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ご都合主義って知ってる?~もし作者が世界を自由に改変することができたなら~  作者: 僕(投稿者:吉田純一郎)
第一章「アリステリア編その1」
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第三十四話「皆様には、死んでいただきます。」

 休日明けの緑の友社は、前よりも少しだけ忙しそうに見えた。

 受付カウンターに座るエルフの一人、見覚えのある社員にテルヤが声をかける。

「悪い、この前社長と話をしたテルヤってもんだが、また社長と話できないか?」

「ああ、先日はお世話になりました。少々お待ちください。」

 事務的に返し、社員が去っていく。

 やがて、この前よりも待たされることなく、社員が戻ってくる。

「確認が取れましたので、ご案内いたします。」


 応接室には、すでに社長が座って待っていた。

「やあこれはこれは。おや、今日はエルフの方もご一緒ですかな。」

 テルヤは頷くと、ソファに腰かける。オルボールは座るスペースがないと悟ったのか、ソファの横で立っている。

「ああ、今椅子を持ってこさせます。」

 言って立ち上がろうとする社長を、オルボールは制した。

「いや、結構。俺のことは気にしてもらわなくていい。」

「そう、ですか。では、ご用向きを伺いましょう。」

 社長はオルボールに会釈をすると、ソファに深く腰掛け、テルヤに向き直る。

「ああ……。そうだな、昨日お前の家の前で張っていた。」

「……!」

 社長は何かを悟ったような顔をして、言う。

「何も知らずにそんなことをする訳は……ありませんよね。」

「まあな。このエルフの妹を探しに来た。グリーン・カンパニーに攫われた、といえばもう分かるよな?」

「なる、ほど。いいでしょう、今から私の屋敷にご案内します。そこに攫った人たちを捕らえていますから。」

 言うと、社長は強張った顔で席を立つ。

 オルボールは、その双眸をひたすら鋭くして、社長を射抜いている。

「やけに素直だな。」

「……ここで反抗したところで、あなたたちが真実を知っている以上打開策はありませんからね。」

 はあ、と溜息を付き、それから社長は続ける。

「せっかく我が社の技術を分かってくださる方がいたと思ったんですが……。」

 その背中は、どこまでも深い悲哀を背負っていた。


 誰も一言も発することなく、彼らは屋敷へ向かう。

 人身売買を行っているというのに、どこか悲しみに満ちた表情の社長に、一行が怒りを覚えることはなかった。

 やがて、屋敷に着く。

 社長は正面玄関には向かわず、庭に置かれた大きな岩に触れた。

 すると、その一部が扉のように開く。どうやら中は空洞のようで、地下へと続く階段があるだけだ。

「どうぞ、こちらです。」

「ああ……。」

 促されるようにして、一行が階段を下りる。

 地下には、いくつかの狭い牢屋。そして、エルフの少年少女が捕らえられていた。

 そのうちの一つの牢屋の前で、オルボールは足を止める。

「ミーシャ!」

「お兄ちゃん!」

「良かった、無事だったんだな。おい、牢屋を開けろ。この牢屋だけじゃない。全てだ。」

 言って、社長に詰め寄るオルボール。

 社長は表情を変えず、近くにあったレバーを下げる。

 ——刹那。

 地下にけたたましいベルの音が鳴る。

「な、なんだ!? 何をした!」

「おいおい、穏やかじゃねえな。」

 身構える一行に、社長は申し訳なさそうに告げる。

「これも会社のためです。皆様には、死んでいただきます。」

 社長が頭を下げる。

 地上への階段から、奥から、テルヤたちを挟むように武装したヒューマンの集団——グリーン・カンパニーが集まる。

「いや、昨日ベールズさんが忠告に来たのですよ。誰かがグリーン・カンパニーを嗅ぎまわっていると。対策をしておいて正解でした。」

 言って、社長は額の汗を拭う。

「おのれ、卑劣な!」

 オルボールが叫ぶ。

「オルボール、頼んだぞ! サルビアはヘイストをオルボールにかけろ、ルートは自由にやれ!」

 三人が頷く。

「女神よ、女神。白は力。前へ進む者に祝福を。」

「女神よ、女神。赤は土。大地は泥濘に、足は安息へと沈む。」

 詠唱を受け、オルボールが駆ける。

 迎え討つグリーン・カンパニー、だが、動かない。否、動けない。

「な、なんだ!? 足が泥にはまって動かねえ!」

 赤魔術“マッドトラップ”が、ヒューマンたちの足を止める。

「お、おい、誰かあの剣士を止め——」

「いやだ、死にたくない、話が違う! 挟み撃ちにすれば余裕だって——」

 阿鼻叫喚。口々に叫ぶヒューマンたちを黙らせるように、オルボールが一方的に剣を翻す。

 斬撃、斬撃、斬撃、そして——斬撃。

 次第に、泥沼が血で染まっていく。

 サルビアとテルヤは目を伏せる。

 気づけば、そこには無数の死体と、呆然として腰を抜かす社長。

「あ、ああ……。」

 うめく社長の首に、オルボールが剣先を向ける。

「牢屋を、開けろ。」

 社長は震える手で、腰元から鍵束を取り出した。

 オルボールはひったくるようにそれを受け取ると、牢屋を開けていく。

 社長はその光景を、涙を流しながら見ている


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