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コールドスリープから目覚めたら異世界だった……?  作者: 戀塚千代澄
第一章 コールドスリープから目覚めたらVRMMORPGの世界だった……?
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第2話 『盲目の魔女』

 瞼を開らくとなぜか自分が古代遺跡の神殿のようなところにいることを僕は発見した。

 僕が寝ていた場所はおそらくこの棺――石のようなものでできた大きな箱だ。



 棺のような形をしたその箱は装飾があまりないシンプルなデザインでありながら、不思議と荘厳な雰囲気を感じさせた。

 材質は大理石のようなもので出来てるようだが、大理石と少し違うようにも見える……

 触ってみると石のように硬いのに石より少し肉に近い質感のようにも思えた。



 脈を打っている……?

 石が脈打つはずは無いけど、僕には不思議とそんな感じがした。

 石を触った手には仄かな温もりを感じる。



 魔法陣?のようなものが棺の周りには描かれていて、淡く青白く発光している。

 魔法陣の外周の円はゆっくりと回転しているようで、そこには見覚えのあるような無いような文字が刻まれている。

 どうやら読むことは出来なさそうだ。



 ふと目を前に向けるとそこには一人の女性が立っていた。

 その女性は黒いローブを身に纏いフードを目深に被っているので、こちらからは彼女の表情がよく見えない。


 フードの中に収まらなかった彼女の長い髪は腰の辺りまで伸びている……

 あの色は藤色と灰色を混ぜたような色だろうか?

 綺麗な髪の色をしているなと思ってじっと彼女を見つめていたら、彼女の方から話しかけてきた。



「あなたは誰? そこで何をしているの?」



 冷凍睡眠(コールドスリープ)から目覚め、まだ頭がぼんやりしている僕にとっては難しい質問だ。

 「何をしているの?」と聞かれても「寝てましたけど?」としか答えようが無い。

 こちらが答えに窮しているとあちらが更につづけた。



「私は銀等級冒険者、『盲目の魔女バロラ』よ。あなたの名前は?」



 一瞬、「あれ? もしかしてこれがあの有名な異世界転生ってやつか!?」と僕は少しテンションが上がったが、すぐに気がついた。

 そうか、これはVR(仮想現実)のゲーム世界に違いない。


 冷凍睡眠(コールドスリープ)から目が覚めたら、目の前にはファンタジー丸出しの遺跡みたいな空間が広がっており、おまけに自分は棺の中で寝ていた。

 更におまけに冒険者ときたら、仮想多人数同時参加型(VRMMO)RPGのゲーム世界以外はおそらく無いだろう。


 完全没入型仮想現実(フルダイブ型VR)なんだな……

 この世界で感じる五感は僕の脳に直結しているようだ。


 遺跡空間の埃っぽさ、すえた匂いやカビっぽさは思わず咳きこみたくなる程だ。

 身体(アバター)の操作も、わざわざコントローラーで操作せず、現実世界と同じように自分の意識だけで自由に動かせる。


 おそらく頭に「脳とコンピュータをブレイン・コンピュータつなぐ装置(・インタフェース)」でもかぶせてあるのだろう。


 僕が冷凍睡眠(コールド・スリープ)で眠りについた2030年の時点ではまだ準・完全没入型(セミ・フルダイブ型)VRという中途半端なものしか存在しなかった。

 それでもその時点ですでに頭に設置した「脳とコンピュータをブレイン・コンピュータつなぐ装置(・インタフェース)」は使用者の脳の電気信号を読み取り、VR空間内の身体(アバター)を動かすことが出来ていた。


 当時はまだ「歩く」、「走る」、「ジャンプする」といった単純な動作しか行えなかったし、物を手に持った時の感触や「甘い」、「しょっぱい」、「すっぱい」といったいくつかの限られた感覚を大まかにしか再現できなかったが、このVR空間ではかなり多くのことが実現できているようだ。


 これだけリアルだと()()()()()()()()()()な……

 そこまで技術が進歩したのかと思うと少し感慨深い。 




 問題は「なんで冷凍睡眠(コールドスリープ)をしていたはずの自分が現実世界で目覚めるのではなく、いきなりVRゲームの世界にいるのか?」なのだが、もしここがゲームの世界ならうっかり本名をばらしてしまうのもあまりよろしくないな……


「僕は『()()』。二つ名とか通り名の類は無いよ。今、さっき目覚めたばかりでまだ状況がよく分かってないんだ」


 『()()』というのはうちで昔飼っていた猫の名前だ。

 僕はVRMMOをプレイする時にいつもその名前を自分のキャラクター名として使っていた。


「そう……ところであなたは人間なの?」



 バロラと名乗った女性は少し慎重に様子を探るようにして尋ね、更に慎重に探りを入れるような眼差しをこちらに向けてきた。

 フードで隠れていて相手の目は見れないけれど、こちらの全てを見透かさんとするような意思がこもった眼差しを感じる。


 バロラは何かに納得したのか、


「大丈夫そうね……」


 とつぶやき、警戒態勢を解いてくれた。




 バロラから話を聞くとどうやらここは「なんたら級」とかいうランクに分類される難関ダンジョンの深層に位置する場所らしい。

 バロラは冒険者ギルドからの任務(クエスト)を受け、このダンジョンの深層にある封印された箱の中にあるお宝を持ち帰るように言われたようだ。


「貴重なお宝だったらギルドに報告しないでネコババしちゃおうかとも思ったけど、中身が人じゃあね?」


 と、バロラはおどけてみせたが、もしかしたら半分本気で言っているのかもしれない。



「とにかくこんな場所に長くいると危ないわ。難関ダンジョンの深層なんて何があるか分かったもんじゃない。あなたも目が覚めてすぐに死んだりはしたくないでしょ? 私についてきて」


 と言われ、他に選択肢も無いので僕はバロラの言うとおり従うことにした。




 ▼▼▼




 棺があった部屋を出るとより広大な空間が広がっているのが分かった。

 どうやらこの遺跡のようなダンジョンの中で、棺があった場所は比較的小さな部屋だったらしい。


 遺跡はまるで人ではないものの為に造られたかのような規模の大きさで、壁には人の身の丈の10倍はありそうな巨人たちが戦う姿がレリーフとして彫られていた。

 もしこのレリーフにタイトルをつけるなら『神々の戦争』みたいなタイトルがしっくりきそうだ。

 巨人たちの像はまるで生きてるように生々しく、精巧な造りによる美しさよりもむしろ不気味な印象を与えた――。


 ――あれ?動いてる!? いや、そんな訳はないか……?

 レリーフの不気味な印象のせいで何か錯覚を見たのかもしれない。


「ボーっとしてないで、しっかり私の後について来て。下手に壁とか扉とかに触らないでね。どんなトラップがかかっているか分からないから」


 とバロラに言われ、我に返る。


 ゲームの展開としては最初のイベントで何か隠しアイテムが無いかとか探したい気もするけど、彼女の言う通り、トラップがかかっていていきなりゲームオーバーとなっても面白くない。

 それに今はゲームを攻略するよりも、「なんで目覚めたらいきなりゲームの世界の中にいるのか?」の理由を探る方が先決だ。

 ひとまず彼女の指示に従い、極力余計なことはしないことにした。



 途中何度かモンスターに襲われたが、彼女は腕の立つ冒険者らしく、魔法でそいつらを蹴散らした。


 『盲目の魔女』と言うのは「盲目魔法が得意な魔女」という意味ではなく、どうやら彼女自身が盲目ということのようだ。

 途中、戦闘でフードがまくれたことがあったが彼女の目の位置には布のようなものが巻いてあり、その布には何かの文字が書かれていた。

 さっき感じた探りを入れるような視線は、もしかしたら僕の勘違いだったのかもしれない。


 声や雰囲気からもう少し年上かと思ったけど、彼女の容姿は思ったより若く、そして美しかった。

 杖や短剣をかざし、魔法を詠唱して戦う姿はまるでそういう舞踊が彼女の一族に伝わっていたかのようで、踊るように、唄うように戦う彼女の姿に目を奪われた。


 紅蓮に燃える炎の魔法は敵を赤く染め、雷の魔法はまばゆい黄色の閃光を放ち敵を焼き尽くす。

 ダンジョンの中層に差し掛かった辺りで大きな棍棒を持った巨人のようなモンスターに襲われたが、彼女は無数の風の刃をともなう竜巻を発生させ、無慈悲にもそいつをズタズタに切り裂いた。



 中層まででひと段落付いたのか、バロラもほッと一つ息をつき、


「近くにセーフティスポットがあるから――」


 と僕を安全地帯まで案内してくれた。

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