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彼女の仕事について詳しく聞いてみた

新年あけましておめでとうございます

 陽葵によってバイトを辞めさせられてから早一週間。バイト辞めさせた宣言があったその日にマスターに確認すると「彼女とお幸せに~」なんて言われた。ヤンデレの行動力が恐ろしいのは物語の上では知っていたし、ヤンデレ彼女と付き合うメリットの記事が書かれたブログにも独占欲と行動力は目を見張るものがあるって書いてあった。読んだ当初は軽く流していたが、まさか自分の身に起きるとは……ヤンデレ好きだから怒る気は全くしない。だが、バイトを辞めさせられて困る事もある。それは────


「欲しいもの買う時どうすりゃいいんだ……」


 そう。自分に必要なものを買う時の出費をどこから出すかだ。今まではゲームでも本でも学校で使うものでもある程度は自分で揃えていた。教科書や体操着にかかる金は親持ちだったけどな。それもこれも全て俺のバイト代が元手。収入源がなくなった俺は仕事をする陽葵を横目に途方に暮れていた


「朝陽君が欲しいものなら私が買ってあげるよ」


 パソコンから目を離さずにいた陽葵だが、俺の独り言は聞こえていたようだ。フリーのイラストレーターの収入がどれくらいかは知らんが、広くてデカいマンションに住めてる時点でそれなりに貰っているのは理解できる。俺の欲しいものなんて本やゲームと安く済むものばかり。値が張るものだとパソコンくらいだ。とは言っても精々十万前後。本とゲームはねだってもパソコンは自分で買う。十万だなんて大金を女に出させるほど俺は腐ってない


「今んとここれと言って欲しいものはない。ただ、収入源がなくなってどうしたものかと悩んでいただけだ」

「本当に欲しいものないの?」

「ないな。パソコンはつい三ヶ月前に買い替えたばかりで本はまだ読んでないものがたくさんある。ゲームだって積みゲーが山ほどある。欲しいものは特にない」

「ならいいけど、欲しいものがあったらすぐに言って。買ってあげるから」

「分かったよ」


 本当に今のところ欲しいものはない。仮にあったとしても買ってくれだなんて言わない。確かに俺はヤンデレが好きだ。愛してると言ってもいい。しかし、ヒモになるつもりは毛頭ない



 陽葵が仕事する様子をしばらく眺めていた俺だが、一つ気になった事があった。今更なのだが、彼女の職業についてだ。フリーのイラストレーターだというのは最初に聞いた。現にこうして目の前で仕事をしてる姿を見せられてるから疑う余地はない。俺が気になるのは仕事の依頼内容だ。イラストだけで食っていける程世の中甘くない。他にも何か仕事をしているはずだ


「なぁ、陽葵」

「ん~? 何?」

「陽葵ってフリーのイラストレーターだって言ってたが、主にどんな会社が依頼してくるんだ?」

「いきなりどうしたの?」

「どうもしない。単なる好奇心だ」

「そう。でも、いくら朝陽君でも教えられない。依頼主から黙ってるように言われてるからね」

「だよな……」


 何となくだが、教えてもらえないだろう事は解かってた。もしもゲーム関係や出版関係からの依頼だったとしたらネタバレは多大なる損害を被る。家族であっても仕事の内容は秘密にしなければならない。教えてもらえなくて当然だ


「ごめんね。発売された後だったら教えてあげられるんだけど……」

「いや、いい。それより軽率な質問した。悪かった」


 好奇心に勝てなかったとはいえ、我ながら軽率な質問をしたと思う。いくら彼女でも依頼主の事を聞くだなんて浅はかだった


「いいよ。まぁ、そうだね……朝陽君が持ってる本の中に私がイラストを担当したものがあるとだけ言っておくよ」


 俺が持ってる本の中に陽葵がイラストを担当したものがある? 俺の持っている本は大半がラノベ。そういや今彼女が書いてる美少女の絵を見た気がする……


「俺の持ってる本は大半がラノベなんだが……」

「うん。その中に私がイラストを担当したものあるよ。それ以上は言えないけど」

「そうかい」


 俺はそれ以上何も言えなかった。ただ、彼女の描いてる絵が妙に気になる。どこかで見た事があるのだが……どの作品だったかなぁ……追々思い出すか





 陽葵に依頼主の話を聞こうとした日から三日が経過。あの日から俺の頭にはしこりが残っているような気がしてならない。後数日で学校が始まる時期に差し掛かったある日、今日も今日とて俺は両足を椅子に固定され、彼女の仕事を隣で見守っていた。どうやら今日も陽葵は同じ依頼主から注文された絵を描くらしい


「見覚えはあるんだがなぁ……」


 彼女の絵には見覚えがある。ラノベの表紙にあったような気がしてならないのだが、世の中には似たり寄ったりの絵を描くイラストレーターは腐るほどいて具体的な作品名が出てこない。イラスト描く事を生業としている人達には悪いが、大きな書店のラノベコーナーやアニメ関連の店に行くと似たようなジャンル、似たようなイラストが表紙を飾っているラノベはたくさんあり、これだと断言はできない


「朝陽君の持ってる作品の絵なんだから見覚えがあって当然だよ」


 あの日と同じく陽葵はパソコンから目を離さずに答える。ネタバレは厳禁じゃなかったのか? ヒントを与えるような真似をしていいのか? ってツッコミしていいか?


「ネタバレに繋がるような事言っていいのか?」

「よくないよ。でも、朝陽君は自分で答えに辿り着くでしょ?」

「辿り着かないんだが……」

「何で?」

「何でって言われてもなぁ……分からないものは分からないとしか言いようがない」


 ラノベのイラストなんてどれもこれも似たような感じのモンだから分かるわけがない。とは口が裂けても言えなかった。言うと陽葵だけじゃなく、全イラストレーターの誇りに傷をつけてしまうような気がしたからだ


「彼女の描いた絵だよ? 彼氏なら見破れるよね?」


 そう言って陽葵はハイライトの消えた目で俺を睨む。見破れるよね? と言われてもなぁ……数ある中からたった一つを見つけるのは難しいんだが……俺の持ってる作品数は大した事ないけど。というか、絵を見破るのに彼氏関係ないだろ。他の女に目を向けたわけでもないのにどうして目のハイライトさんは仕事を放棄するんですかねぇ


「絵を見破るのに彼氏は関係ないだろ。そもそもがノーヒントで見破れって方が無理なんだよ。他の女に興味はないが、他のラノベには興味深々なんだよ」


 いくらヤンデレでもラノベに出てくる美少女に嫉妬なんてしないと思っていた。しかし────


「は? 浮気?」


 陽葵の嫉妬心に火を点けてしまったらしい


「なんでそうなるんだよ……」

「朝陽君が私以外の人が描いたイラストを可愛いと思ったから」


 浮気って何だろうな……一瞬でも他の女に目がいってしまったってなら納得はいかんけど、浮気認定されても仕方ない。しかし、他の人が描いたイラストを可愛いと思っただけで浮気認定されるのは納得がいなかい。俺はイラストで本を選んでない。タイトルとヒロインの属性でラノベを選んでる。イラストなんて二の次だ


「俺はイラストの可愛さで読む本を選んでないんだが……」

「本当に?」

「本当だ。イラストレーターにこれ言う必要ないと思うが、俺はタイトルとヒロインの属性で読むラノベを選んでるんだよ。イラストなんて二の次だ」


 とは言っても俺の持っているラノベは全てタイトルのどこかにヤンデレが入っている。ヒロインの属性は言わずもがなヤンデレ。年齢、職業はバラバラだけどな


「それ言われるとイラストを描いてる身としては結構傷つくんだけど……」

「うっせ。事実なんだから仕方ないだろ。もう一度言うが、イラストで読むラノベを決めてねぇ。重要なのはタイトルとヒロインの属性だ。俺はヤンデレが大好きなんだよ」

「ヤンデレが大好き……つまり、朝陽君は私が大好き……え、えへへぇ~」


 先程とは一変。陽葵の顔が一気にだらしなくなっていく。ヤンデレは扱いやすいから助かる


「もうそれでいい」


 浮気疑惑が晴れたとは思わないが、話を逸らせて何より。そのまま今の話を忘れてくれると助かる


「えへへぇ~朝陽君と両想い……」

「その通りだ」

「し、幸せぇ~」


 仕事と思考を放棄した陽葵はしばらくだらしのない顔でニヤケ続け、妄想の世界へ旅立って行った





「マジでか……」


 陽葵が妄想の世界から帰って来たのはいいが、今度は別のハプニング……というか、イベント発生。俺は彼女によって寝室に連れ込まれ、ベッドに投げ込まれてしまった。隣には当然────


「朝陽く~ん……」


 猫撫で声で甘えてくる陽葵がいる。流れ的にはこうだ。妄想の世界から陽葵帰還→俺を椅子から解放→有無を言わさず寝室へ連れ込む→ベッドへ投げ込む(今ココ)


「行動早いんだよなぁ……」


 彼女の行動力に溜息を吐きつつ、俺の手は自然と彼女の頭を撫でていた


「にゅふふ~」

「ったく……」


 幸せそうな陽葵を見ると何もかもどうでもよくなってしまうから不思議だ


「朝陽君だ~い好き」

「俺もだよ」


 俺達はどちらともなく唇を合わせるとそのまま抱き合った







今回も最後まで読んで頂きありがとうございました

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