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第十話「俺の能力は未来予知じゃねえ。」

「やだね。」

「なるほど、魔王軍に逆らうことがどういうことか分かっていないみたいだな。」

 レディブルは不機嫌そうに、糸を地面に吐き捨てた。

 テルヤは続ける。

「分かってて言ってる、と言ったら?」

「ただの馬鹿だ。」

 刹那、レディブルが、揺らぐ。

 否、次の瞬間にはテルヤにその剛腕を振り上げていた。

「《リリース》」

 だが、届かない。

ルートの赤魔術“ファイヤーピラー”が、レディブルの足元に発動する。

 瞬間、天を裂くような火柱がレディブルを包む。

「お前の敗因は、迂闊に敵陣に攻めてきたことだ。俺はお前の弱点を知っている。だったら、いくらでも準備のしようはあるってもんだ。」

 テルヤがニヒルに笑い、言う。

 やがて、炎が消えていく。

 そこにはレディブルの死体が——ない。

「なるほど。だが、甘い。甘すぎるな。」

 テルヤの真上、上空から声がかかる。

「クソ、やっぱりか! 今ので終われば楽だったんだがな。」

 レディブルの足元にはおそらく糸を織り込んで作ったであろう、盾が展開されていた。

 彼は表情一つ変えずに、言う。

「自分の弱点を補うのは、戦士として当然のことだ。計算外だったか?」

 テルヤは、返さない。代わりに、叫ぶ。

「サルビア! 頼む!」

「はい! 女神よ、女神。白は力。前へ進むものに祝福を。」

 白魔術“ヘイスト”が、テルヤにかけられる。

「鬼ごっこと行こうぜ、レディブルさんよ。」

 テルヤは風よりも早く、逃げ出した。

「フン、貴様が逃げるなら先に魔法使いと女を殺すまでだ。」

 そう言ってサルビアとルートがいた場所を見る。

 が、誰もいない。

「なるほど、テレポートでもしたか? いいだろう。貴様の茶番に付き合ってやる。」


 ————時は少し戻って。

 ヴェルヘン城、ルートにあてがわれた一室。

 そこに、テルヤたち3人と、ガームルがいた。

「いいか。レディブルは炎に弱い。だが、本当にそうだと言い切れるかはわからねえ。」

 その言葉に、サルビアが戸惑いながらも、言う。

「ですが、テルヤ様は未来予知でそれを知ったのではないのですか?」

「ああ、俺もそう思ってた。実際、ヴェスタ村では見えたことがそのまま起こったしな。」

 そう肯定しつつも、テルヤは首を振る。

「だが、今回は違う。最初に見た未来は砦での戦闘だった。だが、次に見たときにはレディブルと俺たちが、王都で対峙しているところだった。」

 しかし、サルビアはおずおずと、

「それなら、未来が変わってしまったのではないでしょうか?」

 テルヤの言葉を否定した。

 テルヤは続ける。

「それも考えにくい。俺が最初の未来を見てから、次の未来を見るまで、俺たちはずっと王城の中にいたはずだ。レディブルがそこで起こったことを知ることができる可能性はほとんどない。もし仮に知れたとしたら、怪しいのはガームルということになるが……。」

 テルヤはガームルを一瞥する。

「とんでもございません! 私は生まれた時からこのヴェルヘニアに仕える身!反逆などあり得ません! そもそも、私になんの得があるというのでしょうッ!」

 そうして、大きく身振り手振りをしながら、否定した。

 テルヤは小さくため息を吐く。それから、さらに続ける。

「と、いうことらしい。仮にガームルが敵でないとするなら、俺の能力は未来予知じゃねえ。」

 サルビアは話が見えない、というように眉をひそめながら、問う。

「つまり、どういうことなのでしょう。」

「いや、詳しくは分からねえ。神の声が聞こえるとか自分の望む未来を引き寄せるとか、その辺がどういうことなのかは俺にも分からない。が、俺が見た未来は必ずしも訪れるわけじゃない。」

「ということは……。」

 サルビアは不安げにテルヤを見る。

「ああ、そうだ。あいつが炎を対策している可能性だってある。さすがに炎そのものに強くなる可能性はない……と、思いたい。」

「なら、どうすればいいのでしょう……。」

「それを今から考える。そのためにも、全員の手の内を明かしてほしい。いいか。」

 三人は頷く。

 それから、ガームルが口を開く。

「では、私からお教えしますッ! この私、ガームルはなんとッ! 魔術であればどんなものでもッ! 時間さえあればどんな大魔法でも発動させられますッ!」

 言いながら、大仰に手を振る。

「それはすごいな。ちなみに、どれくらいかかるんだ?」

「規模にもよります。不眠不休で書いたとして、大きいもので七日、小さいもので数十分です。」

「分かった。同時並行して複数の魔術を使うことは?」

「同時に使うことはできません。同時詠唱ができませんから。ですが、複数個準備しておくことは、可能です。これもやはり、時間さえあれば、ですが。」

 テルヤは頷くと、それからサルビアを見る。

「サルビアは、治癒魔法が得意だったな。」

「はい、それから白魔術であれば人並みには使えます。それ以外となると難しいかもしれません。」

「分かった。ありがとう。」

 それから、テルヤはゆっくりとルートの方を見ると、言った。

「じゃあ、ルートだ。特にヴェスタ村でやったあの二手に分かれるファイヤーボールのことが気になる。俺のやった詠唱と同じはずだったが?」

 ルートは少し驚いたように、

「やっぱり、テルヤは察しがいい、です。わたしは赤魔術を自由に改変できる、です。ただし、どう改変するにしても一度だけ。二手に分けたファイヤーボールをもう一度改変したりはできない、です。」

「すごいな、それは。才能とかいう域を超えてるぞ。」

「まぁ……。」

 ルートは気まずそうに眼を逸らす。

「よし、俺の手の内も明かしてやろう。」

 そして、テルヤは少し間を置くと、言った。


「俺は戦闘中、逃げ回ることくらいしかできねえ。」



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