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引っ越しの話をしてみた

早くも引っ越しの話です

 陽葵を受け入れてから三日目。ヤンデレストーカーと同棲したと言ったな! しかーし! 俺は彼女のヤンデレな部分を見ていない! 全く見ていないわけじゃないが、見ていない! 見たとしたらここへ押しかけられた日だけだ! 何が言いたいかと言うとだな、俺は遊津陽葵のヤンデレが見たい! とは言ったものの……


「えへへぇ~朝陽君く~ん好き~」


 横にいる陽葵はさっきからずっとこの調子で俺にすり寄り、猫のように甘えてきてヤンデレを見せない。柔らかいやらいい匂いがするやら……俺の理性は物凄い勢いでゴリゴリ削られている。引っ越しとか諸々に何一つ手を付けてないってのに……俺も陽葵も呑気なものだ。おっと、引っ越しの前にどっちがどっちの家に住むか話してなかったな。話は昨日の朝食時に戻る








 昨日の朝食時。俺の目の前にあるのは二人分のパン、オレンジジュース、スクランブルエッグと作ってくれた陽葵には申し訳ないが、平凡なものばかり。カップラーメンか朝食抜きよりかはマシだから文句は言うまい。この食材は元々ここにあったもの。というのもバイトがなく、一日中家にいる時に間食するために買っておいたものだ。ちなみに始めはベッドから出たくないって言ってたんだけどよ、一言「陽葵の手料理食いたい」って言ったらすぐに用意してくれた


「まさかカップ麺が主だった俺がちゃんとした朝食を食う日が来ようとは……」


 目の前に並べられた朝食に僅かな感動を覚える。親と一緒に住んでいた頃は何もせずとも用意してくれてたから自分で作らずとも済んだ。だが、一人暮らしを始めると親の有難みが痛いほど解かる。カップ麺メインな俺が言うんだから間違いない


「朝陽君カップ麵ばかりだったもんね」


 キッチンから戻ってきた陽葵が呆れた表情でテーブルに就く。なんで知ってるのかは……聞く必要なかろう。彼女は俺のストーカーだった。部屋に侵入してきたくらいだ。食生活くらい把握していても不思議じゃない


「不健康だとは思うが、そっちの方が楽なんだよ。少数の洗い物で済むし、調理する手間が省けるしな」

「そうだけど、カップ麵ばかり食べてるといつか病気になるよ? でも、これからは私が朝陽君の全てを管理するから安心だね! 食生活でしょ? 学校のお勉強でしょ? お友達関係でしょ? 全て私に任せてくれるよね?」


 笑みを浮かべ小首を傾げる彼女に不覚にもときめいてしまった……交友関係に関しちゃ口出すなって怒るところなんだろうが……生憎俺の周りは彼女持ちしかいない。ヤバい事に手を出してる奴が一人もいないから怒るに怒れないんだよなぁ……


「はいはい。任せた任せた」

「むぅ~、返事が適当~」


 彼女持ちは多いが、俺の周りは基本的に男しかいない。陽葵が嫉妬する要素がないから適当に返したんだが……マズかったか。彼女に目を向けるとリスの様に頬を膨らませながらこちらを睨んでいた


「適当って言われてもなぁ……彼女持ち多いが、俺の周りには基本的に男しかいない。誰かに告白される事はもちろん、陽葵が嫉妬する要素がない。管理されずとも大丈夫なんだよ」

「分かんないじゃん! ある日突然告白される事だってあるかもしれないよ?」

「あー……陽葵がそうだったからそれはない話じゃないな」

「でしょ? だからこれから朝陽君の交友関係は私が管理するね!」


 そう言ってドヤ顔で胸を張る陽葵。管理すると言われてもピンとこない。盗聴器を仕掛けていいって言ったから多分、そういう事なんだろうけど……彼女は元・ストーカーだったからなぁ……俺に近づく女子は片っ端から調べ上げた挙句、樹海へ放り込むんだろうなぁ……


「警察沙汰にならない程度で頼むわ」

「任せて!」


 ここで会話は一端終了。朝食となった。食ってる最中も話はしたが、陽葵が俺をストーカーするに至った経緯なので割愛。端的にまとめるとコンビニで買い物をしている俺を偶然見かけた彼女が一目惚れをし、家まで後をつけたのがキッカケらしい




 朝食を終え、後片付けを済ませてまったりタイム。陽葵が用意し、後片付けは俺。「どこの新婚夫婦だよ……」と突っ込みたくなるが、話し合って決めた事であり、俺が申し出た事だから文句はない。おっと、どっちの家に引っ越すかの話だったな。俺のベッドでゴロゴロしている彼女にいきなり話を切り出した


「なぁ、陽葵」

「ん~?」

「同棲するのはいいんだがよ、俺かお前、どっちがどっちの家に住むんだ? 自慢じゃないが、この家は狭いぞ?」


 元々ここは俺が一人暮らしする用に両親が借りてくれた物件。一部屋しかなく、ルームシェアするには不適切。一緒に住んでる相手が女性だと尚更色々と不便だろう


「そうかな? 私的にはいつも朝陽君と一緒にいれていいと思うけど?」


 陽葵は特に気にした様子を見せずに答えた。そりゃそうだ。好きな人と一緒ならどこだって嬉しいだろうよ。俺は違う。好きな人だとしても気にするところは気にする。一部屋しかないという事はだ、喧嘩した時に気まずくなるし、着替えだって見られる。さすがにマズいだろ。色々と


「気まずくなった時や着替えの時に困るだろうが……」

「着替えは朝陽君だったら見せてもいいよ。それより、気まずくなった時ってどんな時?」

「どんな時ってそりゃ……な?」


 せっかくオブラートに包んだってのにどうして聞くんですかねぇ……つか、着替えは気にしようぜ……ってコイツ一応ヤンデレだったな


「な? じゃ分からない。どんな時?」

「どんな時って……そうだな……例えば、俺か陽葵がウッカリ相手の大事なものを壊した時とか?」

「私の大事なものは朝陽君だよ?」

「そうじゃなくて……はぁ、もういい」


 陽葵の俺を見る目が純真無垢そのもの。何も言えなくなった俺はそれ以上気まずくなった時の話をするのを止めた。とりあえず、俺の引っ越しの件に関してはスペース的にこの家には問題があり、陽葵の私物を運び込むと今よりも更に狭くなる事が予想されるぞって話で片が付いた








 で、現在────


「いい加減どっちがどっちの家に引っ越すか決めようぜ」


 未だ猫の様にすり寄って来る彼女に引っ越しの話を切り出すも────


「朝陽君~」


 この調子である。昨日は一日中どっちの家に引っ越すか話あったのだが、何にも決まらなかった。当たり前だ。昨日もこの調子だったんだからな


「はぁ……」


 今後の生活と命の危険があるから下手な事は言えず、俺は溜息を吐くしかできなかった。ヤンデレは好きだが、生活と命は惜しい。気が済むまでそのままにしておいてもいいのだが、退去手続きとか、両親への話とかがあるから早く決めたいんだが……


「朝陽君……ずっと一緒にいようね……」


 陽葵はすり寄るのを止め、俺の肩に頭を乗せて目を閉じたではないか。これじゃ話をしようにも不可能だ。この手だけは使いたくなかったんだが仕方ない


「必要な事すら話し合えない彼女か……嫌いになっちまおうっかなぁ……」

「えっ……? 私の事嫌いになるの?」


 目を閉じていた彼女はそのままの体勢で俺を凝視。もちろん目に光はない


「当たり前だ。俺は重要な事を決めようぜって言ってるのに陽葵は聞く耳を持たない。嫌われて当然だろ」

「嫌いになるのなんてユルサナイよ?」


 望んでたヤンデレムーブではあるのだが、この言い分はどうなんだろうな……ヤンデレと言えるのだろうか? どっちかって言うとメンヘラ臭い


「許さなくて結構。大事な話ができないよりかはマシだ」

「ふーん、そういう事言うんだー?」

「いっ────!?」


 陽葵に思い切り手を握られた俺はあまりの痛さに変な声が出てしまう。だが、その激痛よりも無表情で俺を睨む彼女が可愛くて仕方ない。マジで天使だ。言っとくけど俺はドMじゃねぇぞ? ヤンデレが大好きだってだけで。当然、俺が陽葵を嫌いになるだなんて絶対にあり得ない。ヤンデレ度外視しても可愛いし、知り合ってから日が浅いが、彼女の事をもっと知りたいと思ってる


「ネェ、アサヒクン。キミハワタシヲキライニナンテナラナイヨネ? サッキノコトバはウソダヨネ?」

「ど、どうだろうな? それはこれからの陽葵次第だ」


 先程よりも握る力が強まり、手が悲鳴を上げているのだが、どうにか堪える。人によるがヤンデレは相手が痛がったり苦悶の表情を浮かべると余計に拷問してくる。陽葵が好きな人を気遣えるヤンデレなのか、自己中心型のヤンデレなのかは分からんけど、ここは冷静に対処だ。どっちにしても少しでも油断すると相手のペースに嵌ってしまう


「そっか。そっかぁ……朝陽君は私の事嫌いになるんだぁ……ふ~ん……だったら嫌いになれないように閉じ込めないとね」


 ヤンデレあるある。勝手に結論を出す。嫌いになっちゃおうかなぁとしか言ってないんだがなぁ……思い込みが激しいのもヤンデレの特徴だから仕方ない。一説によるとヤンデレは自己肯定感が低いらしい


「閉じ込めるのは勝手だが、その前にどっちがどっちの家に引っ越すかを決めようぜ。その話さえさせてくれればさっきの言葉は取り消す」

「ダメ。今取り消して。じゃないと私、朝陽君を……ね? ふふふ……」

「ちゃんと引っ越しの話するって約束できるならな。言っとくけどな、住居の問題は早めに解決しときたいんだ」

「私より住まいの方が大事なの?」


 比べるものおかしいだろ……


「住まいの方が大事なんじゃなくて、陽葵とどこで一緒にいるかが重要なんだよ」

「私は朝陽君と一緒ならどこだっていいよ?」

「じゃあ、俺が陽葵の家に引っ越してもいいのか?」

「朝陽君が望むなら」

「んじゃ、決定な。俺が陽葵の家に引っ越す」

「うん。ところで……朝陽君は私の事好き?」


 目に光を取り戻した陽葵が不安気な表情でこちらを見つめてきた。好きか嫌いか? 決まってるだろ


「愛してる」

「ほんと?」

「ああ。嫌いになろうかなって言ったのは早いとこ引っ越しの話をしたかったからだ。悪かったな」

「ううん……私の方こそゴメンね。大事な話をしようとしてたのに」

「もう決まったから怒ってねーよ。それより、俺が陽葵の家に行くでいいんだよな?」

「うん!」


 俺が陽葵の家に行く事で引っ越しの話は幕を閉じた。ここから俺達の行動は早かった。まず陽葵に家の広さを確認したら今ここにある家具一式持ってっても問題ないとの事。彼女が引越し業者に電話している間に俺は父親に連絡。引っ越す旨と彼女の事を軽く説明すると二つ返事で了承。なんでも母もヤンデレで付き合うキッカケが当時一人暮らししていた親父の家に押しかけられ、同棲したからだとか。血は争えないらしい。電話が終わるとちょうどいいタイミングで陽葵の方も終わったらしい。引っ越し業者が今日の昼頃見積もりに来るらしい。軽く片付けだけしとくか












今回も最後まで読んでいただきありがとうございました

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