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陽葵の家に引っ越ししようとしてみた

引っ越しって面倒だと思う

 俺が陽葵の家に引っ越す事が決定し、両親への報告を始めとした諸々の作業を終えた翌日。家の広さも本人に確認したらここにあるもの全て運び入れたところで問題ないのも確認済み。と、最低限の事は済んだのだが、俺にはいくつか確認しておかなきゃならない事がある


「なぁ、二つほど確認したい事があるんだが」

「ん~? 何?」


 視線を向けると陽葵は俺のベッドの上で足をばたつかせていた。彼女は余程ベッドの上がお気に入りらしい


 引っ越しが決定したというのに全く準備していない。それもそのはず。陽葵が業者に依頼したプランは荷造りから全て業者が行ってくれるという至れり尽くせりなもの。本人が電話を片手に「全部やってくれるやつにしといたから」と事後報告してきたのは記憶に新しい。昨日の事だから古いもへったくれもないんだけどよ


「陽葵の家って駅近いのか?」

「近いよ~。ついでに言うと下はコンビニだよ~」

「マジで?」

「マジで。ちなみに私の部屋は十階だから」


 この発言だけで陽葵の家の立地がある程度想像できる。この目でハッキリ見てはいないが、十階建てのマンションと見て間違いないだろう。駅に近くて下にコンビニがある建物なんてマンションくらいしか思い浮かばない。突撃された日に職業はフリーのイラストレーターだと言っていたが、彼女の給料はいくらなんだ……まぁ、一人暮らししてるくらいだから一人で生計を立てられるくらいには貰っているんだろうとは思う


「それだけ稼げる大人の陽葵がどうして俺なんか……」


 フリーのイラストレーターに出会いがあるのかは知らん。イラストレーターに関係なくフリーは自分で仕事を取り、注文に合ったイラストを描くくらいのイメージしかない。分からないのは大きなマンションに住めるくらい稼いでいる大人の女性がどうして高校生の俺なんか好きになったんだ? って話だ。聞かないって決めたから知りたいとは思わんけどな


「朝陽君だからだよ。理由はそれだけ」

「そうかい」

「そうだよ」


 誰かを好きになる理由は人それぞれ。俺はそれを否定するつもりはない。考えだすとどうしてが止まらなくなる。考えない方がマシだ


「ところで引っ越しっていつなんだ?」


 電話したのが昨日だからさすがに今日だという事はないだろう。ないよな?


「今日だけど? それがどうかした?」


 あっちゃったよ。電話したの昨日の昼くらいだったよな? 時期的な話をすると転勤ピークは去っただろうから時間は空いてるだろうけどよ……早くね?


「早すぎるだろ……」

「そりゃ、私が仕事を請け負っている業者に依頼したからね。早いし安いよ~」

「知らん知らん。俺は誰が金を出すかすら聞いてないんだ」


 引っ越しを言い出したのは俺だが、実のところ何も知らない。どこの業者に依頼したのか、料金はいくらなのか。俺は何も知らない。言い出しっぺのクセに何も知らないのはマズい


「お金? そんなの私が出すに決まってるじゃん。朝陽君に負担は掛けられないよ」

「いや、さすがにそれは申し訳ないんだが……引っ越しの料金って結構するだろ?」

「そうでもないよ? 大体三万~四万程度」

「そうなのか?」

「うん」

「知らなかった……」


 俺がここで一人暮らしを始めた時は家電に十万くらいかかったのは記憶してる。家具は……実家から届けてもらったってのと親父以下数名が運んできてくれたから業者に依頼なんて事はなく。何が言いたいかと言うとだ、俺は引っ越しにかかる費用がいくらするか全く知らないという事だ


「今知ったね。朝陽君が引っ越しをする時は私が引っ越しをする時だから覚えておいて」

「はいはい」


「陽葵が引っ越しをする時が来るのか?」という言葉が喉元まで出かかったが、俺はグッと飲み込んだ。今後の事を考えるとない話じゃなく、絶対にないとは言い切れない。余計な事を言って墓穴を掘るよりも謎は謎のままにしておいた方がいい。世の中には知らなくていい事なんてたくさんある


「むぅ~、返事が適当~」

「そんな事はない。今の俺には陽葵が引っ越しする時がどんな時なのか想像つかないんだ。想像できない事に対して真面目も不真面目もないだろ」

「例えそうだとしても好きな人にはちゃんと対応してほしいんだよ? 朝陽君に悪い虫が寄り付かないのは私的には非常に有難いけど、女の子の扱いはちゃんとしようね?」


 陽葵が何を言っているのか全く理解できんが、とりあえず女性の扱いはちゃんと勉強しようと思った今日この頃


「分かったよ。それより、業者って何時に来るんだ?」


 時計を確認すると十五時と表示されていた。陽葵が業者に電話した時間を十三時と仮定するとだ、かれこれ二時間は経過している事になる。何も知らないから具体的な時間を知ったところで文句は言わんけど、陽葵と話をするだけというのも本人には悪いが退屈だ


「六時だよ」

「マジか……」

「マジ。ちなみにチームリーダーは私のお友達だよ!」

「それを聞いた俺はどう反応したらいいんだ……」


 陽葵の事すら知らない部分が多いというのにその友達なんて知らない事しかない。友達がチームリーダーだと言われたところで反応のしようがない


「え~っと……驚く?」

「どこにだよ……」


 陽葵の友達がチームリーダーだというところのどこに驚けばいいのか……正直謎である


「どこにって……どこにだろう……」

「俺が聞きたいんだが……」


 言った本人が戸惑うなよな……


「そ、それより、ここって壊れやすいものってないよね?」

「ああ。強いて言うならテレビとゲームくらいだ。それがどうかしたか?」

「念のために確認」

「そうかい。さて……」


 必要な情報を手に入れた俺は徐に立ち上がった


「どこ行くの?」

「コンビニ。業者の人に差し入れでも買いに行こうと思ってな」

「いいよそんなの。本人も差し入れとか必要ないって言ってたし」

「そうはいかないだろ」

「コンビニに行くくらいなら今すぐ私の家に行こうよ。友達が勤めてる引っ越し業者道中にあるから鍵とここの番号書いたメモだけ預ければいいしさ」


 引っ越しをした事のない俺でもそれはマズいって分かる。会社の規則を考えるとそんな事が許されるわけがない


「いや、立ち会う人がいないとマズいだろ。テレビとか運ぶの困るだろ」


 正直な話、テレビもゲームも引っ越し業者に運んでもらうほどのモノでもない。実家にいた頃自室で使っていたもので大して大きくない。ちゃんと梱包さえすれば手で持って運べる大きさだ。購入した時は手に持って持ち帰ったくらいだしな


「この大きさだったら手で運べるでしょ。テレビは私が運ぶから朝陽君はゲーム機をお願い」


 いつの間にかテレビとゲーム機を運ぶ流れになったんだよ……改めてこの部屋にある電子機器を見て見るとあるのはテレビとゲーム、ノートパソコン。うん、全て手持ちで運べるものばかりだ


「いやいや、それこそ業者に任せようぜ。ノートパソコンだけは俺が自分で運ぶからよ」


 テレビとゲームはぶっちゃけなくてもいい。だが、ノートパソコンだけはないと困る。動画視聴するにもネットサーフィンするにも必要なものだ。だからこそ自分で運びたい思いが強い。しかし、陽葵は違ったようで……


「何? パソコンに大事なもの……他の女の画像でも入ってるの?」


 陽葵はハイライトの消えた目でこちらを睨みつけてきた。どうして他の女の画像ってピンポイントなんだよ……


「芸能人でも余所の女の画像は入ってない。使いたい時にすぐ使えるように自分で運ぶって言ってるだけだ。テレビとゲーム機は壊れてもいい。しかしパソコンだけは困る。業者の人を信じてないわけじゃないが、大事なものは自分で運ばないとな」


 引っ越し業者は言うまでもなく引っ越しのプロ。家の中にあるものの扱いに関しちゃ俺よりも上だ。パソコンは単に陽葵の家に着いてからすぐにネットへ接続したいから自分で運びたいってだけだ


「本当に他の女の画像入ってないの?」

「入ってない。何なら陽葵の家に着いてすぐに確かめてくれて構わない」

「うん。確認する。だから今すぐ私の家に行こ? ね?」


 こうして俺は陽葵の家に問答無用で連れて行かれる事となった。彼女の家へ行く途中、ちゃんと今回依頼した引っ越し業者に赴き、鍵と部屋番を書いた紙を預けた事を補足として言っておこう






 陽葵の住んでるマンション前────


「嘘だろ……」

「どう? 驚いた?」


 したり顔の陽葵はまるでイタズラが成功した子供のようだ。彼女が言ってた通り、下はコンビニ。そこから上が居住スペース。十階建てというのは本当だったようだ。俺が驚いてる────というか、信じられないのはマンションの規模ではなく立地。何しろこのマンションは……


「ああ、驚いた。俺のバイト先に近いって事にな」

「驚くのそこ!?」

「そこ以外ないだろ」


 駅が近い時点で何となくそうなのではないかとは思っていたが、予想が当たるとは思わなかった


「マンションの大きさとか色々あるでしょ!?」

「ねーよ。駅が近くて下にコンビニがあるって言われた時点で察してたしな」

「察しのいいところも好きだけどさ……もうちょっと驚いてくれてもいいじゃん……」


 不満そうな顔で頬を膨らませる陽葵。これでも驚いてるんだがなぁ……


「これでも驚いてる。俺のバイト先が目と鼻の先にあるっていう事実にな」


 今まではデカいマンションだなぁくらいの認識だったのにまさか陽葵がその一角に住んでたとは夢にも思わなかった














今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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