第6章 好奇心は災いのもと
─この世界にはまだ、私たちの知らない謎がある。
この作品は「不思議の国のアリス」と「白雪姫」のオマージュ作品です。
「不思議の国のアリス」と「白雪姫」のキャラクター名を使わせていただいてますが、キャラクターの性格は原作と異なる場合があります。
第6章 好奇心は災いのもと
「メアリーアンってお茶入れるの上手ね」
アリスはもくもくと立ち上る白い湯気を見て言った。
「あら、そうですか?うれしい」
メアリーアンは「うふふ」と、薄いピンク色の唇を綻ばせる。
「お茶を入れるメアリーアンも素敵だ!」
白兎はメアリーアンの回りをぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「兎、あんまり動くな。紅茶にほこりが入る」
「チェシャ猫のお茶なんて知らないよーっだ」
「…メアリーアンの入れたお茶だぞ」
「わー!ごめんなさい!」
アリスたち登場人物が自由になった日から、登場人物たちは自由気ままに暮らしていた。
この日アリスたちは、ハートの女王の庭でお茶会をしていた。そんな時、アリスが言ったのだ。
「私、森を探検してみたいんだけど」
「なんでー?」と白兎は首をかしげる。
「だってせっかく自由になったんだし、森の奥がどうなっているか気になるもの」
「いいね!楽しそう」
アリスの提案に白兎は食いつく。
「私も少し気になるわ。ルイスは?」とハートの女王。
「僕も行ってみたいな。チェシャ猫くんはどう思う?」
「行くー!」
チェシャ猫は意外と乗り気だった。だが、そんなチェシャ猫とは反対にメアリーアンは黙ったままだった。
「どうしたの、メアリーアン?」
アリスは心配そうに訪ねる。
「何でもないわ。行きましょう」
そう言ってメアリーアンは笑ったが、なぜかその笑顔が不安そうに見えてアリスは首をかしげた。
♤ ♡ ♧ ♢
静かな森の中は昼間なのに暗い。
僅かに足元を照らす木漏れ日を頼りにアリスたちはどんどん奥へ進んでいく。
「…こんなに広かったのね」
歩き疲れたアリスは肩で息をしながら呟く。
そんなアリスを置いて、白兎は森を駆け回り、ルイスとチェシャ猫は、二人で何やら植物の話をしながら先を歩いている。
土は少し雨水で湿っていて、ひんやりとした空気がアリスたちを包み込む。
(こんなにリアルなのに、ここは作られた世界なのね…)
そう、アリスたちの産みの親、ルイス·キャロルによって。でも…。
(本当にそうなのだろうか。もし、違うとしたら…?)
こんなことを考えるのは、初めてだった。
「おーい、みんなー!こっちに来てー!」
先に行ってしまった白兎の声だった。
「なんか変な扉があるんだけどー!」
(変な扉…?)
「ちょっと待って、今行くー!」
アリスはそう返事をして白兎の方へ向かう。だが、どこを見ても扉は見つからない。
「扉なんて、どこにもないじゃない」
「あるよ!ほら、ここに」
そう言って白兎はレンガでできた壁から、つたの葉を引き剥がした。すると、鉄でできた重そうな扉が現れた。
そこへアリスと白兎以外の皆も集まって来る。チェシャ猫はじっと扉を見つめている。
「チェシャ猫さん、どうしたの?」
アリスの言葉にチェシャ猫は答える。
「この扉、雨の当たる部分だけ…錆びているんだ」
チェシャ猫の言葉を聞き、ルイスは突然青ざめる。
「つまり、この世界に時の流れが、時間が存在するってことだよね…?」
そう言ってルイスはチェシャ猫と視線を交わす。
「…このプログラミングされているはずの世界に」
♤ ♡ ♧ ♢
この世界はルイス·キャロルによってプログラミングされた仮想世界で、時間なんて存在するはずがない。だとしたら、これはどういうことか。
「まさか、この世界はプログラミングされた世界なんかではなく、現実世界にあるのか…?」
チェシャ猫の声が反響する。
アリスはもう一度扉を見る。確かにチェシャ猫の言う通り、扉自体は新しそうなのに雨水の当たる下の部分だけが錆びている。それに、さっき白兎の剥がしたつたの葉の形がついている。
「でも、僕たち小さい頃の記憶なんてないんだよ。気づいたときには物語の登場人物として、物語通りの生活をしていたんだよ。どう考えても、ここはプログラミングされた世界じゃないか」
白兎はそう言うが、皆は黙ったままだった。
「確かに、ここは現実世界とは少し違う気がしる。でも、まだわからないことだらけだ…」
そうチェシャは呟く。
アリスは扉の取っ手をつかみ、手にぐっと力を込める。すると扉は、案外簡単に開いた。
扉の向こうには、森がずっと広がっている。
「行ってみようか」
そう言ってアリスは扉の向こうの土地に一歩踏み出した。
(この先に何があるかはわからない…)
でも、アリスは行かずにはいられなかった。
そして物語の歯車は音をたてて動き出した。
「…不思議の国のアリス─、か」
次回、新キャラ登場。
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