とある終演。そして、始まるのは
プロット書いたら満足したので供養します。
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ループで狂った王妃と贖罪を選んだ青年
……遠くから鐘の音が聞こえる。
革命軍の突入により、血塗れになっていく城内。
そこらかしこで血と炎の赤い花が咲き、人々の悲鳴が響き渡る。
阿鼻叫喚の渦の最中、一人の青年が数多の兵士を切り捨てながら、城を駆け抜ける。目指すは玉座の間。固く閉ざされた扉の錠を魔法で融かし、蹴破って中に侵入する。
玉座にいたのは、凍れる氷狐と呼ばれた王妃。青年と顔を合わせた瞬間、恐ろしい笑みを浮かべた。
王妃:やっとだ……やっと来たなァ!
青年:何だと?
いぶかしむ青年。
王妃は、こんな女性だったのか疑問を得る。
王妃:あぁ、赤く染まった城、鉄さびと油の匂い……!なんて懐かしいことか!今頃、私の侍女も、従僕も、皆あの絵画の一部になっていることだろうよ!
不穏な言葉に眉を顰めつつ、気狂いを見るように王妃を見る。
王妃:今、私を気狂いだと思ったろう?
心を読まれたかと青年は警戒する。
王妃:何故わかるかって?それは前のお前が言っていたからだよ。蔑むように、冷たい目をして、な。
前、とはなんだ?
青年には身に覚えがない。……少なくとも、王妃にそのような言葉を言った記憶はない。
王妃:忘れるものか忘れるものか忘れるものか!
王妃:何度裏切られたか。王に、宰相に、騎士達に、民達に!!何度裏切られたと思っているのだ!!
王妃:私は何でもやった!性根を正した!市井に逃亡した!汚い男どもと床を共にした!聖女のように振る舞った!人を殺した!
王妃:でも、全て意味をなさなかった!!
青年はふと、ループ転生と言う言葉を思い出した。自身のルーツである今は亡き魔女の国に伝わる言葉で、同じ人間の人生を何度も繰り返すことをさす。
かつての大魔導士か、神か、悪戯な精霊王が関わる天災。条件をクリアするまで終わることはない。
王妃:革命軍に城を開かれれば、夫である王は一目散に寵姫と共に逃げ出し、忠臣は散り散りになり、王族は高笑いしながら優雅に毒杯を煽る。
王妃:代わりに私は囮としてこの玉座の間に取り残された。……ご丁寧に逃げ出せないよう、足は斬りつけられ、玉座には縛り付けられてなァ?
ふと見ると、王妃の足元からは血が滴っている。足の腱を切られているらしい。
そして、ドレスにつけられた豪奢なレースで沈み分かりにくいが、胴体部分は紐で固く縛られていた。
……気が付かなかった。
王妃:ぼんくら王子との婚約から逃れようとしても逃れられず。無理矢理娶合わされた夫の関心を買おうとしても寵姫や忠臣が邪魔をし。ついには命を絶とうとしたが、悉く失敗する始末よ。
青年:死を、望んだ?
青は、息を呑む。
王妃:そうだ。私は何度も死のうとした。
王妃:懐刀で胸を突き、シーツで首を括り、フォークで喉を刺し、猛毒を喰らい、バルコニーからは飛び降り、真冬の湖には飛び込んだ。だが、死ねなかった。何故か失敗した。
王妃:まるで、今日この時までは生き延びられるように神が示し合わせたように。決して!
王妃:そして、いつも最後には私の前にお前が現れる。
青年:……っ!
たたらを踏んで、後ろへとよろめく。これ以上は聞きたくない。認めたくない。
王妃:何度も繰り返した生の中で、私は全てを失った。愛も、夢も、希望も、命さえもな!
王妃:だが、一つの救済があった。その先には果てない絶望が待っているが、私は最早それにすがるしかなかった。
王妃の視線がぎょろりと向き、青年に突き刺さる。
王妃:もう分かっているだろう?お前だよ。
王妃:何度繰り返しても、最期に私を殺したのは、お前の他にはなかった。
王妃:今回はどうする?またその剣で私を裂くか?魔法で焼き尽くすか?ベルトで首を絞めるか?殴り付け、蹴りつけ、痛め付けてから殺すか?頭が割れるまで逆さ吊りにするか?玉座ごと庭に投げ捨てられたこともあったなァ?その胸元には、毒の小瓶があるだろう?そして、ピアスは小型の爆弾だったな?ほら、どちらを飲ませてもいいぞ?もう経験済みだがな!!
途中でびくりと肩を跳ね上げさせた。全身がガタガタと震える。口を押さえ、目からは涙が止まらない。
王妃:さぁさぁさぁ!今すぐ殺せ!私を解放しろ!!私を殺せるのは、お前だけなのだから!!
王妃:そして、血塗られた偽りの歴史に名を連ねるがいい!史上稀に見る暴虐の限りを尽くした、傾城の女狐である傲慢なる悪妃を殺した英雄としてな!!
もう、何も、聞きたくなかった。
必死で術を編んで、青年は王妃に魔法を飛ばす。顔すら見ていられなかった。
王妃:あぁ、今回は呪殺か……苦しみも、痛みもない、眠るような最期……
王妃:さて、次はどう生きようか?言葉を忘れようか、子供の振りをしようか。狂人の真似事を、もう一度試そうか。
王妃:どうせ結末は変わらないから、何をやっても、許される……だ、ろぅ?
かつてなく穏やかに死んだ王妃は、玉座から解放され、絨毯の上へと寝かされていた。死に顔は眠っているかのようだ。しかし、厚く塗られた化粧で分かりにくいが、長時間の出血により血の気は失せ、顔面は蒼白だった。
青年は、王妃を見つめたままだらんと腕を揺らして立ち尽くし、ひたすらに涙を流し続けている。
そこへ背後から男がやって来た。青年の仲間で、革命軍の幹部だ。
男は横たわる王妃が死んでいることに気づくと、青年を問い詰めた。
モブ:お、おい!王妃は殺さないんじゃなかったのか?!
青年:……あの方が望まれたのだ。
青年は顔も合わせず、呆然と呟く。
モブ:はぁ!?マジかよ……あんなしぶとそうなのによ……
青年:俺が思う以上に繊細だったあの方は、もう、壊れてしまっていたのだ。全て、俺の、せいで。
モブ:何いってんだよ。お前、王妃様とまともに会ったことねーじゃん!
モブ:あーぁ、美人だったのにな。もったいねぇ。
慰めるよう青年の肩を叩き、男は玉座の間を去っていった。
そして、青年が気持ちの整理をつけたいだろうからと、暫く玉座の間には誰も入らないように手配する。
青年:もう、全てが手遅れだった。今更どうにかしようとも、あの方の心は戻らない。
青年:もっと早く気付いていれば、あの方は……?
青年は、王妃を殺す自分の姿を予知していた。正確には、未来から自分が後悔した記憶が送られてきたのだ。
魔女の国の末裔な青年だからこそ可能だった、今も昔も禁忌とされる魔法だった。過去改変すら出来てしまう魔法だから。
だが、青年が思う以上に王妃の絶望は深く、どうしようもない域に達していた。
諦観、憎悪、悲哀、愉悦。全てが混ざった濁った瞳は、永久凍土のように凍りついてしまっていた。まるで、他者の干渉を拒むように。
そして、その最たる原因に、自分も含まれていた。あらゆる手段で王妃を害した自分。
到底許されることではない。
青年:次も俺が参りましょう。共に繰り返しましょう。我が女王。
忠誠を誓うように、青年は王妃の指に口づけた。
その夜、玉座の間から青年と王妃の死体が消えた。血のあとすらも、消え失せていた。
以降、青年の所在を知るものはいない。
この作品については、設定は作りましたが、後日談や前日譚は考えてないので、誰か継ぎ足してくれないかな、と思ってます。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。