシちゃん、よろしく、よろしくです。」
こうして、主人公は喋るスマホを手に入れたのでした。まあ、彼女の性能がそれこそぶっ壊れだったりしなかっただけいいでしょう。しかし、何故ここまで前衛職が仲間にならないんでしょうね……。
まあ、とにかく魔王を倒し得るアーティファクトを手に入れたのです。このままアルシオンに報告に行ってもらいましょう。それから、シャルテについての情報収集です。
《勇者よ、ひとまずアルシオンに報告に戻るのです。ここで出来ることはもうありません。》
僕の言葉に、テルヤが頭を掻く。
「はいはい、分かりましたよ。神様。」
翌日、テルヤたちはアルシオンに向けて出発した。
馬車に揺られながら、テルヤが口を開く。
「おい、ワラシちゃん。今の時間は。」
「今は十一時三十六分よ!」
「そうか。明日の天気は?」
「明日のアルシオン中央部は晴れよ!」
「そうか。もし戦闘になったら戦えるか。」
「無理よ!」
「そうか……。」
テルヤは溜息をつき、サルビアとルートに顔を向ける。
「なあ、本当にコイツ要るのか?」
「きっと、役に立ちますよ!」
サルビアが引きつった笑みを浮かべた。
ルートは窓の外を眺めて動かない。
その様子に、テルヤは再び溜息を吐いたのであった。
ガラガラと馬車が音を立てながら、イルルズの街に到着する。
「なあ、ワラシちゃん。今何時だ?」
「今は十五時三十八分よ!」
「それにしては暗すぎないか?」
「なによ、私を疑うっていうの?」
「いや……。そういうわけじゃないけどさ。」
テルヤは空を見上げる。そこには一面の星空。
振り向けば、虹色山脈の向こうはまだ明るく、この周辺だけが夜であるようだ。
これは、シャルテの能力だったでしょうか。クソ、こんなことならもっと自分で作った設定を読み返しておくべきでした。
《勇者よ、これはシャルテの能力によるものだと思われます。気を付けてください。》
「それはなんとなく分かる。もっと詳しいことは分からないか?」
《それ以上は分かりません。ですから、十分注意を——》
「偉そうに指図する癖に肝心な事は知らねえんだな。」
ぐっ、痛いところを……。そもそもテルヤが余計なことばかりするから、僕のシナリオが滅茶苦茶になって、僕のできることが減ったのではありませんか。
「とにかく、アルシオンが無事じゃないかもしれねえ。気を付けて進むぞ。」
その言葉に、三人も頷いた。
……大丈夫です。きっと皆様は僕が役立たずだと思っているかもしれません。
ですがそれは僕が今までナビゲート役に徹していたからに過ぎません。
例えば、エルランから“たまたま”ヘルベイトがアルシオンにやってきていて、勇者の加勢をするなんてことも容易なんです。というか、その案いいですね。そうしましょう。