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第三話「いや、最初の仲間が姫ってのはおかしいだろ。」

「運命に抗う能力、ね。」

 玉座のあった広間に戻る途中、テルヤはぽつりと呟いた。

「神の声を聞くことができる、自分の望む未来を引き寄せることができる……これだけだと最強の能力だが、使い方がわからねえ。さっきから可愛いメイドさんとぶつかるってな未来をイメージしてるんだが、全然起こらねえな。神の声とやらも聞こえないし、何か制限があるのか?」

 なるほど、テルヤの能力は運命に抗う能力だったのですか。ずいぶんと大層な名前ですね。しかし、自分の望む未来を引き寄せることができるとは……。かなり強そうです。

 ああ、失礼。話に戻らなければ。ええっと、次の展開は……。

「戻ったか、勇者よ。して、そなたの能力は何であったのだ。」

 王が玉座から身を乗り出し、年甲斐もなく弾むような口調で言った。

 テルヤは冷めた目をしながらも、言う。

「運命に抗う能力。神の声を聞いたり、自分の望む未来を引き寄せることができる。」

「なんと、それは素晴らしい。その能力なら魔王を倒すことも容易いだろう!」

 その言葉に、周囲に控えていた者たちが口々に賞賛を言う。

 サルビアや、大柄の甲冑男ですらも期待に満ちた目を向けてくるので、どこか申し訳なさそうにテルヤは続ける。

「いや、そう大した能力じゃない。自由に使えるわけじゃないみたいだ。てか、まだ発動の仕方すら分かんねえんだよ。」

 そのテルヤの言葉に、一時は色めき立った広間もシンと静まり返る。

 王は少し残念そうにしながらも、言う。

「ま、まあ、そういう能力がある事実に変わりはない。期待しているぞ。」

 しばらくの沈黙が流れたのち、テルヤは居心地悪そうに頬を搔きながら言った。

「つかさ、俺の能力って聞いての通り戦闘向きじゃないんだよ。だから、仲間が欲しい。紹介してくれないか? できれば戦闘役か、少なくともサポート役だな。てか、そこのオッサンはどうだ? 強そうだし。」

 そう言って、テルヤは王の隣に控えていた甲冑男を指差した。

 男はみるみるうちに顔を赤くする。

「貴様、黙って聞いていればぬけぬけと! 私はヴェルヘニア王国近衛騎士団団長、ゴールゼンだ! 貴様なんぞの仲間になるなどありえん! ここで叩き切ってくれるわ!」

 そう言うが早いか剣を抜き、ゴールゼンは地を蹴った。

 彼我の距離、およそ六メートルほど。次に瞬きをした頃には、ゴールゼンはテルヤの懐まで距離を詰めていた。

 下段から確実にテルヤの首を落とさんと、剣が振り上げられ——。

「よせ。」

 その隙間に紙一枚が挟まるかどうかというところで、刃が止まった。

「ゴールゼンよ、そなたの気持ちはわかる。だが、いくら無礼であろうとも、テルヤは勇者だ。勇者を殺すことがどれだけ大変なことか分からぬほど、そなたも愚かではあるまい。」

「失礼いたしました。以後、気を付けます。」

「俺への謝罪はないのな。」

 ゴールゼンはテルヤをきつく睨みつけながらも、元居た場所へ戻っていった。

 王はウム、とうなずくと、続ける。

「して、仲間であったな。それならば適役がいる。サルビアよ。」

 まるで分っていたかのように静かに会釈をすると、サルビアはゆっくりとテルヤのもとへ歩み寄ってくる。

 それからドレスの裾を持つと、丁寧にお辞儀をして、言った。

「改めまして、わたくし、サルビア=ヴェルヘニアと申します。不束者ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。」

「いや、最初の仲間が姫ってのはおかしいだろ。」

 テルヤの言葉に、王は少し残念そうな顔をする。

 サルビアはどこか憂いを帯びた顔で、どこか縋るように。

「わたくしではいけませんか?」

 その言葉に、テルヤは少したじろぎながらも、しかしすぐに我に返って、泰然と言った。

「いや、姫だろ?そもそも、どう役に立つんだよ。てか、だいたいそんなドレスじゃ戦闘もできないし。アンタとしても、娘を危険な目に合わせるのは嫌なんじゃないのか?」

 ……なんて面白みのない主人公なんでしょう!

 こんな可愛い可愛いヒロイン候補が言い寄ってきているのに、何を断ることがあるんでしょう。そもそも、読者的に最初の仲間が男だとテンションが下がるでしょうが!

 そうですね、彼はサポート役が欲しいと言っていましたし、無理やりにでもサルビアを仲間にするなら……《サルビアは王家の血筋によって強力な治癒魔法が使えることにしましょう。》それなら——


「ん? ああ、サルビアが治癒魔法を使えるとかか?」

「おお、その通りだ。サルビアはこの国でも指折りの治癒魔法の使い手。きっとそなたの役に立つであろう。それに、そなたは我が娘の婿となる者。旅を通じて愛を育んでほしいからな。」


 ……おっと、ずいぶんと勘の鋭い主人公ですね。いや、話の流れ的に当然だったのでしょうか?うーん、それにしてもこのタイミングの良さ。これが主人公属性……。恐ろしい。

 あー、えーっと、だから次は……。

 サルビアは王の言葉に恥ずかしそうに身じろぎしながらも、言った。

「わたくし、きっと役に立ちます。ですから、どうかお願いいたします、テルヤ様……」

「ああ、まあ治癒魔法が使えるなら俺は構わない。あと、そのドレスは何とかしてくれ。目立つし、邪魔だ。」

「もちろん、それがテルヤ様のお望みとあらば、どんなことでも。」

 そう言って、サルビアはもたれかかるようにテルヤの腕に抱きつく。

 自然とテルヤの腕にサルビアのたわわに実った双丘が——

「そういや、腹減ったな。勇者歓迎の宴とか開かないのか?」

せっかくのお色気シーンが台無しですよ、この唐変木主人公が!


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