プロローグ~第1章 流るる時に永遠を
「不思議の国のアリス」と「白雪姫」のオマージュ作品です。
「不思議の国のアリス」と「白雪姫」のキャラクター名を使わせていただいてますが、キャラクターの性格は原作と異なる場合があります。
下へ、下へ、下へ。いったいどこまで落ちたら、終わりになるのでしょう?
──不思議の国のアリスより
プロローグ
「本当に良かった、目が覚めて。お姉ちゃん、死んじゃうのかと思った」
「大丈夫よ、少し眠っている時間が長かっただけよ」
「少しじゃないよ!本当に心配だったんだから。もう二度と目覚めないのかと思ったんだから!」
「でも私、幸せな夢を見ていたのよ」
「…お姉ちゃんは夢の中で幸せなら、ずっと目覚めなくたっていいの?」
「そうね、幸せな夢なら目覚めなくたっていいと思うの。例えそれが夢だと気づいていたとしても」
いつか姉はそう言っていた。
私にはそんな姉の気持ちがわからなかった。
そう、今でもずっと。
第1章 流るる時に永遠を
ここは「不思議の国のアリス」の世界。登場人物たちは物語通りに生活しなければいけないと定められている。物語を変えるとこの世界に“災い”が降りかかると言われているからである。
(なのにどうしてハートの女王は…)
アリスは思わずため息をつく。事の始まりはハートの女王の一言だった。
今日の物語は終わり自由時間に入った時、ハートの女王は言ったのだ。
「ねぇ、アリス。一回だけ役を交換してみない?」
「え、ハートの女王、何を言ってるの?この世界の掟を忘れたの?」
「掟…?あぁ、覚えているわよ。物語通りに生活しなければいけないってやつでしょ?」
「そう、それのことよ。物語を変えると“災い“が…」
「もし“災い”なんて嘘だとしたら?それに物語を変えなければいいんでしょ?役を交換したって、物語そのものは変わらないわよ」
「でも…」
「あら、アリスは何百回も同じことを繰り返しても飽きないのね」
「……わかった。それじゃあ明日だけ役を交換してみましょう」
アリスがようやく頷くと、ハートの女王は目を輝かせて言った。
「嬉しい!私ずっと主人公になってみたかったのよ。悪役はもううんざり。明日が楽しみだわ」
そう言ってハートの女王は笑ったがアリスは正直まだ不安だった。
「じゃあ、また明日ね」
笑顔で手を振りながらハートの女王は去っていった。
(本当にいいのだろうか…)
考えても考えても結論は出てこなかった。
このできごとが、全ての始まりだった。
♤ ♡ ♢ ♧
今日は私がハートの女王になる日である。
アリスは自分の胸が高まっていることに気づいた。
(本当は私も楽しみだったのね)
その時、ふとアリスは思う。
─何故私たちは、物語の筋書き通りの生活を繰り返しているんだろう?
いつから、何のために─?
…わからない。
いくら考えても、何もわからないのだ。
何も言えずにアリスは空を仰いだ。
♤ ♡ ♢ ♧
そしていよいよ今日の物語がスタートした。
ハートの女王という役はアリスが思っていた以上に出番が少なかった。出番のない場面では好きなことをしていられる。城のなかには大きな図書室があったはずだ。
「ハートの女王っていいなぁ」
出番は少ないし、本をたくさん読める。
(図書室に行ってみようかな)
そんなことを考えているときだった。
「どうしてアリスがここにいるの?」
声の方を見ると、そこには白兎が立っていた。白兎は不思議そうにアリスの顔をのぞき込む。
「別にいいの。今日だけ私はハートの女王なのよ」
「えー!なんで?僕もアリスになりたいのに」
(困ったな…白兎に見つかるなんて)
正直にいうと白兎に見つかると面倒なのだ。
「…ていうか、ダメなんだよ。物語通りにしてないと」
「うるさい、首を跳ねるわよ!」
アリスはとっさにハートの女王の真似をした。
「うわぁ、アリスなのに怖い!」
大声で騒ぎながら白兎は逃げていった。その後ろ姿にアリスは「ふふっ」と小さく笑う。
「ごめんね、兎さん」
(さて、図書室はどこだっけ)
アリスは軽い足取りで歩き始めた。
♤ ♡ ♢ ♧
アリスが図書室へ向かい始めたころ、ハートの女王は森の方を走っていた。
「君のせいで物語は変わってぐちゃぐちゃになってる。こんなところで何してるの、アリスじゃないハートの女王?」
そう言ったのはチェシャ猫だった。
「貴方には関係ないでしょ。私にはやらなければいけない事があるの。ついてこないで!」
ハートの女王は強い口調で言い返すと、走り去ろうとする。そんなハートの女王に向かってチェシャ猫は言う。
「関係なくなんかないよ、僕だって物語の登場人物なんだから」
チェシャ猫の言葉を聞いてもハートの女王は足を止めず、チェシャ猫は思わずハートの女王の後ろ姿をにらむ。
「ハートの女王、君が何をたくらんでいるのか絶対に暴いてやる」
チェシャ猫はそう言い捨てるとハートの女王が向かった方向とは逆のほうに走っていった。
ハートの女王はチェシャ猫がいないことを確認すると、ぽつりと呟いた。
「私には、やらなければいけないことがあるのに。…守らないと、約束したんだもの」
読んでくださった方、ありがとうございました。
少し続きます。
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