第5章 物語の結末
─物語はこれからどうなるのかな。
この作品は「不思議の国のアリス」と「白雪姫」のオマージュ作品です。
「不思議の国のアリス」と「白雪姫」のキャラクター名を使わせていただいてますが、キャラクターの性格は原作と異なる場合があります。
第5章 物語の結末
「これが前の物語の結末なんだよ。結局私はハートの女王。悪役にしかなれないのよ」
そう言って苦笑したハートの女王の目の中で悲しげな光が揺れた。
「…私、知らなかった。ルイスが作者の分身だったなんて」
「………」
ハートの女王は黙り込んだままアリスを見つめる。そして、アリスの持っている本に気づいた。
「アリス、その本は…?」
「ああ、この本は物語の原作本なの。ページを破いてしまったんだけど…」
アリスは黙ったまま、じっと原作本を見つめる。
「どうしたの、アリス?」
「…ページが余ってる。もしかして…!」
アリスはエプロンのポケットからペンを取り出す。
「…ルイスのことを書いたら、ルイスは戻って来るかもしれない!」
そう言ってアリスはペースを動かす。まるで何かに取り憑かれたかのように文字を書くアリスにハートの女王は思わず、
「そんなことをしても無駄よ!」と叫ぶ。
ハートの女王の声にアリスは手を止め、我に帰る。
「…ルイスはもう、戻って来たりなんてしないわ」
「ルイスは戻って来ない…?」
アリスは呆然と呟き、もう一度自分の書いたら文字を見つめる。
「でも、私たちが自由になったのは確かよ」
「自由…?そうだった。私たち、もう物語に縛られずに生きていけるんだった…」
ハートの女王の言葉でアリスはやっと思い出す。
「…自由って言っても、なんだか実感がないや」
「本当にその通りね…」
野原に吹いたそよ風は、アリスの髪を静かに揺らした。
そんな様子を影からこっそり見ていたのは、白兎、チェシャ猫、メアリーアンだった。
♤ ♡ ♧ ♢
「ねえ聞いた?僕たち、もう自由だって」
「兎、声が大きい。もう少し静かにしろ」
「…それにしても、ハートの女王にも色々あったのね」
そう言うメアリーアンに、チェシャ猫は言う。
「ああ、あの計画の話か。アリスを利用したってやつ」
「えー!ハートの女王、アリスを利用したの?悪いやつ!」
「兎さん、静かに」
「ごめんメアリーアン」
「兎、お前さっきのハートの女王の話、全く理解してないな」
「うん。難しくてあまりよくわからなかった」
「……だろうな」
白兎の言葉にチェシャ猫はあきれて笑う。
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「そこでコソコソと話をしているのは誰かしら?」
「げ!ハートの女王!」と白兎が喚く。
「げ!って何よ。首をはねるわよ」
「うぅ、ごめんなさい」
「あ、僕ちょっと思い出したことがあるからちょっと行って来る!」
そう言ってチェシャ猫は森の方へ駆けて行った。
「おい、待て!逃げるなー!」
そう叫ぶ白兎にチェシャ猫は舌を出す。
「あの、ハートの女王、ごめんなさい。盗み聞きをしてしまって」
「あら、メアリーアンまで聞いていたの?」
ハートの女王は目を見開く。
「そういえば、僕たち自由になったんでしょ?」
「ええ、そうだけど…」
「兎さん、どうしたのです?」
メアリーアンに聞かれて、白兎は答える。
「なんで皆、あんまり喜ばないの?」
「だって、私たちは自由になったけど…ルイスは戻って来ないもの」
そう言ってハートの女王は目を伏せた。
「ルイスって、さっき言ってた作者の分身の人のこと?」
「そうよ」
「そっかぁ」
その時メアリーアンがぽつりと呟いた。
「実は私…ルイスのこと、少しだけ覚えているんです」
「え?物語から省かれた登場人物は、他の登場人物たちに忘れられてしまうんじゃないの?」
ハートの女王は驚きを隠せずに、メアリーアンを見つめる。
「ええ、通常は。私が特殊なんだと思います」
「そんなこともあるのね…」とハートの女王は小さく呟いた。
その時、森の方からチェシャ猫がやって来た。
「ねえ、さっきから皆が言ってる人って、この人のことじゃない?」
そう言ったチェシャ猫の後ろには…。
─なんと、ルイスが立っていたのだ。
「ルイス!」
アリスはルイスの方へ駆け寄る。
「ルイス、どうして…」
目の前に立っているルイスの姿にハートの女王は呆然とする。そんなハートの女王に、ルイスはあの日と同じように目を細めて笑った。
思わず涙が出そうになって、ハートの女王は必死にこらえる。
「この人がルイスかぁ」と白兎は呟く。
「ありがとう。アリスのおかげで僕は消滅の森から出ることが出来たよ」
「ほらね、ハートの女王。私のしたことは間違いじゃなかったみたいよ」
そう言ってアリスはいたずらっぽく笑った。
「そうみたいね」
アリスの笑顔にハートの女王も困ったような笑みを返すが、突然ルイスに向かって言う。
「…ていうか、ルイス。貴方、何でそんなに平気そうな顔して帰って来るのよ!こっちは大変だったんだから!」
ハートの女王はもう、怒っているのか泣いているのかわからなかった。
「ごめん。…ただいま、女王」
そう言ってルイスは困ったように笑った。
そんなルイスとハートの女王のやり取りを見て、白兎はぽつりと呟く。
「ハートの女王って、ルイスのこと好きなの?」
「兎さん、今は少し黙りましょうね」
メアリーアンは笑顔のまま怒る。
「ごめんなさい…」
「やっぱり兎は頭悪いな…」
チェシャ猫は一人でそう呟き、「なはは」と笑った。
♤ ♡ ♧ ♢
白い肌、林檎のように赤く染まった頬。
森の中で少女は一人呟いた。
「…早く、来ないかなぁ、アリス」
次回、アリスたちは真実に近付いていく─。
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