第3章 主人公
物語の鍵はいつだって、Alice ─。
この作品は「不思議の国のアリス」と「白雪姫」のオマージュ作品です。
「不思議の国のアリス」と「白雪姫」のキャラクター名を使わせていただいてますが、キャラクターの性格は原作と異なる場合があります。
chapter:第3章 主人公] 「貴方は誰?それに…」
アリスは言葉を切り、少年をじっと見つめる。
「…なぜ私のことを知っているの?」
(こんな人、登場人物の中にはいないのに。どうして…)
「僕はルイス。どうして僕が君のことを知っているか、と聞いたね。それは…」
ルイスと名乗った少年とアリスは向かい合い、言った。
「僕は物語の書き直しによって、物語から省かれた登場人物だからさ」
そう言ってルイスは寂しそうに笑った。
「ここは消滅の森といってね、物語から省かれた登場人物たちが来るところだ。物語が変わりかけている時だけこの森への道は開かれる。君がここへ来ることができたということは、今物語が変わりかけているのかい?」
「えぇ、そうなの。私、ハートの女王を探しているんだけど、ハートの女王がどこにいるか知らない?」
「いや、知らないよ」
[newpage]
アリスは慌てて時間を確認する。
物語がスタートしてからちょうど1時間。そしてタイムリミットまであと1時間。
「ルイス、ごめんなさい。私急いでいるの。行かないと」
アリスが立ち去ろうとしたその時、ルイスはアリスの手をつかんだ。
「待って、アリス!」
「え…?」
ルイスはアリスを説得するように言った。
「君は物語の主人公なんだろう?なら、君がここへ来たのは正解だ」
「なぜ?」
「君は物語通りの生活なんかもうしたくないだろう?自由になりたいと思わないかい?」
「…思うけど、今はそんなこと」
「できるよ」
「え…?」
アリスはルイスの蒼色の瞳をじっと見つめる。
「君は自由になれるよ」
ルイスは優しい声でそう言い、微笑む。
「どうやって?」
「物語をなくしてしまえばいいんだ。…そこに本があるだろう?」
ルイスの目線をたどると、切り株にのった1冊の本があった。
「その本はこの世界の物語の本。つまり、
──『不思議の国のアリス』の原作だ」
アリスは驚き、目を見開く。
[newpage]
「その本は物語の主人公だけが触れることができる。さぁ、アリス。その本のページを破いて」
アリスはそっと本に手を伸ばす。表紙には「Alice in wonderland 」の文字が光っている。アリスは静かにその文字を指でなでる。
(これが原作本…)
本当にいいのだろうか。もし、取り返しのつかないことになったら。
なぜか胸騒ぎがした。
「ねぇ、本当にいいの?私がページを破いてしまっても」
「ああ、だから早く。物語が書き直されてしまうよ」
ルイスの言葉にアリスは頷きページのすみを持ち、破こうと手に力を入れたが、はっと手を止めルイスの方を見る。
「ルイスは…ルイスはどうなるの?」
「どうなったっていいじゃないか。なぜそんなことを聞くんだい?」
「だって…ルイスが心配なのよ」
するとルイスは言った。
「僕はもうこの森から出ることはできない。すでに物語に存在しない人物だから。もうどうにもならないんだ」
「そんな…!」
「さぁ、アリス。ページを破くんだ!」
「でも…」
ルイスはうつむくアリスの手を取り言った。
「お願いアリス。僕はこの時のために今まで頑張ってきたんだ。だから」
必死なルイスの表情にアリスは仕方なく頷く。
「…わかった。ルイス、ありがとう。さようなら」
アリスはページを持つ手に力を入れた。
「ビリッ」と音をたて、ページは破ける。
破けたページはヒラヒラと宙を舞い、ルイスとの別れを物語る。
「さようなら、アリス」
[newpage]
♤ ♡ ♧ ♢
気がついた時にはアリスは野原に立っていた。
手にはまだ、ページの破れた原作本を持ったままだった。
隣を見ると、ハートの女王が座って本を読んでいる。
そしてハートの女王はアリスに向かって言った。
「ねぇ、アリス。私たち自由になったよ」
「なぜハートの女王がそのことを知っているの?」
アリスはハートの女王が手に持っている本を見て、目を疑った。なぜならその本はアリスが図書室で読んだ「物語の書」であったからだ。
「まさか、最初から…」
「ごめんね、アリス。私は貴方を利用したの」
思えば、最初に役を交換しようと言ったのはハートの女王だった。
最初からアリスはハートの女王の手のひらの上だったのだ。
「どうして、そんなことを…」
「ずっと前にルイスと交わした約束を守るためよ」
「ルイス…?」
「ずっと前の話だけど…聞いてくれる?」
次回、ハートの女王の過去が明らかに。
読んでくださりありがとうございました。
無断転載、使用は禁止です。
また、この作品は次のページにも掲載しています。
pixiv
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16559661