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彼女の好きなところを言ってみた

好きなところをいきなり言えってのは難しいと思う

 学校全焼の知らせを受けた翌日。いつもなら陽葵の仕事してる姿か天井をぼんやりと眺めているだけだが、今日は違う


『朝陽もとうとう彼女持ちになったかぁ~』

『おめでとう』


 実機のノートパソコンで友人二人と通話していた


「なんて言えばいいんだよ……つか、何で俺の彼女の話になってんだよ……」

『何でってそりゃ俺らの中で彼女いなかったの朝陽だけだからだろ』

『僕達はこれでも朝陽君の事心配してたんだよ?』


 言葉とは裏腹にパソコン画面の向こうに映るのはニヤケ面の陰キャを絵に描いたような髪型の男二人。片方は髪の毛の間から鋭い目を覗かせ、もう片方は髪の毛で目元が完全に隠れて目が見えないが、心配してたって人間の顔じゃないのは解かる


「俺のどこをどう見たら心配になるってんだか……つか、顔が完全にニヤケてる辺り心配してないよな?」


 この二人とは小学校時代からの付き合いだ。嫌でも思考は読める。コイツ等は俺を心配なんてしていない。むしろいいカモを見つけたと思っているまである


『んいや、心配してた。朝陽、お前は彼女にするならヤンデレ女じゃなきゃ嫌だって言ってた危ない奴だぞ? 心配しないわけがないだろ?』

『その通り! 理想ばかり追いかけてるキミを心配しないわけじゃいじゃないか!』

「あのなぁ……」


 この二人の気持ちは嬉しい。だが、人を危ない奴にするのは失礼だろ。ヤンデレ女なんて探せばいるし、俺の彼女はヤンデレストーカーだった女だ。ボクっ娘とか、ケモ耳少女とかは無理でもヤンデレ女くらい探せばいる。というか、この二人の紹介がまだだったな。鋭い目の方は宇佐美輝樹(うさみてるき)で目元が隠れてる方が猫羽二華(ねこはにか)。二人共小学校時代からの腐れ縁だ


『あのも何も朝陽が危ない奴だってのは事実だろ』

『禿同。付き合いが長い僕達じゃなきゃ完全に病院に放り込んでたよ』

「そこまで言うか……」


 辛辣過ぎるだろ……


『言うな』

『言うよ』

「お前ら……」


 俺は深い溜息を吐く。祝福してくれるのか改めて危ない奴認定されてるのか分からん。強いて言うなら俺に彼女ができてホッとしているってところか。祝福ならともかく、危ない奴認定されてるとしたら失礼な話だ


『事実だろ』

『本当の事なんだから仕方ないよ』

「はぁ……」


 そもそもどうして彼女の話になったのかというとだ、単に俺のいる場所が前に住んでた場所じゃないからに他ならない。最初にそれを指摘したのは輝樹だった。そこから自分の現状────陽葵の部屋で同棲してる事を話し……その後はズルズルと恋バナ突入って流れだ


『溜息吐くと幸せが……ごめん、今幸せの絶頂だったな』

『だね。本当は溜息吐くと幸せ逃げるよって言いたいけど、現在進行形で幸せだから溜息の一つ吐いてもいいと思う』

「誰のせいで溜息吐いてると思ってるんだ……」

『『誰のせい?』』

「あのなぁ……」


 自分達が溜息の原因だとは微塵も思ってないだろう二人に俺は呆れて何も言えなかった。その後、俺達は他愛のない話をし、陽葵が身体を伸ばしたところでちょうどいい頃合い。輝樹と二華の方も彼女から声がかかり、お開きとなった






「お友達とのお話楽しかった?」


 通話が終わり、適当にネットサーフィンしていると陽葵が隣に腰かけ、持っていたマグカップの片方をパソコンの隣に置いた。友達というのは当たりだが、話が楽しかったかという問いの答えは微妙なところだ。楽しくもなく、特に疲れたというわけでもない。強いて言うなら可もなく不可もなくといったところだ


「可もなく不可もなくだな」

「お友達じゃないの?」

「友達っていうか、ガキの頃からの腐れ縁だな。友達っていうか、幼馴染? アイツらとの関係はよく分らん」


 今はこうして陽葵の家に、その前は一人暮らしをしていたが、実家の事を言うと輝樹と二華の家とは家族ぐるみの付き合いだったりする。だから幼馴染という表現が一番正しいし、実際そうだ。ただ、俺達が誰も自分達は幼馴染だと言わないだけで


「変なの」

「変で結構。世間一般じゃ俺達は幼馴染の部類に入るんだろうが、当事者達は誰一人として幼馴染だって言わないんだ、表現のしようがない」

「そういうものなの?」

「そういうものだ」


 傍目から見れば単純な関係。しかし、当人達が絶対にそうだとは認めようとしない。俺達の関係は第三者から見たら非常に面倒なものだと思う。特別困ってる事がないから別にいいんだけど


「不思議な関係だね」

「ああ、不思議な関係だ。それこそ俺が陽葵と付き合ってるみたいにな」


 普通ならどんなに美人だとしても見ず知らずの異性を家に上げたりしない。相手が家主のいない間に家の中を物色するストーカーだったら尚更。その上、告白した挙句、同棲するだなんてどう考えても正気の沙汰じゃないのは十分理解している。俺と陽葵は今でこそ彼氏彼女だが、その前はストーカーの被害者と加害者。俺達が彼氏彼女になり、同棲に至るまでの経緯を正直に話したら百人中百人が目を点にし、頭に疑問符を浮かべること間違いだろう。だからこそ俺と彼女の関係は不思議なものだ。彼氏彼女ではあるけどな


「ふーん……私と付き合うの嫌なんだ」

「そんな事は言ってない。ストーカーだった陽葵と被害者だった俺が付き合うだなんて普通じゃあり得ないだろっていう意味だ。陽葵の事は好きだから安心しろ」

「私の事好きならどこが好きか言ってみてよ」


 出たよ……恋人から聞かれて一番困る質問。まぁ、俺は彼女が納得するだろう答えをちゃんと用意してあるから何も問題はないんだけどよ


「美人で家庭的で包容力のあるところ」

「ほ、他には?」

「他にはそうだな……一緒にいて安心できるところかな」


 ヤンデレというのは見た目関係なしに自己肯定感が低い。過去に恋愛あるいは人間関係で酷い目に遭ったというのが自己肯定感が低い原因の一端を担っているのだと思う。だからこそヤンデレの扱いは難しい。ヤンデレを相手にする時は世界中の全てを敵に回したとしても自分だけは味方であり続けようっていうくらいの強い意志が必要だ


「なら……朝陽君は私から離れて行かないよね?」

「当たり前だ。例外はあるが、俺は寂しい思いしてる女の子を放置する趣味はないんだよ」


 年上の女性を女の子扱いするのはどうかとは思う。だが、女性はいくつになっても女の子扱いされたら嬉しがると聞く。女の子と表現しておいて損をする事はない


「例外? 女の子を差別するの?」

「差別はしねぇよ。ただ、人を財布か何かと勘違いしてるような奴は例え女であっても放置するってだけだ。後はそうだな……外道とか?」


 さすがにヤンデレを受け入れられる心を持ってしても人を人とすら思わないような人間を受け入れるのは不可能だ。俺はそこまで広い心は持ってない。もし陽葵がそういう人間だったら容赦なく切り捨てる


「私は朝陽君が言ったような人じゃないから大丈夫。元々朝陽君にしか興味ないし」


 それはそれでどうかと思う


「リアクションに困るんだが……とりあえずありがとう」

「どういたしまして」


 昔じっちゃんが反応に困ったらとりあえず礼言っといたら何とかなると言ってたが、本当にその通りになるとは思わなかった。礼って大事だな


「さて、そろそろ昼時だな」

「そうだね」


 パソコンの右下にある時計を確認すると十二時と表示されていた。通りで腹が減るわけだ


「昼飯どうする?」


 基本的にこの家に来てから全ての家事は俺と陽葵の二人でこなしてきた。炊事・洗濯・掃除全て共同作業。最初は住まわせてもらっている立場だから俺が名乗りを上げたのだが、陽葵が「こういうのは奥さんの役目だよ!」とわけの分からんやる気を発揮し……結果として二人で一緒にやるって事で落ち着いた。決めるに至った経緯はスマン、恥ずかしいから言わせないでくれ。ガキの喧嘩みたいな低レベルな言い争いをした事は話したくないんだ


「ん~、冷蔵庫と相談かな~」

「だよな……」


 当番制だったらアレが食いたいとか、コレが食いたいとリクエストを出すのだが、二人でやるからリクエストは出てこない。という事で俺達はキッチンへ向かった




「あり過ぎて決められないね」

「そうだな」


 冷蔵庫を開けると所狭しと食材が並んでいた。こうなっているのは知ってた。何しろ昨日学校から連絡があった後、買い出しに行ったんだから


「はぁ……寝るか」

「だね……」


 昼飯のメニューを決めるのが面倒になった俺達はキッチンを後にし、寝室へ向かった




今回も最後まで読んで頂きありがとうございました

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