押し入ってきたストーカーに同棲を前提に告白してみた
第四話です
「えーっと……遊津さんはどうして俺にストーカー行為なんてしたんです?」
「好きだからだけど?」
「俺の聞き方が悪かったです。どうして俺をターゲットにしたんですか?」
「魅力的だったから!」
ダメだ……話が通じない……こりゃ何回質問しても返ってくる答えは同じだな。しゃーない、話を切り替えるか
「はあ、そう言っていただけるのは嬉しいです。ところで、今後の事なんですけど……」
「何? 私を警察に突き出すの?」
今後の話をしただけなのにハイライトのない目をした遊津さんに睨まれた。まだ何も言ってませんよね? 警察に突き出すつもりならとっくの昔にそうしてるんですが……
「まだ何も言ってないんですけど……警察に突き出すならとっくの昔にそうしてますよ。そうじゃなくて、遊津さんはここに泊って行くんですか? それとも、今日のところは家に帰るんですか? って事を聞きたかったんです」
「え? 警察に突き出すんじゃないの?」
「え? 突き出しませんけど?」
目を丸くし、意外そうな顔でこちらを見る遊津さん。客観的に見れば俺と遊津さんはストーカー被害の被害者と加害者。彼女を警察に突き出したとしてもそれは正当な行為だ。俺が彼女を警察に突き出さないのには理由がある
「ど、どうして?」
「まだ俺が質問したい事が残ってるからですよ」
「質問したい事? 朝陽君にストーカーした理由? それとも、いつから朝陽君を好きだったか?」
「違いますよ。確かにいつから俺を好きだったかは知りたいですけど、そんなのはどうでもいいです。過去の話をしたところで時間の無駄ですから」
「じゃあ、何?」
「仮にの話なんで軽い気持ちで答えてもらって構わないんですけど、俺に遊津さんとは別に好きな人がいるって言ったらどうします?」
ストーカーした相手にこんな質問をするのは間違っているのは理解している。だが、こんな状況でも俺はヤンデレ彼女を諦めていない
「は? 相手の女殺すに決まってるでしょ」
思った通りの反応をありがとう。他の女の影をチラつかせると遊津さんは案の定、目のハイライトをオフにし、こちらに身を乗り出してきた。ストーカーするくらいだ。ヤンデレでも何ら不思議じゃないと思ってたが、こうも思い通りに行くと笑いを堪えるのが一苦労だ
「か、仮の話なんですけど……」
「仮の話でもだよ。朝陽君が私以外の女を見るだなんて許せない……その女を殺して私以外見えなくしてあげる……そうだ! 朝陽君を監禁しよう! そうしたら私以外見えなくなるでしょ? バイトにも学校にも行かなくていいよ。私が養ってあげるから。ね? 両方辞めよ? そうしよ? 私とずっと一緒にいよ? ね?」
こちらへ顔を近づけてくる遊津さんの目にハイライトはない。思った通り彼女はヤンデレだったようだ。やった……欲しいものが手に入った……だが、ここで取り乱しちゃダメだ。夜中に騒いだら近所迷惑だしな
「バイトは保留にするとして、学校は辞めませんよ。学費を出してくれてるのは親ですから」
「学校と私どっちが大事なの!? どうして私と一緒にいてくれないの!!」
「お、落ち着いてください! 怒鳴るのは俺の話を最後まで聞いてからにしてください」
「何!? 朝陽君に近寄るなって言うならお断りだよ! 警察に通報するのも許さない!!」
遊津さんが鬼の形相で怒鳴り声をあげる。学校を辞めないと言っただけでこの様。やっべぇ!! この女可愛すぎんだろ! マジ今すぐ抱きしめてぇ……抱きしめてキスしていいかな? いいよね? ねぇ?
「近寄るなだなんて言いませんし、警察にも通報しません。ただ、俺の彼女になってほしいだけです」
「か、彼女……?」
先程まで鬼の形相だった遊津さんの表情が今度は呆気に取られたものへと変わる。相変わらず顔は近いままだ。マジでキスしていいかな? 誤解のないように言っとくけどな、俺はキス魔じゃないし、女だったら誰にでもキスするわけじゃないぞ? 単にこの女が愛しくて堪らねぇってだけで
「そうです。それも単に付き合うだけじゃなくて俺と同棲してくれませんか?」
「そ、それって……」
「遊津陽葵さん、貴女が好きです。俺と付き合ってください」
「は、はい!」
「じゃ、じゃあ、キス……してもいいですか?」
「もちろん! あっ、でも、キスする前に一つだけいいかな?」
「何ですか?」
「ウワキシタラユルサナイカラ……」
「しませんよ。こんなに可愛い彼女がいるんですから」
「本当?」
「本当ですって。第一、俺はモテませんから」
「嘘だ!」
「本当ですよ。というか、俺の事ストーキングしてたなら知ってるでしょ? 女っ気がない事くらい」
「そ、それは……知ってる……けど……」
「だったら信じてください。俺はモテないし、遊津さんにしか興味ありません」
「で、でも……」
「信じられないですか?」
「う、うん……」
ストーキングしてたなら信じてほしかったんだが……仕方ないか。ヤンデレは見た目がいい割に自分に自己肯定感が低く、依存心の強い人が多いって言うし
「なら、俺の持ち物に盗聴器でも仕掛けてください。そうしたら信じられるでしょ?」
トイレの音を聞かれるのは恥ずかしいが、ヤンデレからの信用を得るには止む無し。トイレの音以外聞かれて困る事は何一つない。特別仲がいい女子なんていないしな
「う、うん……後で盗聴器買っとく……」
「そうしてください。さて、夜も遅いですし寝ましょうか? 遊津さん」
「陽葵って呼んで……敬語も使わないで……」
「分かったよ。陽葵。もう寝ようぜ? 盗聴器の事もそうだが、どっちの家に住むかとか色々考えなきゃならない事もあるしな」
「うん……一緒に……だよね?」
「当たり前だろ。この部屋に寝具は一つしかない。普通なら俺が床で寝るところだが、この時期にンな事したら風邪引いちまう。二人で同じベッドに寝るしかあるまい。俺と抱き合って寝るの嫌か?」
「ううん……嬉しい。でも……私シャワー浴びてないから臭いよ?」
「臭くねぇよ。臭かったら入られた時に言ってる」
「な、ならいいけど……」
「んじゃ決定な」
こうして俺達は同じベッドで寝る事になった
陽葵突撃から一夜明けた翌日。俺は窓から差し込む朝日で目が覚めた。夜のテンションとは恐ろしい。ストーカー女に告白し、彼氏彼女の関係になるだけじゃ飽き足らず、一つのベッドで一緒に寝るだなんて我ながら正気とは思えない事をしたもんだ。だが────
「えへへぇ~、あさひくん……」
隣で幸せそうな彼女の寝顔を見ると夜のテンションに身を任せるのも悪くないと思える。ヤンデレ彼女を手に入れたんだ、昨日の選択を誇りに思う事はあっても後悔する事はないのだが……
「両親になんて説明すっかなぁ……」
陽葵をどう両親に紹介したものか非常に悩ましい。ありのままを説明すると絶対にややこしい事になるのは明白。同棲する以上、俺か陽葵どちらの部屋に住むにしても両親への説明は避けて通れない。さて、どうしたものか……
「適当に前から付き合っていた事にでもするか」
両親は俺の生活にあまり干渉してこない。悪い友達と付き合いがあったら止めてくるし、警察沙汰になるような事があれば助けてくれるが、それ以外は基本的に放任主義。陽葵がストーカーだったのは昨日までで今は俺の彼女。ストーカー行為の部分をうまく隠せば何とでもなる
「前からってどれくらい?」
不意に隣から声がし、そちらを向くと嬉しそうな顔をした陽葵がいた
「そうだな……二か月くらい前とかどうだ?」
「私は一年前くらいの方がいいなぁ……」
「一年前か……」
「うん。そっちの方が同棲してる話も約束してたからで通せるでしょ?」
陽葵の言うように一年前から付き合っていた事にすれば同棲の話が出た時何かと都合がいい。同棲の話はそれで通るかもしれないが、今度は別の問題が出てくる。そう、俺達がどうやって知り合ったかだ
「確かに一年前って言った方が同棲の話をする時は都合がいいかもしれねぇけどよ、俺達の出会いとかはどうするんだよ?」
「そこは私が朝陽君のバイト先の常連客だった事にしておけば問題ないでしょ」
「た、確かに……」
「付き合う事になった経緯については追々考えようよ」
「それでいいのか?」
「いいんだよ! 私達が付き合う事になった状況は誰がどう見たって普通じゃないんだしさ」
アンタがそれ言いますか……いきなり家に押し入ってきたストーカーのクセに……
「普通じゃない状況作り出したのお前だけどな」
「好きで好きで堪らなかったんだから仕方ないじゃん! それより! 頭撫でて!」
「はいはい」
俺は陽葵の頭を撫でながら彼女と付き合うに至った経緯をどうにかでっち上げようとしたのだが、何も思い浮かばなかった。もうどうにでもなれだ。明日は明日の風が吹くってな
「えへへぇ~」
この笑顔を見ていると色々考えてる自分がバカみたいに思えてくる。コイツがどうやって俺を知ったか、どうしてストーカー行為なんてしたか全く気にならないと言えば嘘になる。しかし、念願のヤンデレ彼女を手に入れた今となってはどうでもいい話だ。行き過ぎた行為は褒められたものじゃないけどな
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました