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ヤンデレ彼女に外出を提案してみた

外出したい……と思う朝陽君です

 学校全焼の知らせから早いもので一週間。通常通りなら徐々に授業が本格化しているところなのだが、学校が全焼してしまったんだ、こればかりは仕方あるまい。さて、ヤンデレには王道と呼ばれる行動がいくつかある。ありえない数のメール、ストーカー行為、不法侵入、好きな異性の周りにいる異性の排除、拉致・監禁、束縛。俺が思い付く中ではこれくらいだ。どれもちょっとした恐怖でしかなく、目を付けられた人間は十中八九ビビッて逃げ出す。しかし、ヤンデレも扱いさえ分かればどうという事はなく、むしろこの上なく可愛く思える。と、いうわけで────


「なぁ、いつも家にいたんじゃ飽きるからたまにはどっか遊びに行かないか?」


 俺は彼女である陽葵をデートに誘っているわけだが……


「は? 外へ出たら朝陽君が他の(むし)共に狙われるから絶対にいや」


 あっさりと断られてしまった。自慢じゃないが、俺はモテる方ではない。モテていたら彼女の一人いたはずだ。いなかったという事は……そういう事だ。言わせないでくれ。悲しくなる……


「俺は生まれてこの方モテた事なんてないんだが……」


 俺には恋愛経験など皆無。異性の友達がいなかったわけじゃないが、モテた事はない。ラーメン屋のバイトもそうだが、何をさせても平凡。いや、下から数えた方が早いくらいだ。顔だって……いや、顔の話は止めておこう。「※ただしイケメンに限る」ってワードに何度涙を流した事か……


「は?」


 陽葵さん? 視線と声が冷たいですよ? 


「は? って何だよ……俺は今までモテた事ないんだが……」

「朝陽君、それ本気で言ってる?」

「当たり前だ。俺は今の今までモテた事なんて一度もない。実際彼女なんていなかったんだが……」

「…………」

「…………」


 リビング内を沈黙が支配する。小鳥遊朝陽という人間を一番よく理解しているのは誰か? 小鳥遊朝陽本人である俺だ。陽葵と出会うまで俺には浮いた話の一つもなかった。まぁ、特別好きな異性もいなかったからなくてもよかったけどな。それよりもどうして黙る? 俺はモテた事なんてないし、周囲の同級生から「実はあの子はお前の事を~」って話すら聞いた事ないぞ?


「何か喋ってくれませんかねぇ……」

「…………朝陽君モテるもん」


 二十代の女が“もん”とか言うなよ……まだ二十代前半だからギリギリ可愛いけどよ……


「あのなぁ……」


 ヤンデレあるあるの一つ。過度な妄想。異性と他愛ない話や事務的な話をしていただけなのにLOVE的な行為がある事前提で話すのはどうかと思うんだが、ヤンデレは恋人であれ、友達であれ自分の気に入った相手は絶対に側に置きたがる。メンヘラの場合は相手に自分だけ見てほしいクセに寂しくなったら別の人を求めるらしい。陽葵がメンヘラじゃないだけマシだ


「朝陽君が高校一年生の時。あの時君は困っている女子生徒を助けました」

「いきなり何だよ?」

「黙って聞く!」

「は、はい……」


 陽葵の圧に俺は押し黙る。高校一年の時の話を持ち出されても困る。バイト含めて何人の人間と関わってきたと思ってるんだ……女子生徒って限定してるが、それだって一年の間でどれだけの女子生徒と関わってきたと思っているのやら……友達の彼女、学校関係の事務的な話と数えだしたらキリがない


「話を続けます。高校一年の君は困っている女子生徒を助けました。その時、助けた女子の顔を見ましたか?」


 見ましたか? と聞かれてもなぁ……恋愛的な行為を持たれてるかどうかは別として一瞬だけ関わった女子の顔を見てるわけねぇだろ……いや、顔は見てたと思うんだが、その表情をいちいち観察してるわけがない。答えは────


「見てないな。いちいち人の顔を見てるわけないだろ」


 接客業をしていると特にそうだ。常連の顔は何もしてなくても覚えるが、一度だけしか来なかった客の顔を思えているかと言われれば答えは否。相手の顔が強烈だったとかがない限りは覚えない。常連も顔を覚えるというより飲食だったらメニューを覚える。つまるところ俺は高校一年の時に助けたと言われている女子生徒の顔なんか覚えてない。いつ、どこでを言われなきゃ分からん


「そうだよねぇ~、朝陽君がいちいち人の顔を覚えてるわけないよね~」

「何だよ? トゲのある言い方だな」

「べっつにぃ~? ただ、朝陽君が女をタラシ込んでるって自覚ないんだ~って思っただけ。自覚ないなら監禁しないとなぁ~」


 優しくされただけで俺に恋愛感情を持つ単純な女なんているわけがないだろうに……マンガじゃあるまいし


「女をタラシ込んでると言われても困るんだが……とりあえずその女子生徒を助けたのがいつ、どこでなのか教えてくれ。じゃないと弁明できん」

「高校一年の夏休み前最後の日、廊下……」

「一年の夏休み前最後の日の廊下か……」


 俺は顎に手をやり、去年の記憶を漁る。一年の夏休み前最後の日の廊下……ダメだ、全く思い出せん。そういや、中性的な顔の男子が財布落としたとかで一緒に探したっけ……いや、それじゃねぇよな?


「心当たりは?」

「ない。中性的な顔の男子と一緒に財布探した記憶はあるけどよ……もしかしてその事言ってるんじゃねぇよな?」

「そうだけど?」


 何言ってんだ? コイツみたいな顔で俺を見る陽葵。俺の方が何言ってんだ? って言いたいのだが……俺が一緒に財布を探したのは中性的な顔立ちだったが、男子だ。男子の制服着てたしな。声が若干高かったような気がするが、制服が男子のそれだったから間違いないだろ


「あれは男子だよ。中性的な顔はしてたが、男子の制服着てたしよ」

「はぁ……」

「何だよ?」


 眉間に手をやり溜息を吐く陽葵を俺はムッとした表情で見る。声は確かに男子にしては高かった。だが、声の高い男性は探せばいくらでもいる。当然、中性的な顔立ちの人も。溜息を吐かれる覚えはないんだが……


「君が一緒にお財布を探していたのは男子の制服を着ていましたが、女性です」

「そ、そうだったのか……知らなかった……」


 一緒に財布を探した相手がまさかの女子。言われてみればそんな気もしなくはないが……女だったとは思わなかった。スカートが嫌だって女子もいるから別にあの子が女子だったとしても別にいいんだが、俺が驚いてるのは陽葵が俺の高校生活を知っている事だ。コイツはどこから情報を得てるんだ? ヤンデレの情報網凄すぎるだろ……


「そうだったんだよ。それでね? 朝陽君が一緒にお財布を探したあの子なんだけどさ、別れ際に恋する乙女の顔で君の事を見つめてたんだけど……どういう事か説明してくれるよね?」


 陽葵はハイライトの消えた目で俺をジッと睨む。説明しろと言われても俺に何を説明しろって言うんだ? ソイツの事をロクに知らないのに説明もクソもない。性別だって今初めて知ったってのに……こうして冤罪って生まれるんだな


「説明しろも何も俺はただ困ってる人を助けただけでそれ以上でもそれ以下でもない。恋する乙女の顔をしていたと言われても俺に昔好きだった奴を重ねてただけって可能性だってあるだろ。自分はコイツに恋心を持たれていると思うのは自意識過剰ってやつだ。だから説明しろと言われても困る」

「ふ~ん。あくまでも君はモテないって言い張るんだ?」

「当たり前だ。モテてたらとっくの昔に彼女の一人や二人出来てるし、恋愛経験だってある。陽葵が初カノの時点でモテなかった証拠だろ。つか、デートに行くのか? 行かないのか?」


 いつまでもモテるモテないの話をしていると遠い昔の話まで持ち出されそうだと思った俺は話を切り替える。世の中切り替える事は大事だ。それにばかり固執していると前に進まない。喧嘩の時に昔の話を持ち出したい気持ちは非常によく解かる。だが、昔の話を持ち出したらキリがない。話題をすり替えようとした俺は悪くない


「デートには行きたいよ? ただ……」

「ただ何だよ?」

「出掛けるなら手錠させて」


 手錠か……そんなのされなくても逃げ出したり他の女に現を抜かすなんてしないんだが……ヤンデレは自己肯定感が低い。自分の容姿がどれだけ良かろうと「自分なんてどうせ……」がデフォだったりする。オマケに向けられた愛情を拒否したらどんな行動に出るか……


「手錠するのは構わないけどよ、俺は逃げ出すつもりも他の女に現を抜かすつもりも全くないぞ?」

「それでもだよ。朝陽君に手錠してないと私……不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で不安で狂いそうになる。アサヒクンガイナクナルッテカンガエタダケデ……」


 そう言う陽葵は今にも襲い掛かって来そうな雰囲気。ヤンデレってスゲー……よくもまぁ、同じ単語を息継ぎなしで言えたものだ。こういうところが俺は他の人間と比べてズレてるんだろうなぁ……普通なら怖いって思うところなんだろうけど、全く怖くなく、むしろ狂っている陽葵が愛おしくすら感じる


「したきゃ勝手にしろ。俺は出掛けられるだけで満足だ」


 俺は元々自分の居場所なんてものに特別興味がない人間だ。監禁されようとどうだっていい。手錠に関しても最低限の身動きさえ取れればそれでよし。さすがに両手を繋がれてスマホすら取り出せないとかは勘弁だけどな


「ウン、カッテニスル。アサヒクンヲホカノオンナニナンテワタサナイ……キミハワタシノモノ……」


 恍惚のポーズで俺を見る陽葵は傍から見りゃヤバい奴なんだが……ヤンデレストーカーを受け入れた俺も俺で十分ヤバい奴だから何も言うまい


「俺は一生陽葵の側にいるんだがなぁ……」

「約束だよ?」

「ああ、約束だ。だから早く出掛けようぜ?」

「うん! でもその前に……ね?」

「あー……手錠掛けるのは構わねぇけど、両手は勘弁な? さすがに片手は自由にしてもらわねぇと財布を出す時とか困る」


 本当はスマホをって言いたかったが、それを言うといつまで経っても出掛けられないような気しかしなかったから止めた。ヤンデレの前で外部と連絡を取る事が可能なものを自由に扱いたいと言うのはNG。ヤンデレと上手に付き合うには相手の要求を呑みつつ、自分の要求も伝える事だって親父が言ってた






今回も最後まで読んで頂きありがとうございました

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