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ご都合主義って知ってる?~もし作者が世界を自由に改変することができたなら~  作者: 僕(投稿者:吉田純一郎)
第一章「エルラン編」
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第十四話「悪かったな馬鹿で。」

 がたがたと馬車に揺られながら、三人はぼんやりと景色を眺める。

 ちょうど、遠くにガルムスが見える。

 黒煙はもう上がっていない。だが、無残に崩れた外壁はそのままだ。

 重苦しい空気が流れる。

 テルヤは、努めて明るく言う。

「なあ、そういや俺らどこに向かってるんだ?」

 そのテルヤの言葉に、ルートは驚愕の目を向ける。

「信じられない、信じられないです。出発する前に王様から言われたはず、です。馬鹿、馬鹿です?」

「悪かったな馬鹿で。この絶壁女。」

「誰の、どこが絶壁です? 言ってみる、です。」

「さあな、自分の“胸に”手を当てて聞いてみろ。ああ、触ったらすぐに分かるか。」

 意地の悪い顔で、テルヤが自分の胸の前で両手を上下させる。

「いい度胸、です。女神よ、女神。赤は——。」

「よしごめんなさい二度と言いません。」

 そんな二人を少し愛おしそうに見てから、サルビアが口を開く。

「次の目的地は、隣国アリステリア、エルフの国です。この国とは南と西が接している、広大な領土を持った国です。現在は国境を越えてすぐの都市、メリーズを目指しています。」


 そう、次はエルフの国です。《あー、聞こえますか。この国は四天王の一人、“幻皇シャルテ”が狙っています。ですが、そのことをエルフたちに伝えてはいけません。面倒なことになりますよ。》

 さて、伝わったでしょうか。今まではランダムに僕の考えが聞かれたから面倒になったんです。なら、こちらからバラして、余計なことをしないようにしてしまえばいい。単純明快。実にシンプルです。


 テルヤは神妙な面持ちで、二人を見る。

「どうかなさいましたか?」

「ああ、未来が見えた。いや、これは未来というより、忠告? なるほど、神の声が聞こえるってのはそういうことか。」

 おや、伝わりましたね。こちらが伝えたいことはしっかり伝わる。それなら話は早いです。

 考え込むテルヤを心配そうにサルビアが見つめる。

「いや、とにかく。アリステリアも四天王に襲われるかもしれない。」

「なるほど、それは困りましたね。アリステリアには、古代文明が遺したとされるアーティファクトがあるそうなのです。この未曾有の魔族侵攻の折、勇者招来の際にはアーティファクトを譲るよう、我が国とアリステリアとで協定を結んでいました。もしそれを四天王に奪われれば、厄介なことになるかもしれません。」

「ずいぶんと詳しいな。」

「ええ、わたくしのお父様が結んだ協定ですから。」

「そういうもんか。」

 テルヤは少し納得したように頷く。ほんと馬鹿な主人公でよかったです。


 さて、サルビアにアリステリアの状況を伝えてもらったところで、ひとまず主人公には強くなってもらわなければなりません。現状、主人公は申し訳程度に腰に下げている小さなダガーですらまともに扱えないクズなのですから。とはいえ、彼が戦闘能力を身に着けるのはもう少し先になりそうですね。えーと、僕の予定では——。

 彼は宿泊のために立ち寄る街“エルラン”で厄介ごとに巻き込まれることになっていますね。

 さて、今度こそ主人公が思い通りに動いてくれればいいのですが。


 遥かなる稜線に、太陽がゆっくりと沈んでいる。

 半日以上も馬車に揺られ、うつらうつらと、三人を睡魔が襲っている。

「もう間もなくエルランに到着します。」

 御者が言う。ようやく着くのかと、三人が伸びをし始めたとき——。

 轟音。

 馬車が大きく左右に揺れる。

 耳障りな金属音をさせながら、馬車が右に傾いていく。

 悲鳴、混乱。

 ガタガタガタガタ、と大きく馬車が上下に揺れる。

 やがて、一瞬ふわり、と浮遊感が訪れ——。

 ——衝撃。

 三人の意識は闇へと沈んでいく。


 目を覚ます。歪む視界に目を凝らす。

 次第に状況が見える。ルートとサルビアが目の前に倒れている。幸い、目立った外傷はない。

 あたりは暗い。どうやら夜になったようだ。

 馬車が倒れている。よく見れば、左側の車輪が大きく変形している。

 轍をたどれば、十メートルほど後ろの地面が大きくえぐれている。爆発の類か、いずれにしても自然に起きたとは考えにくい。

 襲われたか。しかし、二人が無事だということは盗賊の類だろうか。

「ん……いったい何が……。」

 サルビアが目を覚ます。彼女もあたりを見回し、茫然としている。

 テルヤはルートの元へ行くと、その頬を叩く。

「おい、大丈夫か。起きろ。」

「うぅん……。」

 どこか苦しげに眉を顰め、やがて目を開ける。

 二人が現実に体を馴染ませきったところで、テルヤが口を開く。

「どうやら俺たちは襲われたみたいだ。多分、盗賊の類だろう。」

 その言葉に、サルビアはハッと頭を上げる。

「御者さんは! 御者さんは無事でしょうか。わたくしたちはともかく、御者さんは馬車の外にいました。無事じゃないかもしれません!」

 その言葉に、テルヤたちは馬車の周りを調べる。

 すると、少し離れたところに誰かが倒れている。御者だ。

 頭から血を流し、意識も失っている。だが、幸い息はあった。

「よかった。生きてるぞ。多分その背の高い草がクッションにでもなったんだろう。」

「本当に良かったです。」

 サルビアは胸をなでおろすと、治癒魔法を御者に施す。

 少しの沈黙ののち、ルートが口を開く。

「盗賊に襲われたなら、荷物は無事、です?」

 サルビアは自分の鞄を確かめる。

 テルヤは重苦しく首を振る。

「いや、食糧はダメだった。金に関しても取られてる。地図や武器……つっても俺のダガーだけだが。そういうのは無事だった。」

 ルートはその言葉に、困ったように続ける。

「まずい、です。それじゃあ、今夜は野宿、野宿です。」

「うーん。まあ、幸い街までは近い。ひとまず街に行ってから考えよう。」

 そうして今後を話し合っている二人と対照的に、サルビアはまさに、顔面蒼白。尋常じゃない汗をかいていて、明らかに動揺している。

「ない……。」

「どうした、お前もなんか盗まれたのか?」

「わたくしの大切なブローチが、ないんです……。」

 震えながら呟くサルビアに、テルヤはどこか気まずそうに言う。

「そりゃあ残念かもしれないけど……いや、残念だけど、そんな高そうな物持ち歩くなよ。」

「テルヤ。デリカシーない、です。さいてー。さいてーです。」

 責めるルートに気圧され、テルヤも申し訳なさそうに謝罪する。

「いえ……。不用意にそういったものを、旅に持ち込んではいけないのは、わたくしも理解しております。でも、あのブローチはお母様の形見なのです……!」

 下唇を噛むサルビアの肩に手を置くと、安心させるようにテルヤは、

「大丈夫。取り返しちまえばいいだけだろ?」

 そう言って親指を立てて……そんな気の利いたセリフ言えるなら、もっと普段から気を利かせらんないんですかね?


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