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学校が火事になって陽葵と一緒にいる時間が増えそうだ

彼女と一緒にいる時間が増えます

 春休みも残すところ後一日。今日は春休み最後の日曜日なのだが、いつも通り俺は陽葵と家にいた。健全なカップルだったら歳の差があろうと休日はデートに出かけるようなものなのだが、家の中限定で自由に動き回れる事以外ほぼ監禁状態に近い俺は一歩も外へ出してもらえず。いやね? 外へ出ようとはしたんだよ? 玄関行ったら俺の靴がなかったってだけで。陽葵に聞いても知らないの一点張りだった時はさすがにちょっとビックリした。というわけで……


「ゲーム……は飽きたし……本は……全部読んだ……暇だ」


 俺は暇を持て余していた。幼い子供だったらこの広いリビングではしゃいで駆け回ってるところなのだが、高校生の俺がそんな事をしたら単なる痛い奴。こうしてソファーに座ってぼんやりと天井を見ている他ないのだ。陽葵は仕事中だしな


「たまには外へ出たいよなぁ……」


 仕事している陽葵の背中を一瞥し、自分の両手に目をやる。手錠で繋がれた両手を見て深く溜息を吐き、再び天井を見上げる。ヤンデレの彼女は欲しいと願っていた。ヤンデレの後に余計なストーカーって付くが、ヤンデレの彼女ができて飛び上がるほど嬉しいは嬉しいが……さすがに家の中ではある程度自由に動き回れるとしてもやる事がないと暇だ。忙しい時は暇が欲しいと思うが、暇な時はやる事が欲しいだなんて矛盾している。人間って不思議な生き物だなぁ


「外へなんて出さないよ。朝陽君はずっと私の側にいればいいの」


 こちらを向く事なく冷淡な声で言う陽葵。俺の独り言聞いてたのか……明日には学校が始まるんだが……


「俺、高校生。明日には学校が始まるんだが……」

「そんなの辞めちゃいなよ。私が養うんだから必要ないでしょ?」


 この女は何を言っているんだ……昔────と言ってもだいぶ前だが、その頃は中卒で働けた。むしろ高校に行く人の方が少なく、大学進学ってなったら余程の金持ちの家に生まれた人くらいだった。だが、今の時代は違う。中卒で雇ってくれる会社なんて肉体労働を主とした会社だけ。いや、肉体労働を主とした会社だって最低限高校は卒業しとかないとマズい。だというのにこの女は……俺に高校中退しろってか? 冗談じゃねぇ、俺は大学まで行くって決めてるんだ


「養うとか関係なしに今の時代最低限高校は卒業しとかないとどこにも就職できねぇだろう」

「そうだね。でも、朝陽君の進路は私と結婚だよ? 高校に通う必要ないでしょ?」

「いつ結婚の約束したんだよ……」

「私と付き合った時点で結婚するって約束したようなものでしょ?」


 付き合う=結婚って何をどうしたらそうなるんだ……同棲を前提に付き合ってくれとは言ったが、結婚を前提に付き合ってくれとは一言も言ってないんだが……告白時の思い出が超美化されてるのはヤンデレあるあるだよな


「結婚したいとは思ってるが、ちゃんと高校と大学は卒業したいと思ってるんだが……」

「いいよしなくて。私が養ってあげるし」


 陽葵はいいかもしれんが、俺は困るんだが……


「陽葵はそれでいいかもだが、俺は困るぞ。最終学歴が中卒とか嫌すぎる」


 最終学歴が中卒とかアルバイトですら雇ってもらえるか怪しいレベル。まだ定時制でも高校に通ってますとかだったら希望あるが、ガチ中卒とか就職かなり難しい。高卒だったらやり様によってはそれなりにいい収入があるところに就職できるとは思う。ただ、茨の道だとは思うがな


「私はいいよ?」

「俺が嫌だっての」


 えー、皆さんお気づきかと思いますが、ほぼ監禁に近い状態の今、ラノベ主人公みたいな事をしたらどうなるか? 俺の予想が正しければ陽葵は目からハイライトを消し、物凄い勢いでこちらに迫って来るでしょう。今は後ろ姿しか見えませんが、ヤンデレの行動を読むなど俺にとっては朝飯前。自分の彼女を不安にさせない及び余計な手間を増やさない。俺は賢い男だからな


「私と一緒にいたくないの?」


 陽葵の声が冷たいものに変わる。勢いよく突っ込まなかったから面倒展開を回避できたかと思ったが、こっち────思い込みに入ったか……


「いたくないとは言ってない。最低限の卒業資格は欲しいって言ってるんだよ」

「学校と私、どっちが大事なの?」


 えぇ……普通の彼女だったら間髪入れず学校って答えるんだが、相手はヤンデレだからなぁ……学校って答えても陽葵って答えてもバッドエンドなんだよなぁ……


「どっちって……そりゃ陽葵と歩む未来に決まってるだろ」

「朝陽君ズルくない?」

「ズルくない。どっちが大事かじゃなくて、これからどうなるかの方が重要だからな」


 我ながら狡いと思う。だが、嘘は吐いてない。高校なんて大学に進学するための通過点。陽葵とは破局か死別あるいは当事者同士じゃどうしようもない別れでも来ない限りはずっと一緒にいられる。現状の事よりも未来の事を考えてた方が有意義だ


「それを言われると私は何も言えなくなるじゃん……」

「そりゃ、何も言えなくしてるからな。当然だ」

「バカ……」

「バカで結構。それより、俺と喋るより仕事したらどうなんだ?」

「してるモン……」


 そう言う陽葵の背中は心なしか震えていたような気がした








 楽しい時間はあっという間。日曜が終わり、今日は地獄の月曜日。幼児以外だったら憂鬱な事この上ない曜日。俺も例に漏れず────


「もう一度昨日を繰り返さねーかなぁ……」


 憂鬱だった。春休みの間は月曜日が来ようとどうでもよかった。バイトはあれど、学校に通う事はなかったからな。だが、今日からは新しい学年。高校二年生。後輩ができるって考えただけで気分が沈みそうになる


「私も同じ気持ちだよ。朝陽君……」


 悲し気な目で俺を見る陽葵だが、彼女と俺の思いはおそらく違うもの。俺の場合は学校に行きたくない的な意味でカムバック日曜日なのだが、陽葵は多分、俺と一緒にいたい的な意味でだと思う


「はぁ……学校とか無くならねぇかなぁ……」


 考え方は違えど俺達の思いは同じ。しかし、ここで同意してしまうと今後の学校生活が危ぶまれる。だから俺は否定も肯定もせず、自分の願望を呟く。高校は卒業したいが、通学はしたくない。矛盾してるんだよなぁ……


「本当に学校無くなってほしいよね……」

「ああ」

「「はぁ……」」


 俺達は二人揃って深い溜息を吐いた。憂鬱な気持ちで沈んでいた時────


「こんな時間に誰だ?」


 ブレザーの内ポケットにある俺のスマホが振動した。着信は学校から。今の時間は七時。遅刻だと怒られる謂れはないのだが……とりあえず出てみるか


「はい、小鳥遊です」

『あっ、小鳥遊クン? 先生ダヨ☆』


 このやけにノリがいい女性は俺が高校一年のとき担任だった人。まさか今年もこの人が担任なのか? 


「はい」

『も~ノリ悪いなぁ……せっかく先生からのラブコールなんだよ? もう少しノリよくしてもよくない?』

「よくないですね。学校からの電話なんて提出物の催促か三者面談のお知らせとかロクなものじゃないんで」

『ぶ~! 小鳥遊クンのいけず』

「いけずで結構です。それより、要件は何でしょう?」

『冷たいなぁ……』


 ノリがいいのはいいんだが、ノリが良過ぎるのも問題だ。このノリの良さで何人の男子生徒が勘違いしたか……片手じゃ数えきれないくらいにはいる。どうでもいい話だからそれはいいとしてだ、要件は何だ?


「冷たくありません。早く要件を言ってください」

『ぶ~! 分かったよぅ────』


 担任からの要件は学校に行きたくない俺からすると大変ありがたいものだが、学校にとっては一大事だった


「マジですか?」

『マジですよ』

「そ、それは大変でしたね……まさか学校が火事になってただなんて……」

『うん。私も出勤してきてビックリだヨ。というわけで、再開の目処が立つまで休校だからよろぴな!』

「は、はあ……それはいいんですが、学校がない間、生徒はどうしたらいいんです?」

『自主勉しとくように! 以上!』


 それだけ言って担任は電話を切った




 スマホを内ポケットに戻し、陽葵を見る。学校に行きたくないとは言ったが、本当になるとは思わんかった


「今の電話誰から?」

「担任。なんでも学校が火事になってたらしい」

「そうなんだ……それは大変だったね。で? 学校がない間どうしろって?」

「自主勉しとけってさ」


 本来なら春休み以外の長期的な休み────夏休みや冬休みには課題が出る。それがないって事は本当に学校が火事になったというのは本当のようだ


「ふーん……なら当面の間一緒にいられるって取っていいの?」

「ああ」

「そっか……そっかぁ……」

「な、なんだよ……」

「べっつにぃ~、朝陽君と一緒にいられて嬉しいなぁ~って思っただけ」


 学校が火事になったと聞いた途端ニヤケ面になった陽葵を見て一瞬、まさかコイツが学校に火を点けたのか? と思ったが、よく考えたら昨日はずっと一緒にいた。俺が見ている限りじゃ彼女は一度も側を離れなかった。陽葵がヤンデレだからって考えすぎだよな……








今回も最後まで読んで頂きありがとうございます

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