第二十一話「勇気、力、筋肉!」その2
「《パワァァァァッ!》」
臆することなくミスター・パワーがルートめがけ突進する。
「炎よ、火柱よ、敵を喰らえ。《ウォール》」
赤魔術“ファイヤーピラー”。ミスター・パワーの前に、炎の壁ができる。
「ウーン、《ブレイブゥゥゥゥゥッ!》」
『なんとッ! さすがミスター・パワー、この程度の炎は受けつけませんッ!』
『恐れていた事態が起こりましたねー。』
だが、無効。炎の壁を悠々走り抜け、その拳がルートを捉え——。
「風よ、突風よ、吹き荒べ。《シャープ》」
ルートは、腕を払うようにして振る。
瞬間、ルートの体に横殴りに風が吹く。ルートは吹き飛ぶ。
『おおっとォ! ルート、自分の体を吹き飛ばしたァァァァッ! これはどういうことでしょうッ!』
『恐らく、赤魔術“ウィンドブロウ”がミスター・パワー選手に効かない可能性を考えて、緊急回避をしたのでしょう。いい判断です。』
空を切ったミスター・パワーの拳がステージに突き刺さる。飛ばされながら、ルートは詠唱を始める。
「女神よ、女神。氷塊は刃に変わり、我が敵を貫く。《ストライク》」
ルートは、人差し指と中指を揃えて前に出す。
瞬間、弾道は遅いながらも破壊力のある赤魔術“アイスエッジ”が、ミスター・パワーの脳天めがけて飛ぶ。
「ンンンンンッ、《マッスルゥゥゥゥゥッ!》」
『効きませんッッ! ミスター・パワー、片腕で防いで見せましたッッ!』
『おっと、手元にある情報だと今のがルート選手の瞬間最高火力のはずですよー。これは厳しいですねー。』
びくともしないミスター・パワーに、さすがのルートも驚愕に顔を歪ませながら呟く。
「なんて体してる、です。本当に人間、です?」
「《パワァァァァッ!》」
関係者席。長引く戦いを、二人が祈るように見ている。
「おい、まずくねえか?」
「はい。手数はルートさんが上。攻撃もまだ一度も当たっていません。ですが……。」
「ああ、決定打がねえ。」
二人は焦燥に駆られていく。だが、見ていることしかできない。
『ルート、粘るッ! ですが、間もなく制限時間ッ! 決着がつかなければ判定にもつれ込みますッ!』
『判定となるとルート選手厳しいですねー。決定打ありませんから。ただ、個人的には先ほどからルート選手が何やらステージ上を規則的に動き回っているのが気になりますねー。』
『なるほどー、ルート選手が何か仕掛けるのかッ! 期待しましょうッ!』
「ンンンンンッ、《パワァァァァッ》、《パワァァァァッ!》」
ステージ上を破壊して回りながらルートを捉えんと猛追するミスター・パワー。
今まで逃げと牽制に徹していたルートが、動く。
「女神よ、女神——」
瞬間、ステージ上に魔法陣が浮かび上がる。
『おおっとォこれはァァァァッ! ルート選手ついに大魔法かァァァァッ!?』
『いえ、恐らく術式魔法ですねー。通常の魔法を儀式魔術として使っているんです。大魔法ではありませんが、破壊力は簡単な術式ですら大魔法に匹敵しますよー。』
『なんとッ! ルート選手この戦闘中に儀式魔術を組み上げたというのかァァァァッ!』
「ンンンンンッ、インタレスティングッ! いいよー、面白いよー! 君のパワーと僕のマッスル! どっちが勝つか勝負だッ!」
ミスター・パワーは、立ち止まり、天を仰ぐ。
そして、手を広げ、叫ぶ。
「ンンンンンッ、《マッスルゥゥゥゥゥッ!》」
「赤は雷。疾く駆ける紫電よ、溟濛に鳴け。」
赤魔術“バイオレットサンダー”。瞬間、虚空に破裂音を響かせながら紫色の雷が集まる、集まっていく。
そして、雷鳴。
耳をつんざくような轟音は、歓声すらもかき消し、ミスター・パワーの体を貫く。
「ンンンンンッ、《マァァァァァァァァッスルゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!》」
体を痙攣させながらミスター・パワーが叫ぶ。
暫く続いた紫電の輝きは、やがて静寂へと転化する。
だが、倒れない。
「どうなってる、です。なんで今ので立ってられる、です!」
成すすべなく、ルートが膝から崩れ落ちる。
ゴングが、鳴る。
『し、試合終了ォォォォォッ! 勝者はなんとッ、ルート、ルゥゥゥゥゥトォォォォッ! ミスター・パワー選手、立ったまま気絶していますッ!』
見れば、白目を剝いたまま棒立ちのミスター・パワー。
『僅差でルート選手の魔法……いや魔術が上回りましたねー。今回はさすがのルート選手も小技を捨てて真っ向勝負と行きましたよー。両者ともナイスファイトです。』
「勝った、のか……。」
生気の抜けた顔でテルヤが口を開く。
「みたい、ですね。」
「はあああああ、あのミスター・パワーとかいうやつどうかしてるだろ! どんだけルートの魔法受けたと思ってんだよ。三分間ずっとだぞ?」
「ええ、わたくしもあんなに強靭な殿方は初めて見ました。」
「まあとりあえず、帰ったらルートを祝ってやろうぜ。」
まだ気疲れが残っているのか、どこか力なく笑うテルヤに、サルビアも同意した。
会場は今日も、天を揺るがすほど湧き上がっている。
書き溜めた分があるので、次話は2022年2月22日に投稿できます。