終章 永遠の物語に終わりを告げる~エピローグ
いつか、ここでの出来事も、忘れちゃうのかな。
この作品は「不思議の国のアリス」と「白雪姫」のオマージュ作品です。
「不思議の国のアリス」と「白雪姫」のキャラクター名を使わせていただいてますが、キャラクターの性格は原作と異なる場合があります。
終章 永遠の物語に終わりを告げる
「白雪姫、短い間だったけどありがとう」
「こちらこそありがとう、アリス」
アリスは白雪姫と向かい合って気づく。白雪姫の方がアリスより少しだけ背が高かった。
「また会えたらいいね」
「会えないわよ、もう二度と」
白雪姫の言葉にアリスは驚く。
「どうして?」
「だって私は、私たち『白雪姫』の世界の登場人物は現実へ戻らないもの」
白雪姫は平然と言った。
「なぜ?」
「だって今が幸せだもの。例え、この空間が実験のためだけに作られたものだとしても」
白雪姫の言葉にアリスは複雑な気持ちになる。
「…この空間は、この世界はまるで夢のようね。私はこれからもずっと幸せな夢を見る」
その白雪姫の言葉は、いつか誰かが言っていた言葉に似ていた。
アリスはその“誰か”を必死に思い出そうとするが、どれだけ考えても思い出すことはできなかった。
「おーい、アリスー!」
向こうからは白兎やメアリーアンたちが歩いて来る。その後ろには他の登場人物たち…三日月兎やトランプ兵、ハンプティーダンプティーなどもいる。
だが、全員今までの派手な衣装は着ていない。最初にこの世界に来たときに着ていた地味な服ばかりだった。
皆のその服装は、全ての終わりを物語っていた。
「アリス、皆が来たわ。そろそろ帰る時間よ」
白雪姫の言葉で、アリスはついにこの世界との別れだということを意識する。
「皆さんには帰り道の地図と、電車の切符をお渡しします」
そう言って魔女は全員にそれぞれ違うものを配った。
「現実へ帰ると時間と共に、少しずつ消された記憶は蘇るでしょう。出口はあちらです」
魔女が指差した方向には、真っ白な大きな扉と、それに続く長い階段があった。
「ではお行き下さい。実験はこれで終了です。実験へのご協力、ありがとうございました」
そう言って魔女は深く頭を下げた。
そして、白雪姫は言った。
「さようなら、真理亜──」
その瞬間、アリスは思い出す。
(真理亜って、私の本当の名前…)
「なぜ、私の名前を知っているの?」
アリスはそう問うが、白雪姫は黙って微笑むばかりで何も教えてはくれなかった。
そしてハートの女王、白兎に続いて登場人物たちは階段を登っていく。
「行こう、アリス」
ルイスの言葉にアリスは頷き、白雪姫に背を向けて歩き出す。
階段は光を反射していっそう白く輝く。
ついに一番上の段まで来たアリスはもう一度振り返る。今まで過ごしてきた野原や森がずいぶんと小さく見えた。
(こんなにちっぽけな世界だったんだな)
今まではずっとここがルイス·キャロルによってプログラミングされた仮想世界だと信じてきた。でも…。
本物はこの世界は現実世界に存在していて、これまでの生活は実験だった。そしてアリスたちは記憶を書き換えられただけの、ただの人間だった。
アリスは物語通りの生活をひたすら繰り返していたあの日々を思い出す。
物語に飽きたと言って不満を持っていたが、それでも楽しかった。皆がいたから。でもその皆とも、もうお別れだ。
最後に、白雪姫と目が合う。白雪姫はまだ微笑んだままだった。
アリスは大きな扉と向かい合う。
「──この物語に終わりを告げる」
アリスはそう呟き、重たい扉を開ける。
開いた扉のすき間から、真っ赤な夕日が差し込む。あまりの眩しさに視界がにじむ。
絵の具で描いたみたいな夕焼け空が、静かに涙に溶けていく。
そしてアリスたちは外へと、元の世界へと踏み出した。
夕日はアリスたちを赤く染め、別れを彩る。
扉はギー、と音をたてて、少しずつ閉じていく。
もうほんの僅かとなったすき間から、一瞬、白雪姫の姿が見えた。
そしてアリスはようやく思い出す。
そうだ、あの人は─。
「─お姉ちゃん」
だが、そう呟いた時にはもう既に扉は閉まっていた。
閉ざされた扉を見てアリスは悟る。
もう戻ることはできない。
あとは進むだけ。
アリスたちが立っている場所は小さな山だった。
木々の間からはコンクリートの街が見える。ビルだらけで車が行き通った灰色の街。
ここが現実─。
今までいた所とは違いすぎる光景にアリスは震える。
「帰ろっか」
アリスは皆に向かってそう言った。
山を下っている間、皆静かだった。夕日はもう沈みかけ、夜空に月が顔を出し始めた。
アリスは扉が見えなくなるまで何度も何度も振り返った。
そして、夢のような物語は終わりを告げた。
エピローグ
「皆、今までありがとう。さようなら」
駅前に着いたアリスたちについに別れの時が訪れる。
そしてハートの女王、ルイス、チェシャ猫、メアリーアン、白兎は別々の道を進み始めた。
遠ざかっていく皆の後ろ姿にアリスは思わず叫ぶ。
「またいつか!」
アリスの言葉に驚いた皆は一度振り返る。
そして皆再びそれぞれ別の道へと歩き始めた。
(いつか、再会できたらどんなに嬉しいだろう)
叶わないとわかっていても、願わずにはいられなかった。
アリスは全員の背中が見えなくなるまで、ずっと皆を見送った。
そしてアリス─、真理亜は全員に背を向けて歩き出す。
一瞬、どこからか白雪姫の、姉の歌声が聞こえたような、そんな気がして、真理亜は一度足を止める。
(気のせいか…)
思いを振り払うかのように真理亜は首を振り、再び歩き出した。
遠いどこかで、物語のページは風に吹かれて飛んでいった。
ここでひとまず物語は終わります。
読んでくださった方、本当にありがとうございました。
いつか続きを出すかもしれません。そのときはまたよろしくお願いいたします。
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