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彼女とイチャイチャしてみた

ヤンデレは刺激しなければ安全です

 陽葵の住むマンションに引っ越して来てから早いもので一週間。広すぎるリビングで俺は────


「どうしてこうなった……」


 隣で仕事をする陽葵の姿を見守っていた。というのも今の俺は椅子に両足を繋がれた状態で逃げ出そうと思っても逃げ出せない。見守っているっていうか……強制的に見学させられていると言った方が正しい


「朝陽君が逃げ出しちゃうかもしれないから?」


 こちらには目もくれず答える陽葵。仕事中なんだから集中しろよ……とは言っても彼女の仕事はフリーのイラストレーター。パソコンを使って作業してるから間違えたところで一からやり直しする必要などなく、間違えたところだけ修正すればいいらしい。二日前に同じ事があって本人に聞いてみたら今の返答が返って来た。俺にはよく分らんがな


「逃げない逃げない。陽葵こそ俺が求めていた理想の女なんだからよ」

「今の言葉に嘘はない?」

「ないな。俺の理想とする女はヤンデレなんだよ」

「それって私じゃん」

「自分で言うなよな……」


 理想とする女にヤンデレ上げといてなんだが、自分で言わないでほしいんだが……


「だって私ヤンデレだし」

「それはそうだけどよ……」


 ヤンデレは自尊心低い人が多いと聞くが、陽葵に関して言えば怪しいところだ。もしかしたらファッションヤンデレなのかもしれない。もしそうだったら夜逃げでもするか。俺が求めてるのはガチのヤンデレでファッションヤンデレはいらんしな。と、夜逃げを考えていると陽葵がハイライトの消えた目で俺を見ていた


「夜逃げしたら許さないから。絶対に許さない」

「何で俺の考えてる事分かるんだよ……」


 感情の籠ってない声は当然怖い。だが、それ以上に怖いのは俺の考えが読まれている事だ。彼女とは知り合ってからまだ一か月経ってないんだぞ? なのにどうして俺の考えが読めるんだよ……


「何でって朝陽君の事が好きだからだよ」


 理由になってないんだよなぁ……


「そうかい」


 納得はしてないが、一応、納得したフリをする。世の中で起こる全ての現象に理由を求めるとか面倒臭い事はしない主義だが、陽葵が俺の考えを読める理由だけはキチンと探求しないとけないと思う今日この頃。好きな相手の考えを読むスキルもヤンデレにとってステータスだとは思うけどな


「そうだよ。納得できなくても分かってね? それから、さっきも言ったけど夜逃げしたら許さないから」

「夜逃げしたところで行く当てなんてねぇよ」


 夜逃げを考えたところで俺の友人全員が彼女持ち。匿ってくれと頼んだところで断られるのは目に見えている。行く当てがないからここにいるしかないのだ


「そうだよね! 朝陽君のお友達全員彼女持ちだから行く当てなんてないよね!」


 満面の笑みで友達いないの認めたような発言されると傷つくぞ……事実なんだけどよ


「ああ、俺に友達なんていていないようなものだから夜逃げしたとしても行く当てがない。考えはしたが、実際に夜逃げしようだなんて微塵も考えてないから安心しろ」

「うん!」

「納得してくれたところで仕事の続きしたらどうだ?」

「そうする!」


 百ワットの笑みを浮かべた陽葵は仕事を再開。暇を持て余してしまった俺は辺りを見回す。ここへ来て一週間だが、母親以外の女性と一緒に暮らすのは初めてだ。未だに慣れない部分も多く、自分が異性の部屋で暮らしているという実感がまだ持てていない。どうしても物珍しくて見回してしまうのは許してほしい。それにしても……


「広すぎるんだよなぁ……」


 自分の住んでた部屋が狭すぎたのか不思議とこの部屋が広く感じる。一週間前も思ったが、まだこの部屋の広さには慣れない


「そのうち慣れるよ」

「そうかぁ?」

「そうだよ。私も最初は違和感しかなかったけど、慣れたから」

「そんなもんか?」

「そんなもんだよ」


 パソコンから視線を移す事なく答える陽葵。俺の独り言に反応を示す必要はないんだぞ?





 陽葵の仕事を見守ってからしばらく。時計に目を向けると十二時を指していた


「もう昼か……」


 昼時となると考えてしまうのはバイト先の事。現在十二時って事は開店したのは十分前。客でごった返してるところが目に浮かぶ


「お腹空いたねぇ~」


 仕事が一段落吐いたのか陽葵が身体を伸ばす。集中してても腹は減る。当たり前だ。さて、昼飯なんだが……


「だな。ところで昼飯どうする? ここで食うか? それとも、どっかに食べに行くか?」

「出前にしよう!」

「という事はここで食うでいいんだな?」

「うん! でも、ご飯作るの面倒臭い! 朝陽君とイチャイチャもしたい!」


 男として年上の女性から求められるのはこの上なく嬉しいが、飯作るのが面倒だというのは……大変よろしいかと思う


「そうかそうか。俺とイチャイチャしたいなら仕方ないな」

「うん! 仕方ない!」


 ヤンデレの女に甘い俺を許してくれ。そういう年頃なんだ








 出前を取るという事で意見が一致。食いたいものもスパッと決まった。電話で注文も済んだ。やる事は一つ。もちろん────


「陽葵! イチャイチャしようぜ!」

「うん!」


 最高に可愛いヤンデレ彼女とイチャイチャする事だ。とは言っても……


「イチャイチャって何すればいいんだ?」


 生まれてこの方彼女なんていた事のないから女性とイチャつく方法が分からない


「キス! ハグ! 愛の言葉を囁く!」

「マジで?」

「マジで!」


 陽葵は俺とイチャイチャできるからなのかビックリするくらいテンションが高い。言ってる事が短絡的過ぎる。だが、今の俺には彼女だけが頼りなわけで……バッサリ切り捨てるのもできない。ちょっと悩んだ結果……


「んじゃ、ハグしてキスして愛の言葉を囁くわ」

「うん!」


 という事で、紳士レベル1の俺は陽葵から出た意見を実行してみる事にしたのだが……


「キスってどこにすればいいんだ?」

「え?」

「俺キスなんてした事ないからどこにしたらいいか分からない」

「嘘でしょ?」


 嘘でしょって何だよ……ストーキングして全部調べたんだったら俺がキスした事ないのくらい知ってるだろうに……


「嘘じゃないんだが……ストーキングしてて全部調べたなら知ってるだろ?」

「知ってるけど……ここは嘘でしょ? って言うべきだと思って」

「そんな気遣い要らん」

「ごめん……」


 同情の視線が痛い……今まで彼女がいなかったから陽葵と付き合えてるわけなんだが……


「謝るな。俺が惨めになる」

「うん……」


 気まずい空気の中、俺達は互いの唇を合わせた。ファーストキスに特別な思入れはないが、初めてのキスがロマンの欠片もない雰囲気でになるとは思わなかった。この後、ハグ、愛の言葉の囁きを済ませ、ちょうどいいところで出前が来た。甘々な場面を配達員に見られず済んだのは不幸中の幸いだった。ちなみに今日の昼飯はラーメンだ





「ふぃ~、食った食った」

「美味しかったねぇ~」


 昼食を済ませ、ホッと一息。昼飯を食った後はだらけるに限る


「どうしてバイト中だと何も感じないラーメンがバイトしてない時だと美味いって感じるんだろうな……」

「お仕事に追わてないからなんじゃないかな?」

「そういうものなのか?」

「そういうものだよ」


 バイト先で食うラーメンの味とプライベートで食うラーメンの味がどうしてこうも違うのか……陽葵は仕事に追われてないからだと言っていたが、それは何か違うような気がする。この謎は別に解けなかったとしても問題ないから深くは考えないけどな


「さすが俺より年上なだけあって仕事に対する考え方がしっかりしてらっしゃる」

「まぁね。一応、納期に追われる仕事をしてますから」

「そうだったな」


 彼女の仕事は何だかんだで納期に追われる仕事だというのはアニメ特集なんかで知ってる。時々イラストレーターに焦点を充てたアニメもある。そういうアニメって大抵納期に追われてますって描写が大袈裟に描かれている事があるが、実際目の当たりにすると本当に納期って大事なんだと思わされる


「そうだよ。ま、私は朝陽君に癒されてるから納期が迫っていても関係ないけどね!」


 ドヤ顔で鼻を鳴らす陽葵。ストーキングしてた時は知らんが、一緒に住み始めた以上、学校やバイトがない日は全力で甘やかしてやろう。義務とか使命感じゃなく、自分がそうしたいと思うからやる。それだけだ


「どこから突っ込んでいいか分かんねぇよ」


 仕事で疲れた陽葵を甘やかしたい気はする。ただ、突っ込みどころが満載なんだよなぁ……


「突っ込まなくていいよ。私の側にさえいてくれれば」

「側にはいるけどよ、最低限学校とバイトには行かせてくれ」

「バイト? 行く必要ないよ。同居始めた日に辞めるって連絡入れといたから」

「そうかそうか。バイトは辞め────今なんて?」

「だから、バイトは同居始めた日に辞めるって連絡入れといたって言ったんだよ」


 この衝撃的過ぎる発言に俺は言葉を失った。ヤンデレの行動力を甘く見ていたようだ






今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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