表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご都合主義って知ってる?~もし作者が世界を自由に改変することができたなら~  作者: 僕(投稿者:吉田純一郎)
第一章「エルラン編」
16/49

第十六話「何年ここに住むつもりですか?」

 朝だ。まだ眠い。雲のように柔らかいベッドに、もう一度自分の意識を沈めようとして——。

「テルヤ様? テルヤ様。起きてください。朝ですよ。」

 扉がノックされる。声がかかる。

「うるせーよ、昨日も夜まで“仕事”してたの知ってるだろ。誰のおかげでこんないいホテル泊まれると思ってるんだよ。」

 布団にくるまりながら、テルヤが叫ぶ。

「仕事って……。カジノじゃないですか! 昨日は競馬にも行きましたね! わたくしのブローチを見つけてくれるんじゃなかったんですか!」

「そのための資金繰りって言ったろー。ブローチが売りに出されてたらどうするんだー。」

 むにむにと顔を枕に押し付けながらテルヤが言った。

「もうそれだけあれば、城を一つ建てられますよ!」

「もしかしたら法外な値段で売られてるかもしれないだろー。カジノの営業は昼過ぎからだ。まだ寝かせろー。」

 サルビアの声が返って来なくなる。足音が遠のいていく。

 ようやく行ったか。昼まで寝ようかとその意識をブラックアウトさせていく——。

 

ドアが勢いよく開く。

「大丈夫ですか!」

 見れば、ホテルの従業員だ。マスターキーで入ってきたのだろうか。

 後ろからサルビアが入ってくる。

 従業員は困惑したように、言う。

「えっと、お連れ様がご病気なのでは?」

「はい、病気です。ギャンブル依存症です。」

 サルビアがあっけらかんとして、言った。

「ああ……。では……。」

 気を使ったのか、顔を引きつらせながら従業員が出ていく。

「おい、なんだよ。何の用だ。俺は動かないぞ。」

「さあ、ブローチを探しに行きましょう。」

「あと数日したらな。」

「それを言い始めてもう一週間になります。」

「そうか、じゃああと数週間したらな。」

「何年ここに住むつもりですか?」

 サルビアがズカズカとテルヤに歩み寄る。

「なんだよ! 布団からは出ねえぞ!」

 ガバっと、布団を剥ぐ。それから、テルヤの腕を掴む。

「さあ、“お仕事”です、勇者様。困ってる人を助けましょう。」

 引きずられながら、テルヤが叫ぶ。

「お前結構余裕あるじゃん! そんなに困ってなさそうじゃん! ああ、もう、わかった、わかったから、せめて着替えさせてくれ! こんな格好見られたらお嫁にいけない!」

 床に引きずられて、次第にテルヤのパンツが——。


「ひどい目に合った。」

 宿泊区画を出て、中央広場に続く大通りを、二人が歩いている。

 この上なく不機嫌な——眠いだけかもしれない。——顔をしながら、テルヤが言う。

「ブローチを探すったって、アテはあるのかよ。」

「ないですよ。聞き込みでもなんでもして探せばいいんです。」

「おい。」

「御者さんが言うには、盗賊は真っ赤なバンダナをしていたそうです。おそらく、“深紅のブラッディ・レッド団~風は死を運ぶ~”の仕業でしょう。」

「なんだそれ、中学生のヤンキーでもそんな名前つけないぞ」

 テルヤが呆れ返って、肩をすくめながら言う。

「たしかに冗長な名前ですが、凶悪かつ残忍な盗賊集団です。エルラン近辺で、大勝ちした客、逆に賭博をしに来たお金持ちそうな客の金品を狙う集団です。特に、大勝ちした客がよく狙われると聞いたことがあります。」

「まあ確かに、そのためだけに馬車を爆破するのはイかれてるけど。」

 テルヤは少し考えて、言う。

「てことは、そいつらのアジトを見つけて、ブローチを買い取ればいいんじゃねえの?」

「どうでしょう。それだけのお金を持っていればさらに足元を見るか、有り金を襲ってでも奪い取ろうとするんじゃないでしょうか。」

「めんどくさいのな。てか、さっきから気になってたけどルートはどこ行った?」

 きょろきょろとあたりを見回しながら、テルヤは首をかしげる。

「ルートさんは闘技場に行きましたよ。二日前から開催されている闘技大会のレート戦に参加しているみたいです。」

「あいつも遊んでんじゃん。」

「あなたの賭博遊びと違って実戦経験が積めますからね。あなたのと違って。」

 白けた目を向けられたテルヤは、気まずそうに目を逸らしながら言う。

「まあ、さっさとその深紅のなんとか団を探して、ブローチについて聞くか。」

「やる気になってくれて何よりです。」

 少し機嫌を取り戻したサルビアとは対照的に、テルヤの顔には不満がにじんでいた。


 中央広場。

 本来私のシナリオ通りなら、ここで少女を助けるはずでした。ですが、この僕にぬかりはありません。どうあがいても少女を助けてもらいます。

 二人が歩いていると、水瓶を持った女をかたどった噴水が見えてくる。

 この街の名所“富の噴水”だ。

「へえ、結構賑わってるんだな。」

「ええ、この富の噴水にお金を投げ込むと、その何倍もの富が舞い込んでくるそうですよ。」

「ああ、トレビの泉みたいな感じか。」

「なんです、それ。」

「ああ、いや。俺の世界の話だ。気にすんな。」

 そうしてたわいもない話に興じる二人を切り裂くように、誰かが言い争っている声が聞こえる。

「かえして! かえしてよ!」

 十歳くらいだろうか、白いワンピースを着た上品そうな少女が、真っ赤なバンダナをつけた男たちにしがみついている。

 男たちは少し顔を見合わせると、下卑た笑い声をあげながら、言う。

「ああん? 知らねえなあ? お前の父ちゃんが勝手にスったんじゃねえのー?」

「だよなー、俺らお前の父ちゃんなんて見たことねーしー?」

「てか、俺らがモノ盗むような奴に見えるー?」

「見えねーよなー。ギャハハハハハ!」

 男たちに突き放され地面に尻もちをついた少女は、次第に目に涙を浮かべ……。

「うわあああああん!」

 天を仰いで泣き始めた。


 次回投稿は2022年3月20日までには行われます。

 とか言って毎日投稿してるあたり前倒しするでしょうが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ