二十八話「そいだら、出発するだで。」
あれから、数日が過ぎた。
「うーん、やっぱり動きはないな。商人が来たら誘拐事件が起こるって言うし、やっぱり俺らがここで張り込んでる意味ないんじゃねえの?」
「万が一、ということもあるだろう。とにかく、今は俺たちにできることをすべきだ。」
はあ、と溜息を吐くと、テルヤは頭を掻く。
すると、遠くから声が近づいてくる。
「今、ベールズが街で今日のターゲットを探してる。俺たちはアイツが帰ってくるまでここで待機だ。」
「あーあ、アイツの役目のほうが楽そうでいいよなー。たまには変わってほしいぜ。」
「諦めろ。毎回違う商人が来たら怪しまれるだろ? くじで負けた俺たちが悪い。」
ヒューマンの男が二人、広場まで歩いてくると、しゃがみ込んだ。
オルボールがテルヤに言う。
「おい、今商人とか言っていたぞ。」
「ああ……。」
テルヤも頷く。
そんな二人に気づくことなく、男は続ける。
「そういや、この前攫った女はずいぶん高く売れたな。」
「ああ、なかなかの上玉だったからな。しかし、もう一人の女を取り逃がしたのが痛いぜ。いっぺんに二人も捕まえたら俺たちの評価も爆上がりだったのに。」
下卑た笑いを浮かべる二人。
テルヤがオルボールに目配せする。
二人が茂みから飛び出し、男たちを組み伏せる。」
「な、なんだぁ? どうなってんだ!」
「待ち伏せされてたんだ! クソ、取り逃がした女にチクられたか! おい、離せ!」
「黙れ、下衆が。その首切り落とされたいか。」
オルボールは冷え切った声で、男の首に剣を当てる。
「わ、分かった、悪かった! 殺さねえでくれ!」
途端に、男が大人しくなる。
テルヤは落ち着いた声音で言う。
「お前はグリーン・カンパニーのモンだな。アジトと、この前攫った女の場所を吐け。」
だが、男は黙ったままだ。
テルヤはそれを見て、言う。
「まあ、喋りたくねえならお前ら殺して、そのベールズとかいうやつを探すだけだ。」
そう言うと、男の首筋に剣がさらに押し付けられる。
「分かったって、話すよ! 攫った女は一昨日本部に引き渡してきた! 今頃アルシオンに向かってるはずだ! 本部……俺らのアジトもそこだ! これでいいだろ!」
男は半泣きで叫ぶ。
テルヤは頷くと、オルボールに問う。
「そうか。オルボール、こいつらどうする?」
「殺す。妹に傷をつけた報いを受けてもらう。」
「だとよ。相手が悪かったな。」
森に男たちの絶叫が響いた。
「——と、いうわけだ。」
ベッドランプの火が揺らめく部屋で、テルヤは昼の出来事をサルビアとルートに話す。
サルビアは頷く。それから、口を開く。
「アルシオン、ですか。これは僥倖でしたね。わたくしたちが向かっているのもそこです。」
「そうだったか?」
テルヤはきょとんとした顔で言う。
「はい。勇者が現れたこと、それから例のアーティファクトの協定を守ってもらうことをアリステリアの女王に言いに行かねばなりませんから。」
「そういや、そんな話だったな。それなら都合がいい。さっさとアルシオンに向かおう。」
その言葉に、三人が頷く。
「よし、じゃあこの前馬車に乗っけてもらったおっちゃんにでも頼んでみるよ。。とりあえず、今日はもう遅いしみんな休んでくれ。」
「そうだな、そうさせてもらおう。」
言うと、オルボールが部屋を後にした。
朝日が差す。
「うんだら、乗ってくんろー。」
「悪いな。金がありゃ礼のひとつでもしてやれるんだが」
朝早く馬車の手入れをしていた、訛りの強い御者は、テルヤの申し入れを快く受け入れた。
御者は宿屋の前に馬車を停めると、一行に乗るように促す。
「構わねでな。ついでに王都観光でもするだで。」
好々爺然とした笑顔で頭をポン、と叩く御者に、さすがのテルヤも素直に頭を下げる。
「ありがとう、よろしく頼むよ。」
「うんだ。王都まではずいぶんとかかるで、途中野営することになるだ。遠回りすれば街に立ち寄ることもできるけンど……。」
「ああ、急ぎだからな。野営でいい。」
「そいだら、出発するだで。」
ハイヨォ、と威勢のいい掛け声とともに馬車が走り出す。
「うええ、またこの馬車に乗らなきゃいけないなんて、です。拷問、拷問です。」
「まあまあ、ルートさん。妹さんを助けるためですから。」
「うむ、すまない。俺のために……。」
「あああ、もう、もうきた、です……。うえええええ……。」
ワイワイと会話に花を咲かせる三人——まあ、一人は明らかに死にかけですが。——を見ながら、テルヤの顔はどこか暗かった。
編集履歴)
馬車を泊めると→馬車を停めると に訂正しました。




