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ご都合主義って知ってる?~もし作者が世界を自由に改変することができたなら~  作者: 僕(投稿者:吉田純一郎)
第一章「アリステリア編その1」
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第三十七話「わたくしとアルシオンを回りませんか?」

朝見たら作品に評価がついていました!

ありがとうございます、励みになります!

 窓から朝日が差し込み、目が覚める。

 身支度を済ませ、またアルシオンに繰り出そうとするテルヤ。

 すると、部屋の扉がノックされる。

「テルヤ様、よろしいでしょうか。」

「サルビアか。今開ける。」

 扉の前には、いつもより少し気合を入れて髪を結っているサルビアの姿。

「テルヤ様、今日はわたくしとアルシオンを回りませんか?」

 はにかむサルビアに、テルヤも気恥ずかしそうに頷く。

「あ、ああ。ちょうど俺も出かけようとしてたんだ。」

 相変わらず、この甘ったるい雰囲気は背中がかゆくなりますね。いやまあ、推奨してた僕が言うのもなんですけど……。


 ホテル前の通りを歩きながら、サルビアが観光案内本を開いている。

「どこか行きたいところはありますか?」

「いや、まだあんまりアルシオンのこと分かってないからな。お前の行きたいとこでいいよ。」

「では、この西広場に行きましょう。毎日露店が開かれているそうですよ。」

 そう言って小走りに前を行くサルビアを、テルヤもどこか愛おしそうに後を追った。


 ——西広場。

 円形状に運河に囲まれたそこは、周囲の通りよりも一段低い。

 そのため広場に乗り付けるようにして小舟が泊まっており、その一つ一つが露店として機能しているようだ。

 広場に人は多くはないが、皆のんびりと露店での買い物を楽しんでいるように見える。

「へえ、良さそうだな。」

「はい。何か掘り出し物があるかもしれませんよ?」

 言いながら、一つの露店に足を運ぶ二人。

 小舟には小さな台が置かれており、その上には小さな香り袋が置かれている。

「お、これってお前がメリーズで買ったってやつじゃねえのか?」

 その言葉に、店主が口を開く。

「おっ、兄ちゃんよく知ってるねえ。これはメリーズの名物、魔よけの香り袋だよ。中に入ってるメリーズノキっていう木になる実の汁を含ませた布が、悪いものを払うって言われてるんだ。」

「へえ、そういう意味があったんだな。」

 関心するテルヤに、サルビアが口を開く。

「ええ。魔族を討伐する勇者様にはピッタリかと思いまして。」

「ああ、そうだな。……ありがとう。」

 そして、二人がまた相変わらず甘ったるい雰囲気を醸し出していると、店主が笑いながら言う。

「お熱いねえ! これは餞別だ、持ってきな!」

 店主が香り袋の一つを取って、テルヤに渡した。

「いや、悪いよ。金は払わせてくれ。」

「ハッハッハ、いいんだよ! これからの二人の人生に乾杯!」

 店主が乾杯するフリをしながら豪快に笑う。


「じゃあ、この香り袋はお前にやるよ。」

 言って、先ほどの香り袋をサルビアに差し出すテルヤ。

「え、いいんですか?」

「ああ。俺もお前からもらったしな。プレゼント交換ってやつだ。」

「ありがとうございます!」

 サルビアは愛おしそうにその香り袋を胸に抱いて、満面の笑みを浮かべた。


「これ、なんて食いもんだ?」

 露店の一つに立ち寄ると、小さな球状の焼き菓子のようなものを指してテルヤが言う。

 その質問に、店主が答える。

「これはルッカポッカだ。甘い生地にアルシオン湖で獲れた魚のすり身を混ぜ込んで、型に入れて焼いた菓子だ。」

「ふーん。じゃあそれを二人に五個ずつくれ。」

「あいよ。青銅二枚だよ。」

「へえ、これでだいたい二百円なのか。安いな。」

 テルヤが銀一枚を出し、青銅八枚を受け取る。

 それから、二人はルッカポッカが入った麻袋を受け取った。

「どんな味なんでしょう?」

 言いながら、サルビアが一つを口に入れる。

 テルヤも同じように口に放り込んだ。

 口に広がるのは香ばしい生地の香り。小麦のような香りに交じって。魚特有の旨味が感じられる。さらに、主張しすぎない蜂蜜の甘さがその香りと味を引き立てていた。

「うん、まあなかなかイケるな。ヨーグレーほどの感動はないけど。」

「そうですね。普通に美味しいです。」

「言ってたらヨーグレー飲みたくなってきたなー。もうヴェルヘニアが恋しいぜ。ホームシックだな。」

「またまた、ご冗談を。テルヤ様はこの世界の人間じゃないでしょう?」

 二人は笑い合うと、またルッカポッカに手を伸ばした。


「おい、おばちゃん。この髪紐二本くれ。」

 露店の一つ、様々なアクセサリーを売る店で、テルヤは一際手の込んだ装飾を施されたものを指差す。

 紐部分はこの世界ではなかなか見られない紫の糸を何本も編み込んだもののようで、両端には小さな白い宝石が、その周りの、花をかたどった銀細工とともにあしらわれている。

「一本金二枚だよ。」

 店主の言葉に、テルヤが少し固まる。そして、目を逸らしながら言った。

「あー……一本くれ。」

 おばちゃんはカラカラと笑うと、テルヤに言う。

「彼女の前でいいとこみせようとしたんだろ? いいさ、アタシも鬼じゃないからね。特別に金三枚で二本に負けてやるよ。」

「マジか? ありがてえ。」

 言いながら、金三枚を差し出す。

 テルヤは髪紐を受け取ると、サルビアに手渡した。

「ほら、香り袋のお返しだ。ちゃんと自分の金でお返しがしたかったんだよ。」

「え、よろしいのですか? あの香り袋は銀二枚しかしませんでしたのに。」

「おいおい、王族が金で物の優劣をつけんなよ。お前に似合いそうだからプレゼントしたくなっただけだ。」

「テルヤ様……!」

 そのサルビアの目は、うっとりとテルヤを見上げていた——。

 ……誰だ、この主人公?


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