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ご都合主義って知ってる?~もし作者が世界を自由に改変することができたなら~  作者: 僕(投稿者:吉田純一郎)
第一章「アリステリア編その1」
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二十九話「主人公に都合のいいように世界を変えること。」

「うんだ、オラのいた村はこっからずっと南の村だぁ。」

「へえ、そうなんですね。 でも、どうしてメリーズに?」

「そンがなあ——」

 満天の星空の下、焚火を囲み、雑談に花を咲かせている一行。

 だが、そこにテルヤの姿はなかった。


 野営地から少し離れた木陰。テルヤは一人、いつになく真面目な顔をしながら、言った。

「なあ、神様よ。聞こえてんだろ?」

 おっと、僕に何か用でしょうか。《はい、勇者よ。どうしましたか。》

「こっちに来てからずっと成り行きで動いてきた。最近じゃお前から話しかけるようにもなってきたな。」

《はい。それがどうかしましたか。》

「なら、教えてくれ。この世界のこと。お前のこと。そして、俺の能力の事だ。」

《おや、質問攻めですか。まあいいでしょう。この世界はラテリア。元は平和な世界でしたが、深紅の魔王の侵攻によって——》

「そこだよ。お前は神様なんだろ? それに、どうやらこの先の事も見通せるっぽいじゃないかよ。なら、なんでお前が直接この世界を助けない? なんでわざわざ別世界の人間を頼る必要がある?」

 なるほど。確かに、一理ありますね。うーん、と。そうですね。どうにか彼を丸め込まなければ。

《はい、確かに僕はこの世界に干渉することができます。しかし、それはこの世界に関係した者たちだけ。実際、あなたに干渉することはできません。そして、魔王軍は別世界から来た者たち。彼らを抑えるには、また別世界の人間が——》

 言って、気づく。僕がどれだけ恐ろしいことをしてしまったかに。

 僕の能力は《世界を描写する者》。僕が作ったこの世界、そして僕が作ったこの世界のキャラクターやモブを自由に動かしたり、改変することができる——。

 だが、主人公は別世界の人間。当然僕の能力は効かない。

 そして今、僕は、魔王軍を“この世界のキャラクターではない”ことにしてしまいました。

 彼らに与えた設定は変わっていない。だが、彼らは僕のコントロールを離れた。

 つまり——

「なあ、急に黙ってどうした——。」

《勇者、勇者よ! 魔王軍が好き勝手にこの世界を攻撃してしまう! 何とかしてください! できますね!》

「は? いや、それは最初に聞いただろ。俺はそのために旅を——。」

《いえ、もう悠長なことを言っていられません。詳しいことは言えませんが、僕の見通す力が魔王軍には効かなくなったのです。と、とにかく、いいですね!》

「あ、ああ……。」

 テルヤは困惑したように言う。

 ああ、クソ。やってしまいました。主人公が余計な詮索をしたせいで。

 一度コントロールを離れたキャラクターはもう、僕からは干渉できない。

 この世界のキャラクターだったことにもできない。

 どうしましょう。そ、そうだ。グリーン・カンパニーがオルボールの妹に手を出すのはもう少し先にして、とにかく今はテルヤに戦闘能力を磨いてもらうことにしましょう。そうだ、そうしましょう。今はいつ襲ってくるかもわからない魔王軍に備えなければ。


 夜が更け、野営地には静寂が訪れる。

 戻ってきたテルヤを、オルボールと御者が迎える。

 どうやら、サルビアとルートは、先にテントの中に入ったようだ。

《勇者よ、聞こえますか。彼の妹がグリーン・カンパニーに危険な目に合わされるのはもっと先の事です。そうですね……一か月は猶予があります。まずは彼女を奪還するために、オルボールに剣術の指南をしてもらってください。》

「は? そんなに猶予があるとは思えないぞ。」

《神の言葉を信じてください。》

「そもそも、だ。仮にそうだったとしても、あの血気盛んなオルボールがそんなにゆっくりしてるはずがない。妹さんにだって一か月も心細い思いをさせるんだぞ? そんなことはできない。」

《ああ、もう。とにかくお願いですから言うとおりにしてくださいよ! あなたいつも自己中心的なくせになんでこういう時だけカッコつけるんです!》

「とにかく、決定は変えない。俺たちはすぐにでもアルシオンに向かう。」

 ああ、もう。ただでさえ今世界は大変なことになっているっていうのに! どうして相変わらず勇者は僕の言うことを聞かないんですか!


 ————。

 どうしよう、どうしよう、どうしよう。

 読者の皆様、申し訳ありません。

 きっと、皆様は僕のシナリオに、世界観に、あるいは人々が受ける絶望や希望を期待してこの物語を読んでいることだと思います。

 でも、もう、結末は見えなくなりました。

 僕は時間をかけて世界観を、シナリオを、結末の描写を用意していました。

 主人公を召喚してもらってからも、何とかそれに辻褄を合わせようと、紆余曲折ありながらも今までシナリオを紡いできました。

 ですが、敵役をコントロールできなくなった今、僕にできることは結末のわからないこの物語を紡ぐこと。そして——。

 主人公に都合のいいように世界を変えること。


 ああ、どうしよう。

“彼女”にどうやって顔向けすれば……。


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