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第一話「こんにちは、読者の皆さん。」

 えー、どうも。こんにちは、読者の皆さん。僕の世界へようこそ。いやあ、ここまで長かったですよ。世界観とかキャラ考えたり? まあそんな感じでさ。

 というわけで、そろそろ僕の物語を始めるとしますか。まずは主人公を登場させなきゃいけない。とはいえ、僕の力だと主人公だけは作り出すことができないんですよね。まあ、制約ってやつですかね。あれ、僕の話あんまり興味ない感じですか?

 はいはい、わかりましたよ。それじゃあ、主人公が僕の世界に登場するところは……うん。王城がいいかな。そう、だから書き出しは——。


「よくぞ参った、勇者よ。」

 玉座に座った老人が、たくわえた髭を撫でながら言う。

「ん……、え? いや、ここはどこだ? つか、アンタ誰だよ。外国人っぽいけど、まさかここ外国か?」

声をかけられ、目を覚ました青年——そういえば彼の名前を知りませんね——はあたりを見まわした。

 青年は不思議な紋様の上に置かれた椅子に座っていた。おそらく、魔法陣の類なのだろう。それから、周囲には数十人もの甲冑姿の男たちと、数人の豪華な衣装を身にまとった壮年の男たち。壁には一目で高価だとわかる金の燭台があり、天井からは大男が両手を真っ直ぐ広げても足りない程大きなシャンデリアが吊るされている。

「ここはヴェルヘン城。我がヴェルヘニア王国の中枢だ。そして、ワシがこの国の王である。」

「いやいやいやいや、ちょっと待ってくれよ。俺はさっきまで授業を受けてたんだぞ? いや、まあ居眠りしてたから受けてたと言えるかどうか怪しいけど……。とにかく、どうしてそんなヴェルヘン城? とかいう所にいるんだよ。どう考えたっておかしいだろ!」

 困惑し、声を荒げる青年を見て、王は申し訳なさそうにしながらも続ける。

「そうして取り乱す気持ちは分かる。だが、我々としてもそうせざるを得なかったのだ。我が国、いや、この世界は“深紅の魔王”の手によって滅ぼされようとしている。そのためにも、勇者の力が必要だったのだ。だからこうして、そなたを呼び出した。」

「はあ? 俺が勇者だあ? 俺はただの高校生なんだけど。人違いなら返してもらえませんかね?」

 青年が少し苛立ちを交えながら言う。すると、王のすぐ隣で控えていた一際大きな甲冑男が剣に手をかけた。

 王は甲冑男を手で制すると、相変わらず髭を撫でながら言う。

「そなたの下に魔法陣が見えるだろう。それは異界転移の魔法陣だ。ここではないどこかの世界から一人をランダムに召喚し、何らかの強力な能力を与える。我々はその強力な能力を以て世界を救うものを勇者と呼んでいる。」

「つまり。お前らの勝手な都合で俺は呼び出されたってわけだ。」

 青年は一際目を吊り上げ、怒りをあらわにした。

 王は重々しく首を縦に振る。

「元の世界に返せ。お前らを救ってやる義理は、俺にはない。」

「それはできない。召喚する魔法はあっても、元の世界に戻す魔法はない。」

 青年はそれを聞くと、頭を激しく搔きむしり始めた。それから、椅子から立ち上がると、王のほうへと詰め寄っていく。

 青年が玉座まであと数歩といったところまで来たとき、王が口を開く。

「ワシを殴ろうが、殺そうが、構わない。世界を救ってくれるなら、どのような仕打ちも受けよう。そなたが望むものをなんでも褒美として出そう。だから、頼む。」

 そう言って、王は深々と頭を下げる。

 青年は足を止める。そして、大きく、それは大きくため息をつく。

「クソ、分かった。アンタの覚悟は伝わったよ。だけどな、俺だって生まれ持っての戦士でもなけりゃ、見ての通りただの子どもだ。悪いけど、命を張れるだけの覚悟はない。そもそも、強力な能力? とかいうのだって使いこなせるか分かんねえんだ。他をあたって——」

 王は青年の言葉を遮るように、右手で何か合図をする。

 すると、玉座の後ろ、垂れ幕の裏から一人の少女がしずしずと歩いてきた。

 雪よりも透き通った白い肌を豪華絢爛な紺碧のドレスに包み、太陽よりも眩しく輝く長い金髪は丁寧に後ろで結われている。双眸は吸い込まれるほど大きく、澄み切った碧眼をしている。もし一言で表すのなら、天使というのが相応しいか。もしかしたら天使すら凌駕するかもしれない。いずれにしても、その美貌は同性すらも魅了するだろう。

 王は、彼女が隣まで来たのを見て、口を開く。

「もし世界を救ってくれるなら、ワシの娘、サルビアをやろう。」

「俺に任せとけ。」

 その笑顔は、サルビアの髪よりも眩しかった。


編集履歴)

冒頭部分の改行ミスを修正しました。(2022年2月18日:10時53分)

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