第十九話「手がかりを見つけたです。」
二人が別れて行動を始めてから、四日目の太陽が沈んだ。
また、いつもの食堂。
エルランでは、闘技場で十日間にわたって開催されていたレート戦が終了し、その閉会式が行われた。
いよいよ上位六十四名による決勝トーナメントが行われる。
そのせいもあってか、エルランには多くの観光客が訪れていた。
当然、このホテルの食堂も満席。テーブルによっては相席をしているところもあった。
そのため、食堂に並べられたテーブルのうちの一つ、一際不穏な雰囲気を醸し出している“その”組み合わせが成立してしまう。
いい加減食べ飽きた高級感あふれる食事を皿に盛って、ようやく見つけた空席に座ろうとしたテルヤは露骨に嫌そうな顔をした。
「どうしてあなたがこんな時間に食事を? カジノはどうしたのです。」
それを見たサルビアが不機嫌そうに口を開く。
「いっぱいだったんだよ。悪いか?」
言いながら、テルヤは仕方なくといった様子で席に着く。
「別に。」
「チッ、自分から聞いておいてその態度かよ。」
テルヤも隠す気なく悪態をつく。
険悪。険悪という他なかった。
その時、食堂の扉が勢いよく開く。
「ここにいた、です!」
ルートだ。彼女は真っ直ぐ二人の元に来ると、言った。
「ブローチの進捗、いかが、です?」
その言葉に、二人の空気がさらに悪くなる。
「遊び惚けていたルートさんに教える義理はありません。」
「いい、です? 手がかり、手がかりを見つけたです。」
「それは!……本当ですか?」
サルビアは勢いよく立ち上がる。それから、すぐに自分が目立っていることに気づき、気まずそうに座りながら言った。
「さっき、閉会式に出てきた、です。これが、その時もらったトーナメント表、です。」
ルートは、バッグから折りたたまれた紙を取り出すと、置く場所に困ったのか広いテーブルの隅に料理を押しのけ、そして広げた。
「それで?」
テルヤが促す。
「裏には、賞金や賞品、注目選手が書かれてる、です。」
ルートが紙を裏返す。
「なんだ? 自慢でもしに来たのか?」
注目選手欄の一角、「七色の魔法使い、ルート」と書かれた小見出しとイラスト、それからルートについての記事が書かれている。
だが、サルビアは違う部分を見ていた。
「これ……私のブローチ!」
「やっぱり、やっぱり、です。聞いていた特徴にぴったりだったから、まさかと思った。です。」
「優勝者への副賞か。つまり、お前がこの大会で優勝すれば、ブローチが返ってくるわけだ。でも、なんで盗まれたブローチが副賞に?」
「きっと、ブローチを買った官僚というのが大会委員の誰かだったとか、そんなところじゃないでしょうか。そんなことより、ブローチが見つかったということの方が重要です!」
色めき立つ三人。先ほどまでの険悪なムードはどこへやら。
と、テルヤが口を開く。
「そういや、ルートって結構強いんだな。見ろよこの記事。大絶賛だぜ?」
ルートの記事にはこう書かれている。
『七色の魔法使い、ルート
本大会において、魔法使いや魔術師は不利とされている。というのも、エルランの闘技場は狭い上、他闘技場のような障害物もないため、大会での基本的な立ち回りは接近戦になるからである。その上、過去決勝トーナメントに進出した魔法使いは全て大魔法などを駆使し一瞬で勝負を決めるタイプが多く、接近戦に持ち込ませなかった。したがって、大魔法を使えない魔法使いが決勝トーナメントに勝ち上がる可能性はゼロに等しいと言われていた。
だが、彼女は大魔法を使わない。だというのに、彼女は決勝トーナメントに進んだ。何故か。それは彼女の“駆け引きのうまさ”にある。
初歩的な赤魔術を自在に操り、相手の動きを制限し、確実に相手を追い込む。相手が近づけば引き、距離を取ろうとすれば逃がさない。盤面を的確に読み、支配する彼女は、外見に似合わず、狡猾だ。
彼女は、その派手な戦い方から“花火師”とも言われる今までの魔法使いたちと、一線を画している。そんな彼女がどこまで勝ち進むか、期待は高まる。』
確かに、最初から最後まで褒めちぎられている。だが、ルートは表情を変えず、言う。
「取り上げられている選手の記事はみんなそんな感じ、です。私が特別なわけじゃない、です。こうやって派手な記事を作って客を集めてるだけ。です。」
言われて、他の記事も見る。
「へえ、どれどれ。おい、見ろよコイツ、無敗の大剣だってよ。大層な見出しだな!」
そうして、テーブルを囲みながら三人の会話は弾んでいく——。
日が昇り、やがて頂点へと至る。
エルラン闘技場。街のほぼ中心にあるだけあって、幅は小さい。だが、高さはあり、おそらくは多くの観客が入るようにという工夫なのだろう。
外見は、レンガ造りの他の建物とは大きく違い、木と石材を組み合わせて作られているようだ。おそらくは有名な建築家にでも頼んだか、周りの建物と比べて数十年は先進的かつ芸術的に見える。
ガルムスと並び経済の中心であるこの街だからこそできる、贅沢なカネの使い方だとも言えるだろう。
その正門には開会式を見ようと観光客が詰めかけて、長蛇の列が出来ている。
テルヤとサルビアは参加選手の仲間ということもあって、関係者席で観戦することが許されており、すでに席についている。
「しかし、まさかルートがレート第五位だとはな。」
「ええ、いつもぼんやりしているだけに驚きです。」
そうして、二人が雑談に花を咲かせていると——。
パン、パン。
花火が軽やかに鳴る。
『ご来場の皆様、大変長らくお待たせいたしました。只今より、第五十六回国立ヴェルヘニア闘技会公認エルラン闘技大会を開催いたします。』
その言葉とともに、闘技が行われるステージの両端から、壮大な音楽とともに選手が入場する。
「あ、ほら、ルートさんがいましたよ! わー!」
無邪気に手を振るサルビアに、ルートも小さく手を振る。
開会式は、粛々と進んでいった——。
開会式が終わり、第一回戦の第一試合目が始まる。
やはり、決勝トーナメントというだけあってレベルが高く、目で追うのがやっとだ。
だが、熱気あふれる実況と解説によって観客のボルテージはすでに頂点に達している。
「思ったよりすげえな。ルートもこんな中戦うのか……。」
「そう、です。わたし、がんばる、です。」
生唾を飲むテルヤの背後から声がかかる。
「おい、お前こんなとこで何してんだよ?」
「観戦にきまってる、です。わたしの試合は明日、明日です。」
「そうなのか。じゃあ、明日を楽しみにしてるよ。」
そう言って、テルヤはまた試合に目を向ける。
会場の熱気に飲まれ、観客たちは皆、時が経っていくことにすら気づかないのであった。
日が、傾いていく——。




