第2章 書き直し
物語が変わってしまう前に─。
この作品は「不思議の国のアリス」と「白雪姫」のオマージュ作品です。
「不思議の国のアリス」と「白雪姫」のキャラクター名を使わせていただいてますが、キャラクターの性格は原作と異なる場合があります。
第2章 書き直し
「あれ、何だろうこの本」
図書室で本を読んでいたアリスはテーブルの上に置いてある一冊の本に目を止めた。その本の表紙には「物語の書」と書かれている。アリスはその本を手に取り、パラパラとページをめくる。
すると突然アリスの手が止まった。なぜならそのページには「“災い”について」と大きな見出しが書いてあったからだ。
アリスはゆっくりと文字を読んでいく。
『災いとは《リセット》のことである。物語通りの生活をしないと物語は書き直され、新しい物語となる。その時登場人物たちの記憶は消去される。だが、登場人物が消えてしまう場合もあるので気をつけなければならない』
そこまで読んでアリスは絶句した。
登場人物が消えてしまう場合もあるって…まさか。
(私たちのうち誰かが消えてしまう可能性があるってこと…?)
「そんな…どうしよう!」
何か手段はないのかとアリスは本のページをめくる。
「あった!物語を変えてしまったときの対処法…!」
『物語を変えてしまった場合、2時間以内に物語を再スタートさせる必要がある。そうすれば書き直しはされない』
「…ということは、ハートの女王を探さないと!」
物語がスタートしてから約40分。あと1時間20分でハートの女王と共に物語を再スタートしなければいけない。
アリスは慌てて図書室を飛び出した。
♤ ♡ ♢ ♧
「おーい、チェシャ猫ー!」
空を見上げてぼーっと考え事をしていたチェシャ猫の方に白兎が走ってくる。
「ねえねえ、僕とんでもない秘密を知っちゃったんだけど、アリスとハートの女王が役を交換してるんだ!」
「それくらい知ってるよ。全然秘密じゃないぞ。頭悪いなお前」
「なんだとー!そんなことを言うとメアリーアンに嫌われちゃうぞ」
「あら、チェシャ猫さんに兎さん。どうしたのですか?」
そう言って現れたのはコートに身を包み、上品に微笑むメアリーアンだった。
「メアリーアンだ!」
兎はメアリーアンを見ると、チェシャ猫にばかにされたことなんて忘れて目を輝かせた。
「今日も素敵だし大好き、メアリーアン!」
「うふふ、兎さんったら」
メアリーアンは照れくさそうに頬を赤らめる。そんな様子を見ていたチェシャ猫は言う。
「おい、兎。もう少し落ち着け。今は緊急事態だぞ。だいたいいつもお前はメアリーアンに向かって同じことを言っているんだし、今日くらい黙っていられるだろ」
「無理だよ。だってメアリーアンがきれいなんだもん」
「確かにチェシャ猫さんの言う通りね。今はそんなことを言ってる場合じゃないのよ、兎さん」
「え、メアリーアンも女王とアリスが役を交換していることを知ってるの?」
「えぇ、知っていますよ」
「ええー!僕、ものすごいことに気づいた天才だと思ったのに。皆知ってたなんて!」
白兎はガクリと肩を下ろす。
「兎さん、落ち着いて。まずは今どうすべきか考えましょう」
「はーい…」
メアリーアンの言葉に白兎は小さく返事をする。それを見てチェシャ猫はニヤリと笑った。
♤ ♡ ♢ ♧
「ここにもいない。ハートの女王、どこに行ったんだろう?」
アリスは森の中でハートの女王を探していた。
(ここから先は行ったことがない。でも…)
ハートの女王が見つからないと、物語の再スタートはできない。そして、物語は書きなおさてしまう。
(行くしかないんだ)
アリスは心を決めて森の奥地へと足を踏み入れた。
「ハートの女王、どこにいるのー?」
アリスは大きな声で呼びかけるが、辺りはしんとしている。
その時だった。
「やぁ、アリス」
アリスは声のした方を振り返る。そこには 金髪の小柄な少年が立っていた。
次回、少年は一体何者なのか─?
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