ヤンデレ彼女を求めてみた
どうも、謎サト氏です。この作品はノベリズム様で連載していたのですが、この度、こちらでも連載する事に致しました
俺の名前は小鳥遊朝陽。年齢十六歳。普通の高校に通うごく平凡な男子高校生だ。高校入学と同時に両親から一人暮らしを命じられ、今はしがないアパートの一室で自由気ままな生活を満喫している
「自由な生活はいいんだが、自由過ぎるのも問題だよな……」
陽気な四月の穏やかな朝。俺はふと自分の生活を振り返る。一人暮らしというのは自由だ。深夜に帰宅したところで咎める人間なんていないし、服をその辺に脱ぎ散らかしてても怒られない。自由な暮らしは最高なのだが、時々家に帰った時ただいまと言ってくれる人がいない事に寂しさを感じる
「一緒に住む人がいれば少しは違うのかな……」
自由気ままな生活というのは楽だ。しかし、炊事や洗濯といった家事全般をやるのは俺。一人暮らし生活というのはこういった部分で面倒だったりする。口うるさい人間がいない代償だから仕方ないけどな。でだ、たまに朝の挨拶を返してくれる人間が欲しいと思うのだが……いないものは仕方ない
「どっかに都合よくヤンデレストーカーでも落ちてねぇかなぁ……落ちてるわけねぇか」
バカな考えを払拭し、ベッドから起き上がり、キッチンへ向かう。遅ればせながら俺の事を少しだけ話そう。名前と年齢、身分はさっき言ったから省くとして、俺の好きなタイプの女はヤンデレ。理由は単純。普通の女よりも面白そうだからだ。別に自分だけを見てほしいとか、尽くしてほしいという願望はない。純粋に面白そうだからだ。以上
「世の中都合よくいかねぇよな……」
ヤンデレストーカーに限らず自分の欲しい物が都合よく手に入るだなんて都合のいい展開はない。現実は非常なのだ
「はぁ……ヤンデレな彼女が欲しい……監禁されてぇ……」
ヤンデレに監禁されたらどれだけ幸せな事か……最低限パソコンとスマホとタブレッド端末、手足の自由は……監禁した人の一存に委ねるとして、この三つさえ側に置いておくか持つことを許可してくれればそれでいい。逃げないから。
「ヤンデレな女なんているわけねぇし、監禁なんてあるわけねぇよなぁ……」
来世じゃヤンデレ女が登場する物語の世界に転生したい。俺はアホな妄想を膨らませながら冷蔵庫を開け、オレンジジュースを取り出すと一気に煽った
「朝飯……何にすっかなぁ……」
冷蔵庫にあるのはオレンジジュースとコーラのみ。野菜、肉、魚は使いたい時に必要な分だけ買ってるからないのは当たり前。調味料の類も同じだ。固形物で家にあるものと言えばカップ麺のみなのだが……
「朝からカップ麺はちょっとなぁ……」
朝ラーメンする地域もあるから一概にラーメンが悪いとは言えないが……
「三食ラーメンってのはさすがに飽きる……」
俺のバイト先はラーメン屋。朝飯と昼飯にカップ麺、晩飯に賄いのラーメンと中身は違えど三食ラーメンはさすがに飽きる。変化がほしいところなのだが……
「外食は金がかかるんだよなぁ……」
洗い物をしないでいい分、外食は金がかかる。例えば、某全国展開してる牛丼屋で朝食セットを頼んだとしよう。一回一回は大した事なくとも回数重ねると結構な額になる。カップ麺生活だって決して財布に優しいわけじゃねぇけど
「はぁ……二度寝すっか」
朝飯にカップ麺は躊躇われたので俺は大人しくベッドへ向かった。起きていても腹が減るだけだ。なら大人しく二度寝した方がまだ有意義だ
二度寝から目が覚め、枕元にあるスマホを手に取り時間を確認すると十五時と表示されていた
「バイトまで後二時間か……」
俺のバイト先は十一時から開店し、一旦一時で店を閉める。で、また五時から店を開け、翌日の午前一時まで。平日と土曜はこのシステムだが、日曜は十一時頃に店を開け、そのままぶっ通しで営業。違うのは午前一時閉めじゃなく、午後十一時閉めってところくらいだ。まぁ、俺は高校生だから平日の昼間にバイトはなく、あったとしても土曜のランチ。今日はバイトの日で後二時間もすれば店を開けなきゃらんから遅くとも十六時半ころには家を出なきゃならない
「はぁ……ヤンデレ彼女が欲しい……」
朝と同じく起き上がった俺はこれまた朝と同じ事を呟いた。いつも寝起きにヤンデレ彼女が欲しいと願ってるわけじゃない。今日はたまたま欲しいなと思っただけで
「マジでヤンデレ落ちてねぇかなぁ……」
都合よくヤンデレの女が現れるだなんて思っちゃいないが、夢くらい見たっていいと思う。理想と現実が違うだなんてのは十分理解している。今のは俺の妄言だ。忘れてくれ
「彼女じゃなくていいからヤンデレは……コミュニティで探すか」
コミュニティサイトには色んな奴がいる。重度のオタクから闇を抱えた奴まで様々だ。当然、ヤンデレも。身近にヤンデレがいないのならネットで探す他ないのだが……
「リスク高いんだよなぁ……」
万が一を考えるとリスクが高すぎる
「諦めるか」
俺は理不尽な現実に毒づきながらベッドから出て浴室へ向かった
シャワーを浴び終え、スマホを確認すると十五時半。バイト先に行くまで一時間以上ある
「時間を持て余したでおじゃる……」
シャワーでも風呂でも俺は長湯する方じゃない。早い時だと五分程度で済ませてしまうから時間を持て余すのは当たり前なのだが、時間を持て余すとどうしていいか分からなくなる。ゲームをしてもいいのだが、やると時間を忘れそうだ
「適当に過ごすか……」
この部屋にある娯楽はパソコンやスマホ、タブレッド端末のみ。ラノベは冊数が少ないし、全て読みつくしたから頭数には入らない。最近の俺はプロが書いた書籍より素人が書いたWEB小説の方が好きだからな! ヤンデレ彼女がいると時間を持て余す事がないから非常に助かる。ない物を求めても仕方ないけんだけどな
結局俺は暇な時間を特に何かするでもなく過ごし、ふと時間を確認すると十六時半を表示。店の開店は五時からだが、仕込みがある。そろそろ出ないと間に合わない
「今日もだるっと頑張りますか」
俺は起き上がるとバイト着が入ったカバンを持って家を出た
家を出て歩く事十分。駅前にやって来ていた。遊びに行くわけではない。俺のバイト先であるラーメン屋が駅の先をちょっと行ったところにあるのだ
「どうして世間はこうも活発なのかねぇ……」
今日は平日なのだが、駅前は多くの人で賑わっている。世間はどうして活発なのか理解に苦しむ
「俺にも元気を分けてほしいものだ」
ホームシックの時期はとっくの昔に過ぎたはずなんだがなぁ……春眠暁を覚えずなのか?
「ただでさえナーバス気味なのにあの人と会うのは嫌なんだよなぁ……」
あの人とは言うまでもなく店長────マスターだ。あの人は……今は説明したくねぇ
憂鬱な気分で駅前を通過し、パチンコ屋を通り過ぎ、見えてきた茶色の建物。その建物こそ俺のバイト先である『らぁめん宝石』。何が宝石なのか全く分からんが、雇ってもらっているから突っ込むまい
「おはよーございます……」
嫌だ嫌だと思いながら半分開かれたシャッターを潜り、引き戸を開ける。すると……
「朝陽、遅刻だ」
現れたのは強面のオッサン
「いきなりですか、マスター」
「いきなりだ」
この強面のオッサンは村田さん。みんなからはマスターと呼ばれている。パッと見の外見はヤクザなのだが、実はかなりひょうきんで極度の女好き。キャバクラに通い詰めてると専らの噂だ
「勘弁してくださいよ……」
「無理だな! 俺はバイトを弄るのが生きがいなんだ!」
ドヤ顔でそう語るマスター。俺だけじゃなく、この店で働いてるバイトは全員この人に弄られている。主な持ちネタはドッキリ企画系。遅刻してないのに遅刻だと言うのは日常茶飯事
「生きがいにしないでくださいよ……」
「だったら可愛い女の子を紹介しろ!」
「何でそうなるんすか……」
「俺が女の子好きだから!」
「キャバクラ通い詰めてるんだったら可愛い女の子なんていくらでも知ってるでしょうに……」
「キャバ嬢はダメだろ。全員営業で客をチヤホヤしてるんだから」
「知りませんよ……」
「知っとけ!」
「…………着替えてきます」
恒例のやり取りを終え、俺は店の奥にあるスタッフルームへ向かった。あのオッサンは未成年に何を言っているのやらと呆れつつ、少しだけホッとしている。ここに来ると一抹の不安も吹き飛ぶというもの。彼のひょうきんさには救われてる部分があるから邪険にはできない
「ヤンデレは追々考えるか」
着替えを終え、厨房に入る。ホールの掃除は後から来たバイトがするのがこの店の決まり。カウンター席しかないから掃除なんて楽なものだ。先に来た俺が最初にやる事は保温専用の炊飯器にあるご飯の残量を確認する事と洗い物の確認。ご飯はランチの時間終わりに入っていた人達がガス炊飯器にセットして行ってくれる。時々セットして行かない事もあるけどな。ちなみに上にあるのが保温専用で下にあるのがガス炊飯器だ。まずは保温専用の方から確認するか
「少なっ……」
保温専用の方を開けると思った以上にご飯が少なかった。ランチの時間忙しかったのか? さて、ガス炊飯器の方はどうかな?
「マジかよ……」
ガス炊飯器の方を確認すると米はなく、蒸し布が畳んで入れられているだけだった
「勘弁してくれよ……」
ランチの時間に入った人達へ心の中で毒づきながら厨房の奥へ米を取りに行った。マジヤンデレ彼女欲しい……
今回は最後まで読んでいただきありがとうございました